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今週の【ほぼ百字小説】2021年12月13日~12月19日


 今週もやります。よろしくおつきあいをお願いします。【ほぼ百字小説】をひとつツイートすると、それについてひとつ書きます。100円で一週間分読めます。最後に全部を通して朗読して音声ファイルを貼ります。まあ道端でやってるライブに投げ銭する感じで100円投げていただけるとなかなか励みになります。

 今回も、オマケ掌編『ショートカメリ』がついてます。


12月13日(月)

【ほぼ百字小説】(3505) はて、こんなところに池なんかあったかな、と首をかしげはしたが、もちろん池などなかったことくらいわかっている。池の真ん中あたりではごぼごぼごぼと勢いよく水が湧き出しているから最近できた池という設定かな。

 狐狸もの、ということになるのかな。まあ狐に化かされる、みたいな話です。こないだちょっと思いがけないところで小さな池を見て、こんなことを考えた。なんか化かされてるみたいな感じ、とか。上方落語の『七度狐』に、旅人の前にいきなり川が現れる、という場面があって、中では「にわかにできた川」と言ってたりします。この「にわかにできた川」をめぐるやりとりが子供の頃から大好きでした。「川てなもんが、にわかにできたりするか?」とかそんなの。これの場合は、こんな池があるはずはないから化かされているのはわかってて、でもどういう設定で化かそうとしているのかな、みたいなオチに持っていってますね。

 では、にわかにできた川の話をひとつ。

【ほぼ百字小説】(3294) にわかに川が出現するのは狐か狸の仕業だから化かされないように。昔からそう言われてきたものだが、最近ではもうそんなことを言ってもいられず、ただちに命を守るための行動をとらねばならない。もちろん狐や狸も。

 まあ身も蓋もない話ですね。

 

【ほぼ百字小説】(3506) 階段は狭くて長いし、すぐ下に横断歩道と信号もあるし、こんなの誰も使っていないのでは、とその歩道橋を見る度に思っていたが、気紛れに階段を上ってみて、しばらく眺めてから引き返した。あの世界は彼らのものだ。

 風景もの、かな。この歩道橋は実際にあります。たぶん誰も使ってない、というのもそのまんま。一時期歩道橋やら地下道がやたらと作られたことがありました。でも、人間って思うほど歩道橋を使わないですね。待つ方が楽だから。ということで、あの歩道橋の階段の上には、人間が来ないスペースが存在する、ということで。歩道橋自体は誰もが見ているのに、階段を上がったところには誰も見てない世界がある、というのがなかなかおもしろいんじゃないかと。そこに何が展開されているのか、というのは書かずに終える、というまあこれは小説の常套手段。締めのフレーズは、『2010年宇宙の旅』に引っかけてます。クラークの小説の中では、かなり好きなほうです。木星に行くまでの段取りがたまりません。『2001年宇宙の旅』の小説版(原作じゃないんですね。同時進行で書かれたものだから)では、ディスカバリー号は土星に行くんですが、小説の『2010年宇宙の旅』では、映画に合わせて木星に行ってます。そういうちょっとややこしい関係の小説と映画で、そういう変なねじれかたをしているのも含めて好きです。あ、映画の『2010』も、クラークの小説の映画化としてかなりのクオリティだと思います。なんといってもSF映画らしい実直なSF映画。キューブリックの『2001年宇宙の旅』の続編、というふうに見られて、いきなり負け戦みたいになってしまってますが、いいSF映画です。もうちょっと評価されてもいいと思う。余談ですね。

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