2023 年間ベストアルバム30選
はい、毎年恒例、年間ベスト記事です。昨年、一昨年は50枚選んだけどもう少し厳選したいと思い、今回は30枚に絞りました。上位はすんなり決まったけど、最後の方はどうしても入れ替わりを何度も行なってやっと決めたということで、やっぱり今年もいい作品に多く出会えたのだろうと思う。
それではよろしくどうぞ。
30位 Audiot909 / Japanese Amapiano
Audiot909氏はTwitterでもずっと前からフォローさせていただいており、日本におけるアマピアノの第一人者と言ってもいいお方。最初はアマピアノの普及に努めていたイメージだけど、いつのまにか自分でアマピアノ楽曲を作ってリリースしたり、気づいたらあっこゴリラや荘子itらとコラボしたり、ついにはこんなに素晴らしいアルバムをつくっていた。いや、このアルバムほんと良いです。個人的にアマピアノは面白いなと思う反面、アルバムで聴くと少し飽きがくる印象を持っててそこまでガッツリ聴けてなかったんだけど、このアルバムでは上述のアーティストをはじめとした多彩なゲストによるヒップホップ・ウタモノとアマピアノが結びついたことで生まれた新しいポップスとして自分には響き、とても新鮮だった。そして、Audiot909氏は、アングラなインターネットダンスミュージックシーンを地上に押し上げたtofubeatsと同じような役割を果たしていると感じた。自分自身アマピアノへの意識も変わったし、入門には最適なアルバムだと思う。
29位 Kassel Jaeger / Shifted in Dreams
スイスの電子音楽家で、Jim O'RourkやらStephan Mathieuやらとも共作してたり、10年代以降のドローン・アンビエントシーンをリードするような人っぽいけど、いかんせんここ2年くらいできちんとこの辺の音楽を聴き始めた身としては今作がKassel Jaeger初体験。
M1 "Shifted in Dreams"はかなりメロディックでドラマティックなトラックだけど以降はもう少し抽象度が高くなり、環境音や物音、ドローンっぽいトラックが増えていく。実際に、アルバムが進むほど、静謐さ、冷淡さが際立つ刺さるような細かいノイズ混じりの鋭いサウンドスケープが強くなり、思わず背筋がピンと伸びるような、そんな不安や緊張感を感じ取れる。この人の過去作もきちんと振り返りたいなと思わせる一枚。
28位 JJJ / MAKTUB
昨年、一昨年とは大きく異なり、今年は正直ヒップホップをほとんど聴かなかった。なので新しいラッパーの新譜は追わず、知ってるラッパーの新譜をつまみ食いする、若しくは過去の名盤を振り返る程度だった。そんなヒップホップに対してあまり感度の高くない今年だったが、JJJの新譜は心踊った。というか元々JJJ大好きなんですよ。傑作だった前作から6年、その間STUTSとの"Changes"など素晴らしい楽曲のリリースはあったが、アルバムはまさに「待望の」という枕詞があまりにしっくりくる快作だった。全体の印象として言葉先行というよりはビート先行のイメージ。ビートができて、それから溢れでるライムを載っけたみたいな。特にその印象を強めたのが先行曲でもあったM2 "Cyberpunk"だと思う。この近未来的なバキバキに決まったビートは喰らった。あとは基本はブーンバップなんだけど、M8やM9などをはじめとして2ステップが時折目立つのもUKビートミュージックからの影響を感じさせ新鮮。そして、昨年のOMSBもそうだけど、概ね自分と彼らが同世代なので、そんな心境が反映されたリリックがどうも胸を打つというのもあるかな。
27位 Loscil & Lawrence English / Colours of Air
オーストラリアのブリスベンにある歴史的なミュージアムのパイプオルガンを用いて作成されたというカナダのLoscil (aka Scott Morgan)と、<Room 40>の主宰でもある豪のLawrence Englishによるコラボ作。レーベルはTim Hecker等をリリースする<kranky>から。自分の触れられている範囲ではオルガンドローン系は持続音的な作品が多い中、本作は比較的変化の多い作品で、脈打つように音が減退しては拡大する様がとても気持ちいい。パイプオルガンの音色をそのままではなくかなり加工した上で用いられているからかオルガン特有の厳かさはそこまで強くなく、エレクトロニクスとアコースティックな響きが絶妙に融合されていて、もう何というかたまらないっす。
26位 Andrea / Due in Color
<Ilian Tape>大好きなんですわ。アトモスフィリックで浮遊感のあるサウンドとアタック感強めのビートという構図はSkee Maskをはじめとした本レーベルの特徴で、そういう意味ではイタリアのプロデューサー、Andreaも同じようなコンセプトではあり、そこまで目新しさがあるわけではない。が、基本的にクオリティが高いし、その中でもマグニチュード8クラスに強烈に自分の琴線を震わせる曲がいくつかあったので、ベスト30枚の中に入れることに何の躊躇いも覚えなかった。例えばM4"Remote Working"。いやもうこれかっこよすぎるでしょ。タイトで力強いビートとメロディックなウワモノの組み合わせが完璧すぎて完全にトべる。M5 "Silent Now"も霞のようなアンビエンスの中にブリブリのベースラインが映えまくってて最高。後半は割とアンビエント/ダウンテンポな展開を示し、実験的ジャズな趣もあって、これはこれで乙なものだった。
25位 KMRU / Dissolution Grip
ケニア出身の電子音楽家でフィールドレコーディングとドローン界の近年のニュースター的存在(?)であるKMRUさんの本作は、個人的には2020年の名盤「Peel」(アンビエント好きは必聴)に次いで好きなアルバムかもしれない。割と早い段階で感じるのは大きなサウンドスケープのうねりに合わせて細かいノイズがついてまわる様がとてもTim Hecker的な音響センスをしているなということ。また、「Peel」がフィルードレコーディング>ドローンなバランスだったのが、本作ではフィールドレコーディング<ドローンになってきているのは興味深い。一方で、「Peel」と共通する点としては、一定の制限の中で内省に内省を重ねて抽出した最高純度のサウンドスケープであるということ。アンビエントなんて大体一緒じゃんと思いきや、確実に「持ってる」アルバムというものがあり、KMRUの音楽は確実に持ってる側だ。
ちなみにマスタリングはStephan Mathieu。自分の好みだと思うサウンドの半分くらいはStephan Mathieuが関与してるんじゃないかと思うくらい、いたるところで名前を見る人だ。
24位 Zaumne / Parfum
Space Afrikaをはじめ最高にクールな作品をリリースしまくっているレーベル、我らが<Sferic>よりポーランドの音楽家によるアルバムは、ドリーミーながら夜の闇に吸い込まれるようなダブポップ〜アンビエントな9曲が収録。ボードレール「惡の華」にインスパイアされたらしく、ASMR的に引用されるスポークンワーズが特徴的だが、その他、どこか和テイストな趣も感じられるのは何なのだろうか。いまだに何ともいえない居心地の悪さが残るんだけど、気づいたら結構リピートしていたので、自分の精神がこれを求めていたとは言えると思う。とりあえずマスタリングはDemdike StareことMiles Whittakerなので、間違いのないサウンドです。
23位 J. Albert & Will August Park / Flat Earth
アメリカの電子音楽家J. AlbertとピアニストであるWill August Parkの共作アルバムは、室内楽器から放たれた音の断片を闇鍋に突っ込んでドロドロに煮込んでクリーミーにしたようなアンビエント。特にピアノとウッドベースが良いアクセントになっており、どこか古き良き時代を想起させる。あと曲によっては木の机でも叩いたような音のリズムがあったり、アンビエントというよりはだいぶマイルドにしたデコンストラクテッド・クラブっぽさもあるような。室内楽的アンビエントという意味ではLaurel Haloの「Atlas」と同類にしたくもなるけど、こっちの方がカオス味が高いし、聴けば聴くほどどう形容したらいいのか分からなくなってきた。
22位 Loraine James / Gentle Confrontation
90年代のIDMやドラムンベースを20年代に軽やかにアップデートしている電子音楽家といえば個人的にはLoraine Jamesがまず思い浮かぶ。AFX、Squeapusherなどの奇天烈なビートミュージックを、透明感がありつつも鋭さを感じさせるアンビエンスで包み込んだポップミュージック。なんだろう、決して頭でっかちではないのが好感をもてる。彼女の音楽では過去と未来、激情と静寂、穏やかさと怒り、親密さと冷たさ、といったさまざまな要素が顔を出しては移り変わっていくので、いつも深みを感じる。黒人でクイアという背景にはついつい触れたくなるが、そんな背景を知らずしても、この多様な電子音楽には心惹かれざるを得ないです。
21位 Fabiano do Nascimento / Das Nuvens
<Leaving Records>は主宰のMatthewdavidやLionmilkのアルバムもよく聴いたが、最も気に入ったのはブラジル人多弦ギタリストであるFabiano do Nascimentoの本作。優しいギターの調べ、控えめにアクセントをつけたビート、繊細なエレクトロニクスと、いずれのサウンドからも混ざり物が全くない透明度の高さを感じる。そして、この音楽に身を預けていると、体がふわっと浮き上がって天から山々をはじめとした大自然を眺めているような、そんな気分になってくる。あまりに美しくて心地良いので、そんな達観した心境になってくるのかもしれない。
20位 Tirzah / trip9love…???
インディーロック、R&B、トリップホップ、インダストリアル、エクスペリメンタルを実に自然に荒々しく取り込んだ、Tirzahにしか作れない傑作。全編ほぼ同じパターンで貫かれるラフで力強いビートには面食らった。そして、MBVのように歪んだギター、ループするピアノ、リヴァーブがかったTirzahの独り言のようなボーカルが作り上げる世界観からは、ハードで救いがない退廃的な世の中での陶酔やロマンスを思わせる。そうだな、The Velvet UndergroundとPortisheadの魂が宿っているような感じ。
19位 Ellen Arkbro / Sounds While Waiting
2023年ベスト持続音はKali MaloneかEllen Arkbroの本作(ただ、Kali Maloneは5時間もあってそこまでリピートしなかったので選外)。こんなに良い持続音あっていいの??気持ちよすぎるんだが…。5年前の自分に「将来はこんな音楽聴いてるよ」とこれを聴かせてみたらめちゃめちゃ驚かれると思う。昨年のコラボアルバムではウタモノを披露してたけど、個人的にはこちらのオルガンドローン作品の方が好み。仕事中でも作業中でもいけるし、何もせず音に没入しても全く問題ない。ちなみに2020年にスウェーデンの教会で録音されたものらしい。
18位 Radian / Distorted Rooms
その音響感覚…研ぎ澄まされている…至高の領域に近い…なオーストリアのトリオ、radianによる7年ぶりのアルバム。ポストロックに疎いので今回初めてこのバンドを知ったわけだけど、こりゃすごいっすね・・・。細かいノイズはグリッチを増強させたような手つきを感じ、Canのようなクラウトロックさながらなメリハリの効いたリズム隊には思った以上に身体を揺らされ、そしてそれら全ての音に緊張感とキレ味がある。あまりにかっこよすぎて思わず姿勢が正されてしまうくらいガツンときた。そしてIDMをバンドで体現したかような感覚も感じられて面白い。これは過去作も聴かなくてはと思わせるバンドでした。
17位 James Emrick / Actoma
ニューヨーク在住音楽家による<Soda Gong>からリリースされた最高のコンピューターグリッチアンビエント。陽光に乱反射して煌めくような、一方では肌に鋭く刺さるようなジリジリとした電子音に誘われて、ノスタルジーの旅へと出発できる。春の河沿いあたりを当てもなくブラブラ歩きたくなるような気分にもなる。Fenneszより少し柔らかくしたような電子音の海に積極的に溺れていきましょう。
16位 OZmotic & Fennesz / Senzatempo
と、ちょうど名前が出たところでFenneszとイタリアのデュオOzmoticの共作。左右に散りばめられる微細なパルス音やグリッチ音、シューゲイザーとも交錯する甘美なノイズアンビエント、絶妙な色気を醸し出すエレクトリックギター、適度にアクセントになっているパーカッシッブなフレーズ、壮大でドラマティックなオーケストラサウンド。Fennesz関連作はいつもロマンティックで大きく包み込まれるような印象を持つ反面、細部までとても細やかに作り込まれており、もう全くハズレがない。今作も素晴らしい電子音響作品だった。
15位 Slowdive / eyerything is alive
そこまでシューゲイザーに詳しいわけではなく、いくつかの有名盤しか満足に聴いていない中で、昔からマイブラに次いで聴いていたのがSlowdiveである。自分にとってはSlowdiveの衝動と鎮静のバランス感覚に優れたシューゲイズ感はどうも肌にしっくりくるみたいだ。取り立てて目新しいことをしているとは思わないけど、相変わらずメランコリックで美しいギターフィードバックノイズは完璧で、ほのかに用いられるエレクトロニクスと儚いボーカリゼーションとでよく調和が取れている。すべてのクオリティが高いなと思うよ。
14位 Ans M / Cicada Lullaby
中国にルーツを持つというロンドン拠点のAns Mによるデビュー作はKelman Duranと共同運営しているレーベル<Scorpio Red>からリリース。全体的にアンビエント寄りで、アルバムタイトルどおり蝉(どうも中国で蝉は再生と不死の象徴らしい)の声っぽいサンプリングがあったりとどこか郷愁を誘うような内容。前半は揺れ動くようなアンビエンスと、歪んだ不協和音が炸裂するような激しめのトラックとの間を行ったり来たりしながら、後半はそんな躁鬱っぽい感情が霧散するかのように繊細なテクスチャーで彩られ、フェードアウトしていく。ベストトラックはM6 "Bloom"で。
13位 Yann Novak / The Voice of Theseus
実験音楽や電子音響初心者の自分にとって、今年、オーストラリアの名門電子音響レーベルである<Room 40>というレーベルに出会えたのは朗報だった。その豊富なカタログと、エクスペリメンタル〜ミニマルドローン/アンビエントを中心とした瞑想的で刺激的な作品の数々はしばらくの間全く飽きることなく楽しませてくれそうな気配がする。あと、ジャケットの色彩感覚に統一感があって、<Room 40>かな?と思ったら案の定そうだったみたいなケースがいくつかあり、そういう意味でも印象に残りやすかった。
そんな<Room 40>リリースの今年の作品をいくつかは聴いたが(とても全ては追えなかった)、その中でもLAの電子音楽作家であるYann Novakの今作には心惹かれるものがあった。Tim Heckerのような微細なノイズ混じりのシンセドローンとGrouperのような聖性を帯びたサウンドスケープが交わりながら進行していくセンスがあまりにも自分の好みに合致。M1"A Monument to Oblivion"でのボーカル使いや、M5 "Super Coherent Light"やM7 "The Inevitability of Failure"での微かに脈打つようなキックの使い方も最高。
12位 Yosuke Tokunaga / 8 Quadrants
何者かあまり情報が出てこない東京のアンビエント作家Yosuke Tokunagaの<VAKNAR>からの最新作。繊細なアコースティックな音色が前面に出てくる一方で、遠くの方では密度の濃いサウンドスケープが微かに鳴っている。また、軽やかなウワモノと対峙するかのように、重たいダウンテンポなローが腹の底にズーンと沈澱する。そんな二面性をもったサウンドが残響と空白のバランスをうまく取りながら円環の中に収束していくかのようにグルグルと巡っていく様が本当に美しい。Meditationsのレビューにある「<West Mineral>からのTim Hecker作品」という言葉が非常にしっくりくる一枚。
11位 Gia Margaret / Romantic Piano
坂本龍一の「12」以降、こういうピアノ中心の音楽へのチャネルが開いた。Gia Margaretの本作は、タイトル通りロマンティックで心躍るピアノ作品であるが、瑞々しい音がそのままぶつけられるのではなく、一枚のフィルターを通すことでどこかくぐもった音になってアウトプットされてるのが新鮮だった。もともとSSWとして活動していたけど、一時的に声が出なくなってしまったことを機にアンビエント作を作成したのが前作、その流れを汲むのが本作だそうで、そのような経緯を踏まえると自己療養的な側面は前作に引き続きありそう。だからなのかはわからないが、全体的に癒しや軽やかさを感じさせ、リアルな質感というよりは幽体離脱して俯瞰的に自分を見下ろすような、このアルバムを聴いているとなぜかフラットに己を見つめ直す視点を思い出させてくれる。幸いにも体調は回復に向かっているようで、その証拠として唯一彼女のボーカルが入ったM6 "City Song"はやはり印象的で、リリックに通じるように「曖昧だけど確かに実感としてここにある」という感覚を覚えさせる。
10位 Foans / Selected Classics
シルキーなハウスミュージックをたくさんリリースしている<100%Silk>から、アメリカコロラド州を拠点とするFoansによる素晴らしいダブテクノ〜ディープハウスアルバム。2018年に彼のBandcampから「Classics」としてリリースされた100曲からなる膨大なコレクションから厳選されて作られたのが本作らしく、初出というわけではないが、この2023年でも非常にフレッシュに聴こえる内容。内省的ながらも悲哀に暮れすぎることもない絶妙な塩梅のディープハウスは、色々とキツかった時期にそっと背中を押してくれるような優しさと前向きさを分け与えてくれた。
9位 Aus / Everis
素晴らしいエレクトロニカ作品。<FLAU>の主宰であるAusことヤスヒコ・フクゾノによる14年ぶりのアルバムは穏やかさ、誠実性、多様性、洗練といった単語を思わせるなんとも魅惑的で優しい世界で満ちている。モダンクラシカルとエレクトロニクスのこの上ないクロスオーバーは、決して天上から見下ろされるような音楽ではなく、僕たちと同じ目線で日常にそっと寄り添ってくれるような音楽。関東の駅の音のサンプリングは自身が関東出身で今は離れているからか余計に懐かしく感じてしまう。
8位 gum.mp3 & Dazegxd / Girls Love Jungle
自分にとってビートの面白さと快楽性を最も兼ね備えていたのが、gum.mp3 & Dazegxdのアルバム。UKっぽい音なんだけどUSの人たちで最初は驚いた。最近はUSとUKのアンダーグラウンドなビートミュージックに垣根がどんどんなくなっているような気がする(知らんけど)。Dazegxdが生粋のジャングリストっぽく、彼の作る強力なビートにgum.mp3(RAのレビューで彼の影響としてSan Ra、Moodymannが挙げられてる)によるアトモスフィリックでソウルフルなウワモノを乗せたらあまりにセンスの良すぎるダンスミュージックが誕生したってところか。それにしても、Nia Archivesの来日イベントはその盛り上がりっぷりに今年の自分にとって最高の思い出になったし、今ジャングルがアツい。
7位 cero / e o
前作あたりから多少傾向はあったが、今作で完全にボーカルワークも全体の音の一部として埋め込まれた。そういう意味では、1st〜3rdにあった歌ものとしての圧倒的な強度を懐かしく思わないでもないんだけど、ceroというバンドが辿り着くべき境地として「e o」は大正解な気はしている。ただ、30周くらいしてるにもかかわらず、いまだに理解を超えたところに本作は君臨する。あまりに様々な文脈が入り乱れ、彼らのこれまでの経験が幾重にも重なって多面的に絡み合っているように聴こえる。そして、断続的にリリースされていた先行シングルは一番ポップな"fdf" 以外、そこまでピンと来てなかったんだけど、アルバムで聴くとこれ以上ないくらいしっくりくる(むしろ"fdf"が例外で浮いてるくらい)。コンセプトはなかったというが、ほんとに?と思うくらい統一感がある。たぶんプログラミングなのか、ミキシングなのか、そういった類の部分の圧倒的な進化があるんじゃないかと思う(門外漢すぎてわからんが)。ちなみに個人的なベストトラックはM11 "Angelus Novus"。あまりにもエモくて美しいアンビエンスにやられた。ceroのアルバムの最終曲はいつも最高すぎる。
今年一掴みどころがないけどずっと聴いていたアルバムだった。
6位 Nondi_ / Flood City Trax
20年代ジューク・フットワークの最新系は10年代のVaporwaveやドリームポップのフィルターを経由した最高のやつでした。故郷ペンシルバニア州ジョンズタウンの洪水の歴史をモチーフにして作成されたものということもあり、濁流のように押し寄せる夢見心地で混沌としたサウンドは確かに洪水のようで、さらにノイズまじりの攻撃的なフットワークのビートがさらにカオスを生みだす。気づいた時には完全に虜になっていた。
以下にも感想書いてます。
5位 Cornelius / Dream In Dream
東京オリンピック時の騒動からこんなに素晴らしい作品でカムバックしてくれたことが素直に嬉しい。最近は空間をうまく使った作品に惹かれることが多いんだけど、自分の中で空間使いが抜群に上手いと感じるアーティストの筆頭がコーネリアスで、「Point」での革新的なサウンドデザインから年月とともに少しずつ角が取れていき、その分成熟と親しみやすさが増していったところの集大成がこの「夢中夢」という感じ。ウタモノとインストのバランスがよく、巧みで包み込むようなエレクトロニクス使いは非常に洗練されている。そんななかで、高橋幸宏が気に入ってMETAFIVEでリリースしてたセルフカバーM5 "環境と心理"のようなエモすぎる曲が繰り出されちゃうんだからたまらない。最後のM10 "無常の世界"なんかはあくまで優しく寄り添うような、成熟の極みみたいな曲で、酸いも甘いも経験した人にしか出せない音色、雰囲気だと思う。
先鋭的なコーネリアスを求める人には物足りないかもしれないけど、もう若者とはとてもじゃないけど言えなくなった自分にとっては強烈に刺さるアルバムだった。
4位 Oval / Romantiq
グリッチノイズを生み出したOval大先生の最新作。このアルバムは余白とサウンドのバランスがとても優れており、やたらと立体的に聴こえる点が良い。また、その余白の中で電子音が衝突して反響し合うサウンドからはまさにロマンティックとしか言いようがない恍惚とした感情を呼び起こされ、一音一音追っても楽しいし、なんとなく浴びるように聴いても間違いがない。例えば、再生ボタンを押して即繰り広げられるキラキラとした電子音だけでも最高of最高で、ミュートされたかようにぶつ切りにされた音と残響を放って消えていく音とが混ざりあって左右のチャネルから雨粒のように降ってくるシーケンスだけで、このアルバムを名盤確定させるになんの躊躇いもなかったです。
3位 Sufjan Stevens / Javelin
「Illinoise」、「Carrie & Lowell」に比肩するレベルの傑作で、繊細なエレクトロニクスも活用したお得意のチェンバーフォークによる珠玉の10曲42分。良い曲しかないって素直に凄い。そんなSufjan Stevensももう48歳で、ギランバレー症候群という難病との戦いや、パートナーとの死別があったり。そりゃそうだよな。生きてりゃ色々ある。ただ、Sufjan Stevensの音楽にはそれらの痛切な悲しみや苦しみと、それを全て引き受けた上での慈愛の精神がある。そんな滲み出る優しさが、いつのまにか年取ってしまったオッサンの心に強烈に沁みるんですね。もう聴けば聴くほど浸透していくよ。
それにしても最後の曲がNeil Youngのカバーだって全然気づきませんでした。それくらい自分のものにしてるし、何なら原曲より好きかもしれない。
2位 坂本龍一 / 12
今年の上半期の自分のリスニングライフは坂本龍一を中心に回っていた。教授の過去作を聴き倒し、最新作であり遺作となってしまった本作も聴き倒した。それでも膨大なディスコグラフィを堪能しすぎるには全然時間は足りなかったけど。本作は闘病中にスケッチのように録音されたものだが、軽やかさや穏やかさの背後には凄まじいまでに色濃い教授の生き様が刻まれているような気がしてならない。手癖っぽく聴こえる一方、一音一音に一才無駄がないようにも思える、純度の高い傑作。こんなに素晴らしい音楽をありがとうございます。
以下にも感想書いてます。
1位 Laurel Halo / Atlas
あまりにも奇妙でそれでいて洗練されたアンビエントサウンドに、自分の観測範囲上の多くの有識者が大絶賛していたLaurel Haloの新譜は彼女の代表作に相応しい大傑作。不明瞭なアンビエントをゲストの力も借りながら彼女のセンスでクラシカルに調理したら誰も手の届かない神の域に達してしまった。言い過ぎかもしれないが、それくらい自分にとって素晴らしい作品だったし、沼のようにハマったということで。
以下にも感想書いてます。
こうして振り返ってみると、1年間ひたすら電子音楽を聴いていた年だった。通常、1年の中にロック/ポップスの気分の時とエレクトロニックの気分の時とヒップホップの気分の時みたいにブームが移り変わるんだけど、今年はもう本当に電子音楽ばかり聴いてた。これが自分のどんなムードに起因するのかはわからないけど、電子音楽という括りだけでもハウス/テクノ/IDM/ジャングルといったビートのあるものから、ドローン/アンビエント/フィールドレコーディングといったビートのないもの、そしてその中間にあるものをエクスペリメンタル(雑に括ってしまうけど)として、とにかく幅が広くて聴いても聴いても次から次へ新しいものに出会う感覚だった。ついでに言うと、電子音楽は作業用BGMとしての機能性がすこぶる高いので、在宅ワークのお共に最適というのもこのリスニング傾向に拍車をかけたかもしれない(今年そこそこ働いてたような気もするし)。
一方で、ヒップホップをこれほどまでに聴かない年になるとは思ってもいなかった・・・・。これは目ぼしいリリースが少なかったからなのか、それとも自分のアンテナが全く立ってなかったからなのか、多分後者だと思うけど、ここまで聴かなかったのは正直意外。まあそのうちまた聴きだすような気もする。
ロックは、何というか好きなバンドの新譜は聴いたけど、自分から新しいバンドを聴こうとするほどの熱量はそこまで湧いてこなかったというのが正直なところ。ただ、その中で、Sufjan StevensやSlowdive、選外にはしたけどWilco、Yo La Tengoといったベテラン勢の新譜がやけに自分の身体に染みたのは印象的だった。そういう意味ではコーネリアスも同じ部類に入るかもしれない。フレッシュさよりも成熟されたものが聴きたいというアレ。どんどん年寄りになってきている証拠だな・・・。
最後に、Apple MusicのReplayの結果を以下に貼っておきます。
みなさま良いお年を!
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