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最近の【ほぼ百字小説】2024年8月20日~9月1日

*有料設定ですが、全文無料で読めます。

【ほぼ百字小説】をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。

8月20日(火)

【ほぼ百字小説】(5402) あの動物園に象はもういないが、象を撫でることはできる。壁の感触を頼りに暗闇を行くと、それがいつのまにか象の感触に変わる。運が良ければ象以外のもういない動物を撫でることもできるし、撫でられることもある。

 天王寺動物園には、もう象はいないんですよ。娘がまだ小さい頃にはまだいたんですけどね。この動物園に象はいません、という看板を見たときは寂しかった。象の喪失感は大きいですね。人間もいつそこに加わるかわかりませんが。

【ほぼ百字小説】(5403) 連日の暑さのせいなのか、この夏もずっと物干しにいる亀の甲羅は、粉を吹いたように全体が白くなっていて、なんだか違う亀みたい、というか、亀ではない別の何かのようにも見える。でも、あいかわらず煮干しは食う。

 亀日記。こういうことになってます。こんなことは今までなかった。夜は大抵水の中に入ってるから、べつに干からびてるわけでもない。そして、当たり前ですが食欲は旺盛。

【ほぼ百字小説】(5404) どんな天使にも必ずその天使と対になる天使が存在していて、めったにないことではあるが、それらの天使が出会うと双方共に消滅してしまう。音も光も伴わない消滅で、それは天使に質量がないからだと考えられている。

 亀の次は天使。『かめたいむ』と『交差点の天使』をどうかよろしくお願いします。天使の対消滅。でも爆発はしない。エネルギーに転換されるだけの質量が最初からないから。ということで、天使の性質を考察してみました。たぶん質量はないでしょうね。種類は多そう。

8月21日(水)

【ほぼ百字小説】(5405) うーん、虎かあ、と思う。まあ確かに能力は高そうだけど、いろいろと大変そうだし、猫くらいになれませんかね、なるべくかわいがられそうな。そう言うと、それができるくらいなら儂がとっくになっとる、と返された。

 仙人の弟子、みたいな話かな。杜子春みたいなやつ。虎にしてやる、とか言われたのかな。あるいは、虎に変身する術を教わってる。そして、仙人にも、やりたくてもできないことはある。

【ほぼ百字小説】(5406) あの木の上には何かがいて、いつも葉や枝のあいだから手招きしているのには気がついていた。あれは誘ってくれていたのかなあ。あの木はもう切り倒されてしまったから、行かなくてよかったのか、行けばよかったのか。

 木の上にある世界の話。そういうものはありそうな気がしますね。とくに、子供の頃は、そういうものがあるように感じていた。いつでも行けると思ってたら、そこへの通路が突然失われてしまったりする。あるあるですよね。

8月22日(木)

【ほぼ百字小説】(5407) 夕方、うどんを食いに行こうと娘と自転車を連ねて走っているその道中で、まるで秋空に引かれたような鮮やかで長くてまっすぐな飛行機雲に声を上げて、その夜あたりから暑さが和らいできた。季節は空からやって来る。

 日記です。そのまんま。今日はまた暑くなりましたが、それでも季節は動いている。毎年思うことではありますが。いや、それにしても見事な飛行機雲だったなあ。

【ほぼ百字小説】(5408) 旅先の妻から写真が送られてくる。今夜は狸小路に泊まるとか。そっちにも狸はいるのか、とコメントすると、エゾタヌキというのがいる、と。化かすのかな。つぶやきながら見ているこの写真も、狸が送ってきたのかも。

 これまた日記。なるほどエゾタヌキか。

8月23日(金)

【ほぼ百字小説】(5409) 昨夜の雨で濡れて黒くなったアスファルトの上に、昨夜の風で散った無数の小さな赤い花が落ちている。それは、昔どこかで見た星空のようでしばし見入ってしまい、それにしてもそんな星空、いったいどこで見たのやら。

 実際こういうものを見て、ほんとにそれが星空みたいに見えた。でも、赤い星ばっかりの星空なんて、あるわけないし、でもそれを見た記憶があるとしたら、とか。不可解な記憶の話、かな。

【ほぼ百字小説】(5410) 広範囲の停電が起きた。それを起こしたのは盗賊団で、そのあいだに彼らはこの街を書き換えた。だからもうこの街は以前のこの街ではなく、この街の住民は彼らに盗まれたのだ。今は、盗賊団の一味として暮らしている。

 このあいだ大阪で停電があって、まあうちは大丈夫だったんですが、その住民も電気で動いている街が停電したらどうなるのだろう、みたいなことを考えて、そしてその停電に目的があったら、とかそんな話に。関係ないけど、「一味」ってなかなかいい言葉だと思う。何かの一味になりたい。

8月24日(水)

【ほぼ百字小説】(5411) UFOに連れ去られた妻が、何事もなかったようにひょっこりと帰ってきた。見た目はなんにも変わらないのだが、よく見ると地に足が着いてない。床にも着いてない。わずかに浮いている。妻ではなくヒト型UFOかも。

【ほぼ百字小説】(5412) UFOに連れ去られていた妻が帰ってきた。いろんなところを巡ってきたという。楽しげにいろんなところのいろんな話をしてくれる。いい旅だったんだな。こっちは特に変わったことはなかったよ。それが何より、と妻。

 妻の帰還二題、みたいな感じかな。旅行から帰ってきたのをそのまんま。だからまあ日記みたいなもんですね、これも。ちょっと盛ってますが。まあ日記というのは基本的に盛るものですから。そして、北海道と言えばUFO(個人的な印象です。)なので、その点も盛りました。

8月25日(日)

【ほぼ百字小説】(5413) 空き地にはありふれた金庫が落ちていて、納戸では謎のスナイパーがずっとターゲットを狙っている。ねこのラジオをチューニングすれば、聞こえるのはお馴染みのかめたいむ。ほら、交差点の天使もいっしょに歌い出す。

 百字劇場が五冊になったので、その記念公演の一場面、みたいな感じで。劇場の舞台の上でこんなのをやってるところを想像してください。五冊の表紙を並べるとイメージしやすくなります。

8月26日(月)

【ほぼ百字小説】(5414) 百字で作られた劇場で、劇場だからその中身の百字は常に入れ替わっている。常に入れ替わってはいるが、常にそこには百字があるから、それが劇場の形を保っていて、流れの中の渦のようなそれを仮に劇場と呼んでいる。

 この【ほぼ百字小説】とシリーズ『百字劇場』について、なんとなく持っているイメージ。こういうことが出来つつあるのではないか、ということ。そういう「動的」な小説の形。それがおもしろいと思っている。あんまり小説業界とか文学業界みたいなところには理解されませんが、まあそれはこれまでにないものだから仕方がない。商売には向いてないですからね。評価されるのは死んでからかな、とか思います。まあ生きてるうちは、とりあえず自分がおもしろいと思う方向に行けるだけ行きたいと思います。たまにおなじように感じておもしろがってくれる人もいて、こうして本も出せたりするし。ということで、『百字劇場』五冊をよろしくお願いします。

【ほぼ百字小説】(5415) 亀の甲羅に刻まれた溝を見るたびに、もしかしたらそうなのでは、と思っていたが、やっぱりそうだったのか。ターンテーブルの上で三十三回転する亀の甲羅にそっと針を落とすと、再生される曲はもちろん、かめたいむ。

 亀の甲羅の溝は年輪状になってるので、ほんとにLPレコードっぽい。色も似てるし。とか思って書いたんですが、考えたら「かめたいむ」が「サマータイム」の替え歌で、それをしょっちゅう口ずさんでいる、なんてこと、普通はわかりませんよね。だからこれだけ読んでも、なんのこっちゃ、だろうなあ。いや、わかってもやっぱりなんのこっちゃですね。まあそれでもいいと思うけど。

8月27日(火)

【ほぼ百字小説】(5416) まもなくこの列車はふたつに分かれて、前半分は空港へ、後ろ半分は山へと向かうらしい。なるほどたしかに、前半分には翼が、後ろ半分には足が用意されている。進化のレールの向こうから、お別れの駅が近づいてくる。

 言ってしまうと、和歌山に行ったのです。天王寺から紀州本線で和歌山へ行く途中で、日根野で切り離して、空港へ行く列車と和歌山へ行く列車に分かれます。関空に行こうとして、のんびり乗ってて、あわてて前へと走ったり。なんか進化の分かれ道みたいでおもしろい。そういうのを説明なしに書いたやつ。

【ほぼ百字小説】(5417) 子熊がのこのこと歩いている山道をいつも頭に描いていたが、もちろんそんなところではないし、看板に偽りあり、でもない。熊の子道でなく、熊野古道なのだ。まあそれはそれで違うシーンが頭の中に展開されているが。

 和歌山の続き。これ、思いますよね。あるあるでしょう。とにかく音で聴くその名前がかわいすぎる。絶対それをイメージしますよね。言葉とイメージの繋がりはなかなかおもしろい。まあ実物の熊は怖いですが。

【ほぼ百字小説】(5418) 海まで続く急坂を夜毎夜毎、何かが転がり落ちていく。海岸に着いたときにはひとまわり大きくなっていて、そのままざんぶと海に入って戻ってこない。坂のてっぺんにはバブルの頃に建てられた豪華ホテルの廃墟がある。

 これも和歌山。海までの急坂と近くにバブルの頃の廃ホテルがあったのは本当。なかなかいいシチュエーションだったので、そこにありそうな不可解な実話怪談風のをひとつ。ちょっと妖怪っぽいやつ。

8月28日(水)

【ほぼ百字小説】(5419) 早朝の港には月面から見た地球そっくりの月が浮かんでいて、白黒茶虎の猫たちとその子供たちと空をくるくる回る鳥たちや地上に直立する鳥たちが、二足歩行の連中が運んでくる魚をどの鳥より首を長くして待っている。

 和歌山の続き。日記というか、早朝の港のスケッチみたいなもの。猫も鳥もはっきり魚を待っていて、その景色はなかなかおもしろかった。

8月29日(木)

【ほぼ百字小説】(5420) 鳥のように見えるが、鳥の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。翼のある夜の群れが、数を増しながら西から東へと移動していく。それがこの惑星の夜の正体。朝の正体はまだわからない。

 和歌山の続き。朝の港。魚のおこぼれを狙ってか、鳶がたくさん飛び回ってた。それを見て。

【ほぼ百字小説】(5421) 猫のように見えるが、猫の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。星のように見えるのは猫の形の目の部分で、それらが渦巻いて星雲を作っていることから、猫の形の夜たちの運動がわかる。

 空には鳶、そして地面には黒猫。黒猫が何匹もいました。もちろんそいつらも魚を狙っている。ということで、空も地面も夜が動き回ってました。

8月30日(金)

【ほぼ百字小説】(5422) 個々の蟻にはたぶん自意識はないが、蟻塚全体をひとつの生き物として見れば自意識のようなものが感じられる。この私とは関係なく、そんなふうなものになったらおもしろいと思う。あ、百字小説の話ね、これも含めて。

 知性とか意識というのは、ひとつひとつは単純な反射みたいな運動が大量に連なった結果として生まれるのではないか、という考え方は昔からありますね。私もそうではないかと思う。水面の波とか、雲とか、渦とか、そういうのに近いものじゃないかと思う。そして、言葉というもののふるまいは、生き物のように見えることがある。実際、言葉とか文章は、その伝達の仕方とかを見ていると、人間の脳に寄生した生き物のように見えますね。まあそんなふうなこと。小説もそうなんですが、マイクロノベルは短くて複製されやすい分、さらに生き物のふるまいに近いと思う。ネットという環境あってのものだし。それが彼らにとっての自然環境でしょうね。ここも含めて。

8月31日(土)

【ほぼ百字小説】(5423) 亀と天使が似ていることは、こうして並べてみるまで気づかなかった。なんでも並べてみるものだな。亀と天使がじつは同じもので、我々はその同じものの別の側面を見ているだけなのかも、という仮説の検証はこれから。 

 ということで、『かめたいむ』『交差点の天使』、本日発売です。亀と天使の百字を並べてます。そしてこれはその作業をやっていて思ったこと。検証、よろしくお願いします。

9月1日(日)

【ほぼ百字小説】(5424) 甲羅にするか、翼にするか。どちらか選べと言われて、迷いに迷い、考えに考えた挙句、今もどちらかに決めることができないままで、それでこんなことををしているのかなあ。甲羅でも翼でもないものがこれなのかもね。

 これまた『交差点の天使』と『かめたいむ』の話。天使と亀の関係、みたいなこと。いや、単なる宣伝かもしれませんが。でも、甲羅か翼か、というのは、なかなかいい問いだと思います。どっちがいいのかなあ。ここで甲羅を選んだのが亀、翼を選んだのが天使、なんでしょうけど。

【ほぼ百字小説】(5425) 大きな門であり橋でもあった建物が取り壊された後の更地で拾ったのだ。あのときはまだわからなかったが、それがジグソーパズルの最初のピースで、拾ったのではなく拾われたのか、と今はそのパズルの中で思っている。

 これも【ほぼ百字小説】の話。新世界のフェスティバルゲート、そこにあったブリッジという建物の跡。そこに落ちていた天使のことを書いたのが【ほぼ百字小説】の始まりで、そしてそれは『交差点の天使』の最初に入ってます。くわしくは、『交差点の天使』の全作解説に。


【ほぼ百字小説】(5426) 気がついたら、突堤の先に立っていた。灯台としてここに送られてきたらしい。灯台としての役目を終えるまでずっとここに立ち続けねばならないのだな。灯台がなければ、迎えの船がここに来ることもできないのだから。

 和歌山の続き。港をうろうろしていて。突堤とか灯台はいいですね。灯台になる人の話は、前に書きましたが、これは罰としての灯台かな。学校で叱られて立たされてるみたいな感じ。これなら役目を投げ出すわけにもいかないし。

 ということで、今回はここまで。

 まとめて朗読しました。

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【ほぼ百字小説】(5402) あの動物園に象はもういないが、象を撫でることはできる。壁の感触を頼りに暗闇を行くと、それがいつのまにか象の感触に変わる。運が良ければ象以外のもういない動物を撫でることもできるし、撫でられることもある。

【ほぼ百字小説】(5403) 連日の暑さのせいなのか、この夏もずっと物干しにいる亀の甲羅は、粉を吹いたように全体が白くなっていて、なんだか違う亀みたい、というか、亀ではない別の何かのようにも見える。でも、あいかわらず煮干しは食う。

【ほぼ百字小説】(5404) どんな天使にも必ずその天使と対になる天使が存在していて、めったにないことではあるが、それらの天使が出会うと双方共に消滅してしまう。音も光も伴わない消滅で、それは天使に質量がないからだと考えられている。

【ほぼ百字小説】(5405) うーん、虎かあ、と思う。まあ確かに能力は高そうだけど、いろいろと大変そうだし、猫くらいになれませんかね、なるべくかわいがられそうな。そう言うと、それができるくらいなら儂がとっくになっとる、と返された。

【ほぼ百字小説】(5406) あの木の上には何かがいて、いつも葉や枝のあいだから手招きしているのには気がついていた。あれは誘ってくれていたのかなあ。あの木はもう切り倒されてしまったから、行かなくてよかったのか、行けばよかったのか。

【ほぼ百字小説】(5407) 夕方、うどんを食いに行こうと娘と自転車を連ねて走っているその道中で、まるで秋空に引かれたような鮮やかで長くてまっすぐな飛行機雲に声を上げて、その夜あたりから暑さが和らいできた。季節は空からやって来る。

【ほぼ百字小説】(5408) 旅先の妻から写真が送られてくる。今夜は狸小路に泊まるとか。そっちにも狸はいるのか、とコメントすると、エゾタヌキというのがいる、と。化かすのかな。つぶやきながら見ているこの写真も、狸が送ってきたのかも。

【ほぼ百字小説】(5409) 昨夜の雨で濡れて黒くなったアスファルトの上に、昨夜の風で散った無数の小さな赤い花が落ちている。それは、昔どこかで見た星空のようでしばし見入ってしまい、それにしてもそんな星空、いったいどこで見たのやら。

【ほぼ百字小説】(5410) 広範囲の停電が起きた。それを起こしたのは盗賊団で、そのあいだに彼らはこの街を書き換えた。だからもうこの街は以前のこの街ではなく、この街の住民は彼らに盗まれたのだ。今は、盗賊団の一味として暮らしている。

【ほぼ百字小説】(5411) UFOに連れ去られた妻が、何事もなかったようにひょっこりと帰ってきた。見た目はなんにも変わらないのだが、よく見ると地に足が着いてない。床にも着いてない。わずかに浮いている。妻ではなくヒト型UFOかも。

【ほぼ百字小説】(5412) UFOに連れ去られていた妻が帰ってきた。いろんなところを巡ってきたという。楽しげにいろんなところのいろんな話をしてくれる。いい旅だったんだな。こっちは特に変わったことはなかったよ。それが何より、と妻。

【ほぼ百字小説】(5413) 空き地にはありふれた金庫が落ちていて、納戸では謎のスナイパーがずっとターゲットを狙っている。ねこのラジオをチューニングすれば、聞こえるのはお馴染みのかめたいむ。ほら、交差点の天使もいっしょに歌い出す。

【ほぼ百字小説】(5414) 百字で作られた劇場で、劇場だからその中身の百字は常に入れ替わっている。常に入れ替わってはいるが、常にそこには百字があるから、それが劇場の形を保っていて、流れの中の渦のようなそれを仮に劇場と呼んでいる。

【ほぼ百字小説】(5415) 亀の甲羅に刻まれた溝を見るたびに、もしかしたらそうなのでは、と思っていたが、やっぱりそうだったのか。ターンテーブルの上で三十三回転する亀の甲羅にそっと針を落とすと、再生される曲はもちろん、かめたいむ。

【ほぼ百字小説】(5416) まもなくこの列車はふたつに分かれて、前半分は空港へ、後ろ半分は山へと向かうらしい。なるほどたしかに、前半分には翼が、後ろ半分には足が用意されている。進化のレールの向こうから、お別れの駅が近づいてくる。

【ほぼ百字小説】(5417) 子熊がのこのこと歩いている山道をいつも頭に描いていたが、もちろんそんなところではないし、看板に偽りあり、でもない。熊の子道でなく、熊野古道なのだ。まあそれはそれで違うシーンが頭の中に展開されているが。

【ほぼ百字小説】(5418) 海まで続く急坂を夜毎夜毎、何かが転がり落ちていく。海岸に着いたときにはひとまわり大きくなっていて、そのままざんぶと海に入って戻ってこない。坂のてっぺんにはバブルの頃に建てられた豪華ホテルの廃墟がある。

【ほぼ百字小説】(5419) 早朝の港には月面から見た地球そっくりの月が浮かんでいて、白黒茶虎の猫たちとその子供たちと空をくるくる回る鳥たちや地上に直立する鳥たちが、二足歩行の連中が運んでくる魚をどの鳥より首を長くして待っている。

【ほぼ百字小説】(5420) 鳥のように見えるが、鳥の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。翼のある夜の群れが、数を増しながら西から東へと移動していく。それがこの惑星の夜の正体。朝の正体はまだわからない。

【ほぼ百字小説】(5421) 猫のように見えるが、猫の形の夜なのだ。またすこしその数が増えて、またすこし夜に近づいた。星のように見えるのは猫の形の目の部分で、それらが渦巻いて星雲を作っていることから、猫の形の夜たちの運動がわかる。

【ほぼ百字小説】(5422) 個々の蟻にはたぶん自意識はないが、蟻塚全体をひとつの生き物として見れば自意識のようなものが感じられる。この私とは関係なく、そんなふうなものになったらおもしろいと思う。あ、百字小説の話ね、これも含めて。

【ほぼ百字小説】(5423) 亀と天使が似ていることは、こうして並べてみるまで気づかなかった。なんでも並べてみるものだな。亀と天使がじつは同じもので、我々はその同じものの別の側面を見ているだけなのかも、という仮説の検証はこれから。 

【ほぼ百字小説】(5424) 甲羅にするか、翼にするか。どちらか選べと言われて、迷いに迷い、考えに考えた挙句、今もどちらかに決めることができないままで、それでこんなことををしているのかなあ。甲羅でも翼でもないものがこれなのかもね。

【ほぼ百字小説】(5425) 大きな門であり橋でもあった建物が取り壊された後の更地で拾ったのだ。あのときはまだわからなかったが、それがジグソーパズルの最初のピースで、拾ったのではなく拾われたのか、と今はそのパズルの中で思っている。

【ほぼ百字小説】(5426) 気がついたら、突堤の先に立っていた。灯台としてここに送られてきたらしい。灯台としての役目を終えるまでずっとここに立ち続けねばならないのだな。灯台がなければ、迎えの船がここに来ることもできないのだから。
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