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ジェイラボワークショップ第59回『推しの子(物理学者)』【物理学部】[20230626-0709]#JLWS

今回のWSでは、各部員が選ぶ"推しの物理学者(こ)"の業績や一生を紹介した。
以下ログ。
「■」がついたものだけで読み物としては完結しているので忙しい方は「■」だけ読んでもらっても構いませんが,「■」以外も含めて全部読んだ方がより実際の空気感を味わえると思います.参加者のコメントについては,発言者の頭に「★」をつけ,その返信には発言者の頭に「・」をつけています.


DAY1

■Naokimen

皆さんおはようございます。今日から物理学部のワークショップが始まります。今回のWSタイトルは「推しの子(物理学者)」です。物理学部員それぞれが推している物理学者の業績や一生などを紹介します。いつも通り、途中でクイズ・質問を出すのでぜひお答えください。質問・コメントはいつでも受け付けますので、気軽にしていただければありがたいです。それでは2週間よろしくお願いします。

■チクシュルーブ隕石

今日からアルキメデス(BC287 頃~BC212 頃)について、彼の功績を絡めながら紹介をしてい きたいと思います。また、今回の物理学者紹介の中ではアルキメデスが唯一古代の人物なの で、そのことを意識しながら読んでいただけるとより楽しめると思います。

アルキメデスは古代ギリシアの哲学者で、アルキメデスはニュートン、ガウスと並んで世界三 大数学者とされており、その名は現代まで万能の天才としてよく知られている人物です。ニュ ートンやガウスは数学史ひいては科学史を語るにおいて欠かせない人物ですが、アルキメデス も当然数学史・科学史の中で最重要視されています。古代ギリシアの時代では、ピタゴラスや ゼノンらをはじめとする哲学者が自然科学全般において目覚ましい発見を多く残しましたが、 アルキメデスも同じく数学、物理学、天文学、工学など多分野に渡る功績を残しています。これらの功績から古代ギリシアの中でも一際輝くアルキメデスの才能と彼の自然科学への飽くなき好奇心を伺い知ることができます。その中でも、特に数学と物理学では大きな功績を残して います。数学では、図形の面積や体積を求める手法として「取り尽くし法」と呼ばれる近似法 を見出しました。この手法を用いることで円周率の値を 3.14 まで絞り込んだとされています。この手法は後に解析学という学問に深く結びつき、後世の数学の発展を支えました。また、物理学においては「てこの原理」や「アルキメデスの原理」 といった根源的な概念を定式化し、その原理を解き明かしました。

今日の投稿はここまでにして、明日以降はアルキメデスの具体的な功績について詳しく見ていこうと思います。その前に、簡単な質問を出そうと思います。

Q1.浮力という言葉を聞いた事がありますか?

Q2.浮力とは何か・どのような力なのかを自分の言葉で説明できますか?

DAY2

★Hiroto

Q1 あります
Q2 できます

■チクシュルーブ隕石

今日は、アルキメデスが遺した多くの功績の中から「アルキメデスの原理」に絞って説明をしていこうと思います。

まず、浮力という概念を聞いたことはありますか?おそらく、多くの方がお風呂やプールなどに入った時に自分の体が浮く感覚を既に知っており、知識としても経験としても既知のものだと思います。さてここで、なぜ浮力が働くのか・浮力とはいかなる存在なのかを説明できる でしょうか?答えから先に述べると、浮力は物体の上端と下端が受ける水圧の差によって生じる力でありますが、この問いに答えられる人の人数は、最初の質問に比べるとぐっと減るように感じます。多くの場合、ある概念を知識と知っているよりもその原理を理解することの方がより困難で、とりわけシンプルかつ根源的な概念の原理を理解するのはさらに困難です。例にもれず浮力の原理も、古代ギリシアの時代の人々にとっては全く未知のものだったのです。そ んな浮力を発見し、その大きさを定式化した人物こそアルキメデスでした。 アルキメデスは 「浮体は、それが押しのけた水の重さとそれ自体の重さが等しくなる深さまで沈む」と推論しました。これを「アルキメデスの原理」と呼びます。ここで、この原理にまつわる有名な故事を紹介してみます。

「ある時、アルキメデスは王からある冠が純金で作られたものか否かを見分けることを命じられた。しかし、冠を傷つけずに純金か否かを確かめる方法を思いつかず、休息のために風呂に入ることにした。その時、彼は自身が風呂に入ったことで溢れた水を見てアルキメデスの原理を思いついた。純金の冠と王から託された冠をそれぞれたっぷりと満たした水の中に入れることによって、託された冠が銀を混ぜたまがい物であることを証明したのだった。」

以来、「アルキメデスの原理」は物体の体積や密度を測定するのに重宝され、理学・工学の各側面に大きな影響を与えました。

本日の投稿はここまでにしたいと思います。明日はアルキメデスの死にまつわるエピソードについてお話ししたいと思います。

★けろたん

Q1 ある
Q2 できる
お風呂掃除のときに、湯船の水かさが多いときはお湯が排出される勢いが強く、水かさが減ると水の勢いも減ることを不思議に思っていました。高校物理を履修したにも関わらず、実生活では、浮力という言葉が喚起するものがプカプカ浮いているイメージに引っ張られていた自分にとって、「浮力は物体の上端と下端が受ける水圧の差によって生じる力」という定義にかえって考え直すよいサンプルになりました。
9をひっくり返した謎の定数で浮力が決まっていたと思いますが、その定数と温度や水の粘っこさの関係とかはわかりません。
(追記)
浮力の工学的応用を考えてみたのですが、一番大きなスケールで思いついたのはタンカーの設計でした。

・チクシュルーブ隕石

コメントありがとうございます!

浮力が関わる現象は身の回りに溢れていますが、その原理を完全に理解・説明しきる事は意外に難しいと思います。定義にかえって考えることは大事だと再認識させられますね。
私自身も、密度ρ(ロー)が浮力や水圧を表す関係式に現れるのは高校物理で学びましたが、ρと温度・粘性の関係はよく分かりません(T-T)。流体力学あたりを詳しく勉強すると理解できるのかなと思っています。

DAY3

■チクシュルーブ隕石

今日は、アルキメデスの最期にまつわるエピソードを話していきたいと思います。

かつて、アルキメデスの祖国シラクサ(シュラクサイ)とローマが戦争していました。その戦争では、アルキメデスは投石兵器を開発するブレインの役割を担っており、シラクサはその兵器 で敵のローマ帝国の歩兵を次々に殲滅していました。投石に苦しんだローマ帝国はシラクサを取り囲み、持久戦の構えをとったのです。結局その持久戦に耐えられず、シラクサは陥落する こととなった訳ですが、その陥落と同時にアルキメデスは命を落としています。その際のエピソードは次のように語られています。

「アルキメデスが幾何学の問題を解いている最中に、ローマ兵がアルキメデスの家へと侵入してきました。庭で砂に図形を描いていたアルキメデスは、幾何学の問題を解き終わるまで待つように兵士に懇願しますが、願いも虚しくそのまま殺されてしまった。」

このエピソードからは、アルキメデスが自らの興味のある分野に対して常人とかけ離れた執着心・興味関心を抱いていた事を伺い知れることができます。こうして、古代ギリシアの大天才アルキメデスはその生涯に幕を閉じたというわけです。

ここまでアルキメデスについて詳しく見てきた訳ですが、アルキメデスの遺した功績はそのどれもが非常な鋭さを秘めています。そして、今日もアルキメデスが発見した数々の原理・法則は我々の生活の基盤として社会を支え続けています。しかしながら、太古の時代に人間が見つけ出した原理が現在まで途切れることなく受け継がれているのは奇跡であり、決して当たり前
のことではありません。このことを頭の片隅に置きながら、アルキメデスの遺した偉大な功績を眺めると、これまでに先人が紡いできた科学のたすきをより身近で面白く感じることができるのではないかと思います。

今回のアルキメデスの紹介はここまでにしたいと思います。ここまでお読みいただきありがとうございます。


DAY4

■Naokimen

今日から 3 日間はアルベルト・アインシュタイン(Albert Einstein)(1879-1955)について紹介します。アインシュタインは 20 世紀最大の物理学者、現代物理学の父と呼ばれ、かなり多くの重要な業績を残しています。高校物理の範囲ではあまりアインシュタインは出てきませんが、大学で物理を学ぶと、1 つの分野だけでなく様々な分野でアインシュタインの名が出てきてとても驚きます。

私生活では、アインシュタインは 2 度の結婚歴と数えきれないほどの不倫歴があります。1番目の結婚相手は、アインシュタインがチューリッヒ工科大学に通っていた時に同大学内で出会ったミレヴァ・マリッチという女性でした。2 人の息子をもうけ、最初は順調な結婚生活を送っていましたが、研究の成果が出て大学内での地位が上がるとともに、2 人の関係は悪化してしまいます。そんな中、アインシュタインは 2 番目の妻となる、アインシュタインの従姉であるエルザ・レーベンタールと不倫します。当然、不倫は隠し通せるわけもなく、妻のミレヴァにばれてしまい、2 人は離婚したのですが、その離婚の条件は、「ノーベル賞の賞金をミレヴァに渡す」というものでした。この時はノーベル賞を受賞する前でしたが、ノーベル賞をとることは確実だと思われていたのでこの離婚は成立しました。この 2 年後、アインシュタインは実際にノーベル賞をとり、その賞金をミレヴァに渡しています。離婚成立後、すぐに不倫相手のエルザと再婚しました。しかし、アインシュタインの浮気性は治らず、再婚してからも何度も浮気しています。エルザは夫の浮気に苦しみましたが、「アインシュタインの妻」という肩書に固執して離婚することはありませんでした。

人物像の紹介はこのくらいにして、明日からはアインシュタインの主な業績の紹介をしていきたいと思いますが、その前に、今日は簡単なクイズを出したいと思います。 

次の 3 つは全てアインシュタインが残した業績ですが、これらのうち、アインシュタインがノーベル物理学賞を受賞した理由となった業績はどれでしょうか?
A. 光量子仮説(光が粒子であるとして、光電効果(物質に光を当てると電子が飛び出す現象)を説明)
B. 特殊相対性理論(光速度不変の原理と特殊相対性原理を基本原理とした物理学の理論)
C. 一般相対性理論(重力を扱えるように特殊相対性理論を拡張したもの)

投票結果
A. 9票
B. 0票
C. 0票

DAY5

■Naokimen

今日と明日はアインシュタインの業績について紹介したいと思います。アインシュタインの業績はかなり多く、全てを紹介しきれないので、いくつかピックアップして紹介します。

さて、本日は 1905 年に発表された 3 つの業績のうち 2 つを紹介します。
①光量子仮説(1905 年)
当時、金属のような物質の表面に紫外線や X 線を当てると電子が飛び出すという現象があることが分かっていました。この現象を光電効果と言います。そして、光電効果の性質を詳しく調べると、従来の古典物理学の考え方では理解できないような実験事実がいくつか出てきました。例えば、「飛び出す電子 1 つ 1 つのエネルギーを測定すると、それは照射する光の強さによらず、振動数νのみに依存する」、「飛び出す電子の個数は、照射する光の強さに比例する」、「照射する光の振動数がある決まった振動数より小さいと、どんなに光を強めても電子は全く飛び出してこない」といったものです。そこで、アインシュタインはこの実験事実を説明するのに、「振動数νの光は hνのエネルギーを持つ粒子(=光子)の集団のようにふるまう」と考えました。h はプランク定数と呼ばれています。このアインシュタインの理論はただ光電効果を説明するだけでなく、量子力学という、古典力学に代わる新しい物理学の誕生に重要な役割を果たしました。なお、アインシュタインはこの理論により、1921 年にノーベル物理学賞を受賞しています。よって、昨日出題したクイズの答えはAになります。「アインシュタインといえば相対性理論」と思われがちですが、ノーベル物理学賞を受賞した理由となった業績は相対性理論ではなく、光量子仮説なのです。 (皆さん正解でしたが)

②ブラウン運動の理論(1905 年)
ブラウン運動とは、液体や気体中の微粒子が不規則に運動するという現象です。この現象は1827年にロバート・ブラウンによって発見されましたが、長い間その原因が分かっていませんでした。そこで、アインシュタインはこの現象を「周りには微粒子よりも小さな原子・分子があり、熱運動する原子・分子が微粒子に衝突することによって微粒子は不規則な運動をする」と考えました。このアインシュタインのブラウン運動の理論は後に実験的に証明され、原子・分子が確かに実在することの証拠となりました。私たちは、学校で原子・分子について学ぶので原子・分子が存在することは当たり前だと思いがちですが、当時は原子・分子が存在することを懐疑的に思う人が多かったそうです。原子・分子の実在性が分かったのは今から約 100 年前と案外最近のことなのですね。

DAY6

■Naokimen

本日は、まずは昨日に引き続き、1905 年に発表された 3 つの業績のうち残り 1 つを紹介します。
③特殊相対性理論
アインシュタインと言えば「相対性理論」が出てくる人はとても多いと思います。特殊相対論とは、「すべての慣性系において物理法則は同じ形式で表される」という特殊相対性原理と「光速度は慣性系によらず一定である」という光速度不変の原理の 2 つの原理を出発点として、物理学全体をそれらに従うように書きかえた、という理論です。特殊相対性理論による帰結として、同時刻の相対性、Lorentz 収縮、時間の遅れなどの直感に反する現象が出てきます。他には、質量とエネルギーの等価性を表す式「E=mc^2」も有名ですね。私たちが日常生活を送るのに特殊相対性理論は欠かせないものとなっています。例えば、GPS で特殊相対性理論が使われています。特殊相対性理論については第 45 回のワークショップ『特殊相対論入門』で扱ったので、興味のある人は note 記事を見てください。

以上のように、アインシュタインは 1905 年のたった(!)1 年間で 3 つの重要な業績を発表しました。そのため、1905 年は「奇跡の年」とも言われています。

次に、2 つの業績を紹介します。
④一般相対性理論(1916 年)
特殊相対性理論では扱うことができない力が 1 つありました。それは重力です。一般相対性理論は重力を扱うことができるように特殊相対性理論を拡張したものです。一般相対性理論は様々な現象を予言しそれらは実験的に確かめられています。例えば、重力場中では光が曲がって進むことによって起こる、重力レンズ効果という現象や、重力波、ブラックホールなどがあります。

⑤ボース・アインシュタイン凝縮(1925 年) ボース・アインシュタイン凝縮とは、「ボース粒子と呼ばれる粒子の集団では、ある温度以下では大量の粒子が 1 番低いエネルギー状態に落ち込み、粒子全体が巨大な 1 つの波として振る舞う」という現象のことです。この現象は数μK から数百 nK 以下という日常生活で出てくる温度と比べてかなり低い温度で起こります。この現象はレーザー冷却などの冷却技術や磁気光学トラップなどの捕獲技術の発達により、予言から 70 年後の 1995 年に実験的に確認されました。ボース・アインシュタイン凝縮は一般的にはあまり知られていないものですが、物理ではかなり重要な発見であり、統計力学という分野で学部で習います。

これまで 5 つのアインシュタインの業績を紹介しましたが、これら 5 つ以外にも多くの業績をアインシュタインは残しています。また、1 日目にアインシュタインの結婚歴・不倫歴について述べましたが、私生活に関するエピソードは他にもたくさんあります。ネット上にアインシュタインの業績や私生活に関する記事がたくさんあがっているので、興味のある人は調べてみてください。
明日は22:00から座談会を行います。時間のある方はぜひご参加ください。

DAY7

座談会を開催。
テーマは「各部員が大学で勉強している(したい)こと・研究している(したい)こと」

DAY8

■Yujin

こんにちは、Yujinです。物理学部WSの8日目です。

今日から3日間は、James Lighthillについて紹介します。

ライトヒルはイギリスの数学者であり, また空力音響学という分野の創始者でもあります. 数学, 物理学だけでなく, AI についての論文も執筆するほど多岐わたって功績のある人物ですが, 今回私は, 主に空力音響学という分野においてライトヒルが残した業績を紹介します.

空力音響学とは音響学の中の一分野であり, 空気が運動することによって生じる音(空力騒音)の物理学を扱う分野です. 例えば風が吹いて電柱に当たった時に鳴る音, ファンの回転によって生じる音, 鉄道車両によって生じる騒音などを扱います. ライトヒルはこの分野の創設にあたり, 空力騒音が満たす基本方程式(ライトヒル方程式)を導き, 更にそこから騒音のパワーの速度依存性(速度の冪乗則)というめちゃくちゃ実用性のある法則を発見し ました. ちなみに, ライトヒルはこれらの理論をマンチェスターからロンドンに向かう列車の中で思いついたため, たまたま持ち合わせていた封筒に書き留めたというエピソードがあります.

ライトヒルが基本方程式を導くまでは, 音源と音を伝える媒質(空気)は別のものであると考えるのが一般的でした. 例えば太鼓やギターの音は, 膜や弦の振動が周囲の空気に伝わり音となると考えることができます. この場合は, 膜や弦が音源で, 空気は音を伝えるための媒質でしかないと考えられていました. しかしライトヒルが示したライトヒル方程式は, そのような振動する物体がない場合でも, 空気がびゅうびゅうと流れるだけで音が発生し空気中を伝播するということを示しています.

空気は流体として扱えるので, 空力音響学は流体力学の一分野でもあります. ライトヒルは, 流体力学の基本方程式であるナビエ・ストークス方程式と質量保存則からライトヒル方程式を導きました. このときライトヒルは「音響的アナロジー」と呼ばれる考え方を用いました. 実は, 我々が「音波」と呼んでいるものは, 密度や圧力に殆ど変化がない空気の中を伝播する振動現象のことであり, 大きな変化のある乱流の領域では音波という振動を定義することはできません. そこでライトヒルは, 乱流から遠く離れた位置においては乱流を(狭い領域の)音源とみなすことができ, その音源の変動が遠く離れた位置に伝わる時, それを「音波」として説明できる, と考えました(図 1). この考え方が音響的アナロジーです. ライトヒルの理論の核心はこのアナロジーにあります.

さて, このライトヒル方程式から得られる重要な結果の一つに, ライトヒルの速度冪乗則があります. これは, 乱流によって生成される音のパワーが速度の冪乗に比例するという法則です. この冪は他の物理法則と比較してかなり大きく, 当時の物理学の常識からすると驚くべき結果でした. この法則から, 例えばジェットエンジンによる騒音を低減させるには, 噴出速度を減らすことが有効的であるということがわかります. この結果, ジェットエンジンは, 初期の小直径ターボジェットから, 大直径で噴出速度の小さいターボファンエンジンへと変化しました.

DAY9

■Yujin

Yujin担当の2日目です。
本日はクイズを1つ投稿しますので、お答えいただけるとありがたいです!


ライトヒルが示した「音のパワーの冪乗則」について, 音のパワーは空気の流れの速さの何乗に比例するでしょう? ちなみに, 万有引力やクーロン力は距離の 2 乗に反比例し, ケプラーの第 3 法則では, 公転周期の 2 乗は長半径の 3 乗に比例します.
A. 2乗
B. 4乗
C. 6乗
D. 8乗

投票結果
A. 0票
B. 1票
C. 1票
D. 1票

DAY10

■Yujin

Yujin担当の3日目です。

Lighthill方程式の応用について語ります。

ライトヒルが導いた方程式は, 「空気が流れると音が発生する」ことを示しました. しかし実際には, 空気の流れの中に静止あるいは運動する物体がある状況を考えないといけません. というのも, 音源となりうる乱流は, 翼や舵面などの物体の後ろ側でつくられることが多く, 物体との相互作用が重要となる場合が多いからです. このことを考慮して, ライトヒル方程式に少し手を加えて, より現実の問題に対応できるようにする必要があります.

このような動機で改良されたライトヒル方程式ですが, 解析で用いる際は, 状況に応じて主に 2 種類の式を使い分ける必要があります. 1 つはカールの式です. カールの式は, 空気の流れの中に物体が置かれた場合の音を予測するモデルであり, 自動車や鉄道騒音の予測など, 幅広い状況で利用されています. 匿名希望さんは鉄道騒音に関する研究室におられるとのことで, カールの式を用いた解析を行なっているのではないかと勝手に思ってい ます. こんど, 研究内容を聞いてみたいです.

そしてもう一つが, Ffowcs Williams-Hawkingsの式です. こちらは, 空気の流れの中で物体が運動している場合の音を予測するモデルであり, 例えばファンの回転による騒音や, 航空機による騒音(ジェットノイズや風切音)を予測することが出来ます.

このように, ライトヒルが導いた基本方程式をさまざまに応用することで, 身近な「音」に関する現象を説明することが出来ます. だからこそライトヒルは偉大なのです.

あ、ちなみにクイズの解答は「8乗」です。
当時知られていた物理法則では「8乗」という大きな冪乗は類を見ないほどデカい数でした。
ちなみに空間3次元だと8乗ですが、1次元だと6乗、5次元だと10乗になるという、現実世界では意味のない結果を出したのが卒業研究でした(泣)

DAY11

■Yuta

こんにちは、Yutaです。
今日から3日間は僕が担当させていただきます。よろしくお願いします!

紹介する物理学者はEdward Witten(エドワード・ウィッテン)です。

彼はアメリカ人の理論物理学者で、現状最も量子力学と一般相対論を矛盾なく考えることができる可能性のある理論である、超弦理論(超ひも理論)という分野において、M理論という新たな理論を提唱したことで有名です。また彼は、物理学者として初めてフィールズ賞を受賞したことでも有名です。残念なことに、ノーベル賞は受賞していません。物理のノーベル賞に関して、どうやら受賞するには実験的検証が必要だと言われているのが関係しているようです。ウィッテンの提唱したM理論をはじめとする弦理論の分野は、現在解析可能とされる物質の基本的な構成要素である素粒子の大きさのスケール10^{-10}[m]よりもさらに小さいプランクスケール10^{-35}[m]なので、実験的検証は難しいだろうと言われています。
ウィッテンはアインシュタインを超える大天才といわれますが、その所以は物理や数学において多岐にわたる業績にあります。現代の数学や物理を勉強していると、一度はウィッテンの名前が入った用語を見聞きしたことがあるのではないでしょうか。この3日間で初日と2日目でフィールズ賞をなぜ物理学者が取れたのかについて、3日目には彼が提唱したM理論の概要を紹介しようと思います。

ウィッテンは学部で歴史と言語学を専攻し、政治やジャーナリズムの道を志していましたが、大学院から物理学に切り替えて博士号を取得しています。彼の父親も理論物理学者だったらしいので、この時点でやはり普通ではない感じがします。博士号取得5年後にフィール賞受賞に繋がる論文を書きました。重力論における正のエネルギーの証明の論文です。一見数学とは関係なさそうに思えますが、この論文が数学者を驚かせました。

2日目は数学者を驚かせた理由について書いていこうと思います。1日目は以上です。

DAY12

■Yuta

Yutaです。

初日はエドワード・ウィッテンという物理学者が、物理学者として初めてフィールズ賞を受賞したという話をしました。一見数学に関係なさそうな彼の論文が数学者を驚かせたのです。

物理は自然現象を数学を使って説明するので、作った理論がいくら数学的に厳密でも、現実世界と整合性が無ければ、物理的には間違っているということになります。数学は論理のみで組み立てられた学問なので、正しさの根拠は全て論理に依存します。より抽象的であるといえるわけです。

ウィッテンは、物理を使って数学の新たな示唆を得たので数学者を驚かせました。

数学は論理的に正しいこと重視しているがゆえに、直感的にイメージできない状況にも踏み入ることができます。一方で物理は、自然現象と数学との対応が常にあります。自然現象を厳密に表すと数式として現れるわけです。この対応が物理学者には自信を与えました。逆に物理現象に対して生まれた直感から数学における論理的帰結の予想ができるというわけです。もちろん最終的には数学の論理体系で証明しないといけませんが、方法として数学だけでは思いつかないことを成し遂げたのがウィッテンの凄いところでした。(もちろん僕はまだ論文すら読めないので凄さが実感できていませんが)

ウィッテンのように、数学と近いところで物理をやっているのが数理物理という物理の分野です。数学側からの参入もあったりして面白そうです。

最終日はウィッテンが提唱したM理論について紹介したいと思います。2日目は以上です。

【クイズ】
3次元空間内にある1本の閉じた(輪として完結している)曲線を結び目といいます。結び目がほどけるかほどけないか、2つの結び目が(結び目を切ったりせずに)移りあえるかどうかを研究するのが、数学における(低次元)トポロジーという分野に分類される結び目理論です。ウィッテンは、この結び目を数式であらわしたジョーンズ多項式を物理学の概念と(結び目だけに)結びつけることで、物理学における結び目理論を「復興」しました。(マクスウェルやケルビンの時代も結び目と物理を関連づけようとする試みはあった)

次の結び目が移りあうかどうか、頭の中で変形させて考えてみましょう!(解答も2ページ目につけておきます)

DAY13

■Yuta

Yutaです。

3日目はM理論について紹介します。

超弦理論をご存じでしょうか。名前ぐらいはどこかで聞いたことがあるかもしれません。超弦理論はアインシュタインの考えた一般相対性理論と、量子力学を矛盾なく同じ枠組みで考えようという量子重力理論の「最有力候補」です。名前の通り、弦が出てくるのですが、この弦の振動の種類がなんと各素粒子に対応しているという斬新な理論です。この斬新さゆえに、いくつか問題点があるため最有力候補に過ぎず、批判の声もあります。

超弦理論にはタイプⅠ、ⅡA、ⅡB、ヘテロSO(32)、ヘテロE_8×E_8の5つのバリエーションがあります。それぞれのタイプの違いは専門的なので省きますが、これらを統合するとされるのがウィッテンの考えたM理論です。M理論では構成要素は弦ではなく膜になります。さらに超弦理論では、展開されるのが10次元だったのが、M理論では11次元と1次元多いです。現実の宇宙は時間も含めて4次元だったのではないかと思われるかもしれませんが、その通りで、ここにも超弦理論の斬新さが出ているといえます。例えばロープの上をアリが歩いているのを想像してみましょう。アリからするとロープの上を自由に動き回れるので2次元ですが、それを遠くから見ている僕らからするとロープは1次元の物体に見えます。超弦理論やM理論でも同じように、余剰次元と呼ばれる残りの6次元は小さすぎて我々には認識ができないという考え方をしているようです。

M理論から超弦理論が導出されるのでより根源的でないかという意見もありますが、超弦理論以上に未完成なので、懐疑的な声もあります。
そもそもM理論のMは何からきているかという質問に、ウィッテンは「Mは、マジック(Magic)、ミステリー(Mystery)、メンブレーン(membrane;膜)など、その人の好きなものを意味します。」と答えているらしく、J LABのJと通じるものがあるのが僕のお気に入りポイントです。

現代の研究者であるウィッテンの業績を物理・数学をやっている以外の人に詳しく紹介するのは僕の力量的にもなかなか難しいので、なんとなく伝わったならひとまず今回の目的は達成されたといえるでしょう。僕は将来的に超弦理論周辺のことを勉強して研究したいと思っているので多少無理をしてこの場で紹介させていただきました。

3日間お付き合いいただき、ありがとうございました!

DAY14

■Naokimen

これにてワークショップを閉じたいと思います。2週間ありがとうございました。また次のワークショップでお会いしましょう。


以上。

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