かっこつけて試合に行って、すぐに帰ってきた高校球児の話

今でもふと思い出します。
あの夏の、青い空を。
高校球児の雄叫びを。
あいつらの汗と涙を。

あれは忘れもしない高校3年生の6月。

高校総体間近で、みな青春の1ページに、濃く濃く最後の色を塗っていた。

俺は帰宅部の部長であったため、青春の1ページに最後の思い出を残すべく、毎日毎日、誰よりも速く、誰よりも美しく、最短距離で帰宅していた。

そんなある日、野球部のたくろうが話しかけてきた。

「少しいいか?」

俺は帰宅部部長として、誰よりも速く帰る義務があるのだが、たくろうが深刻そうだったので、渋々了承した。

「最後の夏だ。甲子園に出たい。」

俺は学校を出たい。

「1回戦と2回戦は眼中にねぇー。問題は3回戦だ。強豪高にあたる。甲子園の常連高だ。」

そっかがんばれ、んならまた明日、と言って帰ろうとすると、また止められた。

「明日、全校生徒の前で、宣言式がある。俺は高校野球に新しい風を吹かせたい。しっかり聞いてくれよな」

そういってたくろうはグラウンドへと向かっていった。俺はおやつを食べるべく、家へと向かった。

次の日の宣言式……

野球部の番だ。


「俺たち!!!野球部は!!!強豪高を打ち破り!!!甲子園のチケットを手に入れて!!!ここへ帰ってくる!!!高校野球に新しい風を吹かせたい!!!!!応援よろしくお願いします!!!」

そして………ピッチャーに彼女ができて、逆に調子が悪かったとか、みんな腰が痛かったとか、監督がいつもと違うサングラスをしていて集中できなかったとか、おかんがパーマかけてきて、恥ずかしくて集中できなかったとか、それぞれよく分からん理由をつけて、1回戦コールド負けですぐ帰ってきた。

終わり

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