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本と共に人生を歩んだ長老。ありがとう。そして、さよなら。

俺の勤めている施設には、長老のようなおじいちゃんがいる。

長老はいつも、物静かに本を読んでいる。

雨の日も、風の日も、体調が悪くて姿勢が傾いている日も、どんなときも……

決して本を手放さない。

いつも真剣な眼差しで、真摯に本と語り合っているのだ。

長老ほど本を愛し、本を大切にし、本と共に人生を歩んだ漢もいないだろう。

そんな長老であるが、どうやら最近、終活を意識し始めたらしい。

自分がこよなく愛し、大切にしていた本……

それを職員に渡すことにしたらしいのだ。

長老はいつも、本の表紙を裏返しにしている。

本の表紙を汚すことすら嫌なのだろう。

それだけ本を大切にしているのだ。

それはまるで、今にも消えて溶けてしまいそうな……小さな小さな、優しい雪のよう……


長老は押し車の上に、表紙を裏返しにした大量の本をレジ袋に入れて持ってきた。

その数、およそ30冊。

まだまだ家にあるらしい。

これから施設利用の日は毎回本を持ってきてくれると言うのだ。

なんともありがたい。

長老が彼女のように大切にしていた本たち。

俺たちはそれを大切に受け取った。

長老の想いを受け取り、これからも本を読み、もっともっと賢くなり、社会に貢献できる人間になることを誓った。

俺たちはリハビリテーション科のスタッフは、各々長老の本を大切に手に取った。

裏返してある表紙を表にした。



全部官能小説だった。


ありがとう。長老。

俺たち、大切に読みます。

ということで、リハビリテーション科の男たちは各々3冊ずつくらい持ってかえった。

俺は先輩である特権を活かし、10冊持って帰った。


次回「長老がくれた本、それはまるで奇跡の出会い」

お楽しみに!



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