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ニューエイジ・アンビエントを聴く②

ニューエイジ・アンビエントシリーズ第二弾。第一弾↓はこれまで書いた記事で最も反響があったんですよね。理由は全く分からないけど嬉しい限りです。

というわけで今回も最近ちょくちょく聴いてた9枚のアルバムの感想を書いてます。なお、今回の記事から、タイトルにSongwhipのリンクを貼ることにしましたので、聴いたことないのがあればクリック!

Cluster & Brian Eno / Cluster & Eno (1977)

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クラウトロックバンドであるClusterと、アンビエントの第一人者Brian Enoによるアンビエント作品。Brian Enoのアンビエントシリーズがこの翌年から始まることを思うと、このアルバムはプレ・アンビエント的な位置付けになるのかもしれない。とにかく幽玄なシンセの使い方が気持ちいいのと、所々で効果的に用いられるピアノの音色が美しい。まだこの作品ではリズムが入ってる曲も多く、いわゆる「環境音楽」ではないけども、この作品の経験があってのアンビエントシリーズなのだろう(たぶん)。

Gigi Masin / Wind (1986) 

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イタリアのアンビエントの巨匠、Gigi Masinの代表作。Gigi MasinはビョークNujabesが彼の「Clouds」という楽曲をサンプリングしたことで再発見され(最近では舐達麻のFloatinでもサンプリングされている!)、近年のバレアリック・ニューエイジシーンの中で彼自身のアルバムも再評価されたという流れのよう。本作は「Wind」というアルバムタイトルだが水面っぽいジャケットとGigi Masinが生まれ育ったということから、水の都ベネツィアを思わずにはいられない。夜の海や湖などからは吸い込まれるような恐怖感を覚えることがあるけど、本作の深遠なサウンドスケープは暗闇における水(海や湖など)が想起させる得体の知れない恐怖感を思い起こさせる。一方で特徴的なのがトランペットやピアノであって、これらにより抒情性が追加され、ベニスの華やかでロマンチックな側面が表現されているように思う。メロウ・ジャジーアンビエントの名盤に相応しい内容です。

Aphex Twin / Selected Ambient Works Vol.2 (1994)

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これまであまり通して聴ききったことがなかった。いつも途中で寝落ちしたり意識が飛んでたりしていた。そもそもボリュームがすごいのよ。2枚組で計2時間37分。半分でも十分なボリュームなのにあえての2枚組。これを聴き込むのはなかなか大変だと思うけど、みんな大絶賛している名盤である。

Selected Ambient Works 85−92ではあまりにハイセンスなアンビエントテクノを鳴らし新たなエレクトロニックミュージックの扉を開いたが、このアルバムでは一転して不穏で神秘的なサウンドスケープが延々と、淡々と鳴らされる。どうも本人曰く「夢の中で聴いた音楽の再現」らしい。夢の中って自分の中では結構不気味で怖いイメージがあって、そういう意味ではこのアルバムの穏やかさと不穏さのバランスは「夢の中」っぽい。一方で完全にアンビエント一辺倒というわけでもなく、M15、M19のように控えめにビートを効かせた曲もあり、なかなか一筋縄ではいかない印象・・・。とても咀嚼しきれん!

と、本作についてはまだまだ理解からは程遠いところにいると自覚しているのだが、最近ふとした時に流すようになり、徐々に気持ちの良い瞬間も増えてきた。いや、相当良いかもしれない。少なくともこのアルバムを初めて聴いた10年くらい前の自分と比較したらアンビエント耐性が明らかに上がったからか、2時間37分フルで聴いても大丈夫になってきた。多分5年後はさらに好きになっている気がする。

William Basinski / The Disintegration Loops (2002)

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William Basinskiの「The Disintegration Loops」はシリーズモノで全4部作であり、これはその第一弾にあたる。ブツブツと途切れ途切れに挟まれるノイズと甘美なメロディのテープ・ループが永遠と1時間続く、本当に美しい音楽。このアルバムはライヒやイーノに影響されたバジンスキーが80年代にラジオノイズ等を巧みにサンプリングして制作した未完の音源を、2000年代に入ってCD収録用に色々と編集して作成されたらしい。ジャケットは911の光景で、自宅から見える凄惨な風景を延々とカメラに収めていたものから引用。そんな背景を知ってからこの音楽に身を委ねると、よりその美しさが際立つような気がする。この世の儚さ、美しさ、ノスタルジー、混乱、そんな色々な感情が浮かび上がっては消えていく‥。そんな混沌とした姿こそが社会であって人間であるのだ。知らんけど。

Fennesz / Venice (2004)

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Fenneszといえば「Endless Summer(2003)」が有名&超名盤なわけだが、それに続くリリースである「Venice」も負けず劣らずの好盤。前作の抒情豊かなメランコリア的アンビエントの延長にありつつも、よりザラザラとしたドローン/グリッチノイズの波が空間を徐々に侵食していく音像は圧巻の一言で、前作があれだけチルでノスタルジーを誘う音楽だったのに、今作は現実逃避というよりは現実を突きつけてくる類の音楽だと感じる。行ったことがないのでベニスには日の光でキラキラと水面が光る、それはそれは美しい水の都みたいなイメージを持っているんだけど、この音楽を聴いていると夜になるとガラッと表情を変えるベニスの風景がイメージでき、いつか海に沈むと言われているベニスの抱える闇が浮かび上がってくるかのようだ。Gigi Masinもそうだが、「ベニスには表面的にはわからない何かがある・・」そんなことを思わせるアルバムだ。

Jefre Cantu-Ledesma / Love Is a Stream (2012)

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アンビエントというよりシューゲイザーなんだけど、こんなに美しいノイズある?って感じなので、本記事で取り上げました。ザラザラとして揺れながら広がっていくフィードバックノイズの嵐・・・いやはや、マイブラもびっくりの質の高さではなかろうか。そもそもこの人自身を知らなかったので調べてみたが、The Alpse(知らない・・)のメンバーで、サンフランシスコを拠点に活動しているマルチインストゥルメンタリストらしい。これだけ聞くとよくわからないけど、レーベルRoot Strataを主宰しており、GrouperやOPNの作品もリリースしているとのことで、なるほどなるほど、親近感が湧いてきたぞ。とにかくこれは爆音で聴いてほしいやつ。

Huerco S. / For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have) (2016)

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ニューヨークアンダーグラウンドの電子音楽シーンの個人的最重要人物によるアンビエントテクノの傑作セカンドアルバム。テクノにアンビエントを持ち込んだというよりはアンビエントにテクノのエッセンスを適度にまぶしたような作品で、その美しいサウンドテクスチャーに思わず恍惚としてしまう瞬間が多々ある。何がツボにハマるかって、万華鏡のように煌めくチリチリとしたノイズ、緩急をつけた展開の妙、不穏でメロディックなウワモノ、この辺のバランス感覚が最高なんです。ただし、イーノ的環境音楽とは全く異なる作品であることは付け加えておきたい。環境に溶け込むというよりは聴き手の感情をざわつかせるような音楽で、そういう意味ではアンビエント/ニューエイジという括りではなく、エレクトロニックミュージックの大きな枠で見るべき作品なんだろうね。

自身のソロ作だけでなく、昨年のUllaのアルバム、今年リリースされたPDP IIIのアルバムといった他の関連プロジェクトもことごとく個人的好みにハマったので、興味を持った人はぜひそっちも聴いてほしい。

Visible Cloaks, Yoshio Ojima & Satsuki Shibano / FRKWYS, Vol.15: serenitatem (2019)

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Kankyo Ongakuコンピを監修したりとたぶん今最もアンビエント/ニューエイジシーンで有名なデュオVisible Cloaksと、彼らが崇拝する環境音楽の追求者・尾島由郎、近代ピアノ音楽のスペシャリストである柴野さつきのコラボレーション。

アンビエント=環境音楽は、聴いてもいいし聴き流してもいい音楽であるので、その場の空気に溶け込ませたら勝ちみたいなところがある。その点、このアルバムは環境音楽が何かをよく分かっているなと思う。一言で言うなら透明感がある。昨年の青葉市子のアルバムの透明感を思い出すような感じで、すーっと自分の意識の中に自然と溶け込むような感覚がある。また、柴野さつきの柔らかいピアノの音色もいい。全く邪魔にならなくてとても落ち着く。これを定期的に再生してボーッとするのが本当に好き。

KMRU / Peel (2020)

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ケニアのアンビエント・エレクトロニクス職人KMRUの出世作。柔らかくも静謐、厳かなアンビエントで埋められる本作を聴いてるとどうも背筋が伸びる。アンビエントって本当に紙一重で、特にこの作品のようにゆったりと反復するサウンドスケープ一辺倒で構成される音楽は、一歩間違えたら長時間聴くのが苦痛になることもあるんだけど、この作品はその点、全く問題ない。1時間16分もあるのに問題ない。これって凄いことだよ。何かマジックが込められてる証拠だと思う。その理由を言語化するのは難しいんだけど、頑張って表現しようとすると「チル」という言葉に尽きるような気がする。でも、そんな安易な音楽ではない。自然の厳しさのようなものの中に垣間見える「チル」というか、パンデミックで世界が大変な時に一時的でも安らぎを与えてくれる「チル」というか、これはそんな音楽だと思う。

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ふと思ったのだけど、ニューエイジやアンビエントと水や海といったモチーフとの相性の良さはどこから来るのだろう。今回取り上げた中では特にGigi MasinやFennesz、前回取り上げた中ではINOYAMALAND、Suzanne Ciani、Softwareあたりだろうか(ジャケットに大いに引っ張られている説あり)。良いアンビエントを聴いている時に感じる透き通るような感覚は、まるで澄んだ水の中にいるような心地になるね。

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