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ニューエイジ/アンビエントを聴く⑤

ニューエイジ、アンビエントアルバムを聴いてポチポチ感想を綴るシリーズ第5弾。2023年1〜3月くらいに聴いてたもの。
過去の感想記事は以下のとおりです。


Gas / Pop (2000)

<Mille Plateaux> / Germany

名門<KOMPAKT>主宰で、Burger/Inkの片割れでもあるWolfgang Voigtのアンビエントプロジェクト、それがGas。超有名なので、自分もGasの存在自体は音楽を聴き始めた早い段階で知ったし、どのアルバムでも見受けられるその特徴的なアートワークには目を奪われた。音楽性についても没入するようなアンビエントサウンドと禁欲的な四つ打ちに、Gasの突き詰められた美学を感じたものだった。ただ、如何せん、Gasに出会った当時の自分はロック小僧。エレクトロニックミュージックなんてほとんど聴いてなかったし、そこそこ気に入ってはいたものの、その真価は1/3ほども分かっていなかったような気がする。

さて、時は経つこと10数年、決して詳しいわけではないけど、それなりの数のエレクトロニックミュージックのリスニング体験を経て、久しぶりにこのアルバムを再生したわけです。すると、なんということでしょう。あまりにも同時代的なサウンドに卒倒、悶絶、恍惚。特に最近はHuerco S.周辺から広げていくようにダブアンビエントやIDM的な音楽に、自分のアンテナがビンビンであったので、このGas「Pop」で繰り広げられるダブ的音響を纏ったドローン/アンビエントサウンドが、如何に偉大で現代に影響を与えているかがよく理解できた。ビートのある曲がM4、M7のみというアルバム構成もまた今の気分にちょうどよく、夢の中で微睡むような時間とキックに身体を揺らす時間とのバランスが絶妙だ。さらに、最初は穏やかなテクスチャーなのが、アルバムが進むにつれて徐々に不穏さが増していくのも最高。

本当にこれは大名盤です。未来永劫語り継がれるでしょう。

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SUGAI KEN / UkabazUmorezU 不浮不埋 (2017)

<Rvng Intl.> / US

神奈川のサウンドクリエイター、SUGAI KENの2017年作。Visible Cloaks等ともツアーをやったり、知らなかったけど界隈ではかなり有名な方なのかも。反復は避け、構成と解体を繰り返すような電子音楽。伝統芸能/郷土芸能や香川、鳥取、島根などへのフィールドワークから着想を得たらしく(本人の創作メモ)、日本的な雰囲気を併せ持ったアンビエント/ニューエイジ/音響作品で、かなり刺激的なサウンドデザインをしている。ヴォーンとしたドローン/アンビエントに金属音やら何やらが空間的、立体的に配置されて、一つの映像が浮かび上がってくるような、そんな音楽。

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Echium / Disruptions of Form (2020)

<sferic> / UK

マンチェスターのレーベル<sferic>の主宰であるEchiumの2枚目のアルバム。
ダブ、アンビエント、エクスペリメンタル、フィールドレコーディング、グリッチ的要素を掛け合わした素晴らしい内容で、まさに最近の気分にドンピシャである。例えば、M5のジリジリとしたグリッチ的ノイズとマイナスイオンで充足された自然の中を想起させるようなフィーレコの組み合わせはやけに新鮮に響いてきて最高だし、M6 "Glacial Rust"のエクスペリメンタルな音響の鋭さにもハッとさせられる。West Mineral ltd.周辺と並べたい。

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Romeo Poirier / Hotel Nota (2020)

<sferic> / UK

水っぽいコラージュアンビエントってどうしてこうも琴線に触れるのか。水っぽいと言っても実際に水音をサンプリングしてるわけではなさそうだが、どこか清涼感のようなものを感じる。そして、ぼやっとしたベース音、チリチリとした柔らかなノイズ、不穏なシンセと、自分の中のダブアンビエント〜エレクトロニック像のお手本のようなアルバムだ。
そんな素晴らしきアルバムを作成しているのはフランス人電子音楽家のRomeo Poirierで、フォトグラファーでもあるからか、ジャケットのセンスも素晴らしい。マスタリングはStephan Mathieu。2022年リリースの「Living Room」も素晴らしかった。

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Jake Muir / Mana (2021)

<Ilian Tape> / Germany

EchiumやRomeo Poirierと同じく、<sferic>から「Lady's Mantle」(2018)という素晴らしいアルバムをリリースしているロサンゼルス出身、ベルリン拠点のJake Muirによる2021年作。リリースはドイツの我らが<Ilian Tape>からで、<Ilian Tape>といえばSkee Maskや主宰のZenker Brothers(本作のマスタリングを手がける。Marco Zenkerのアルバムは2022年個人的ベスト2位に選出)の諸策が大好物なんですが、このレーベルのイメージとしてはアンビエント的サウンドにハードなベースミュージックをのせるスタイルだったので、今作のようなアンビエントアルバムは少々意外・・・と一瞬思ったけど、各アーティストのアンビエント感はダブ味のかかった非常に今っぽい音であるし、そもそもSkee Mask自身もアンビエント作品をリリースしていることを思うと、すぐに納得した。
Jake Muirの今作は、Pendantやuon(Caveman LSD名義でM2に参加)等のWest Mineral周辺や<sferic>のSpace Afrikaの音像に近い、素晴らしきダブ・アンビエント。ヘビーでおどろおどろしいコラージュ〜ドローンサウンドに、インダストリアルっぽい効果音やノイズが加わることで、冷淡で鋭利な印象を与える。サンプルにサンプルを重ねて作成されているようで、元のソースが分からなくなるくらいにダークで濃密な世界観は唯一無二の個性を放っている。このアルバムについて検索するとイルビエントというワードで語られていることが多く、知らなかったんだけど1994年にアメリカのDJ Oliveが提唱したイル(ill)とアンビエントの造語らしい。DJ Oliveのアルバムも試しにチェックしてみたが、めちゃ良かった。

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Yosuke Tokunaga / 8 Quadrants (2023)

<VAKNAR>/ Germany

ダビーなピアノとフィールドレコーディング、ノイズ混じりの電子音。ビートはあるようなないような。空間的であり有機的。荒涼としたアンビエンスにどこか日本的で人懐っこいメロディ。全てが幻の夢の中にいるようで、即物的で現実的でもある。
Meditationsのレビューに「〈West Mineral〉からのTim Hecker作品」との記載があって思わず「そうそう、そんな感じ」と膝を打ちました。<VAKNAR>からリリースされたアルバムは本作だけでなくyolabmi、Shuta Hiraki、Jeremiah Carterといくつか聴いたけど、どれも鋭い音響感覚をもつ良盤揃いで素晴らしい。統一感のあるモノクロジャケットも素敵。

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坂本龍一 / 12 (2023)

<Commmons> / Japan

2017年の「Async」以来6年ぶりの新譜は、闘病中に日々の日記を書くように制作されたという珠玉の12曲が収録。自分はYMOも教授の有名作ももちろん好きだけど、特別なファンというわけではないが、このアルバムは個人的にもかなりの愛聴盤になりそうな気がしている(というかなっている)。おそらく録音された日がその曲名として入力されたであろうピアノスケッチ的な各楽曲は穏やかながらも生々しく、闘病中の教授の日々の生活があまりにも鮮明に刻印されている。その圧倒的なリアリティからは、人間という生き物の生と将来必ず訪れる死への旅路を思わずにはいられない。。。。と、自分にしては重々しいことを書いてみたものの、日記的な作品ということもあって音自体はそんなに重たいものではなく、インスピレーションに従ってその場でサクッと制作されたような軽やかさを備えている。教授自身のこれまでの生き様から発せられる感性が、ピアノとシンセサイザーを介して必要最小限の音となって表れ、必要な場所に配置されていると感じる。「音が、ただそこにある」というか。本当になんと美しいアルバムだろうか・・・。

追記
上記の感想は2月にポチポチと打った内容であるが、4/2、ついにというべきなんだろうが訃報の連絡が世の中を駆け回った。SNS上では海外の著名人から名前も知らない一個人まで坂本龍一に対する哀悼の意で溢れかえり、改めて教授自身の偉大さを思い知らされた。自分は上述の通り特別なファンというわけではないが、それでもYMOの素晴らしきアルバムや素晴らしきソロ作品の数々を思うと、胸にぽっかりと穴が開いたような心境になった。有名ミュージシャンの訃報の中でも最も喪失感を覚えたと言うか…。今年も既にいくつものその類のニュースが駆け巡っているが、あまりその手のニュースに対して(このような言い方は失礼かもしれないが特に自分がリアルタイムでは聴いてないような高齢ミュージシャンに関するものの場合)感傷的になるタイプではなかったので、これは自分にとってはかなり予想外のことだった。思えば、坂本龍一を認識したのはenergy flowがスマッシュヒットをしてた頃で、当時音楽にさほど興味のない小学生の自分にとって坂本龍一という人は「ピアノで有名な人」くらいの認識だった。その後、音楽好きになってYMOなり有名なソロアルバムなりを聞いてみてやっと本当にクリエイティブで影響力のある人物であることをそれなりに認識できたわけだが(ピアノの人なんてとんでもないじゃん!)、それでも代表作をいくつか聴いた程度であまりにも多作な教授の全貌を理解するには未だに程遠いというのが現状だ。訃報以降、改めて聴いてなかったアルバムいくつかを繰り返し聴いているんだけど、一枚ごとに新たな発見や驚きがあり、全然飽きる気配がなく改めてその偉大さを実感している(最近はEsperanto、レヴェナントサントラ、Glassに特にやられている)。
まだまだ全然教授の作品を聴き切ることはできていないので、人生通してゆっくり聴いていきたいなと思う。ご冥福をお祈りいたします。

songwhip

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