見出し画像

最近の【ほぼ百字小説】2024年6月6日~6月17日

*有料設定ですが、全文無料で読めます。

【ほぼ百字小説】をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。


6月6日(金)

【ほぼ百字小説】(5252) 犬くらいの大きさで犬みたいな形の雲が、二階の窓のすぐ外によく浮かんでいた。近所に同じような記憶を持っている者が何人かいるから、たぶんあの雲はいろんな家の二階を行き来していたのだろう。シロと呼んでいた。

 不可解な記憶の話。このまんまではないんですが、こんな感じの低いところを漂ってる雲の記憶があります。まあ夢だと思うんですけどね。二階くらいの高さを雲が漂ってる映像みたいなもの。まあそれについては前にも書いたことがある。それを変形して書いた。まあ雲で白いから名前をつけるとしたらそうなるだろう、とか。


【ほぼ百字小説】(5253) 亀鳴くという季語があるから亀は鳴くと思われているかもしれないが、亀は鳴かない。それでも、鼻息がぴいぴいと鳴ることはある。細い息でラッパを吹くとよく似た音が鳴ることがあって、そんなときは亀になった気分。

 そのまんまですね。亀は鳴かない。そう言えば、寺田寅彦の随筆にもそんなのがあったか。ガメラは吠えますが、まあガメラが亀とは限らないからな。そして、亀の鼻息はかなり強い。

【ほぼ百字小説】(5254) 猫ロボが、酒と料理を運んでくる。人手が足りないので、猫ロボの手を借りるのが普通になった。しかし人間がやっていたときより速い。それに安くてうまくて量も多い。皆大満足だが、奥に狸ロボがいることは知らない。

 いや、これだけの話。猫ロボはもちろんファミレスのあれ。そして猫ロボの手も借りたい、というのと、ヒトじゃないものが運んでくる料理、とくれば、狐狸に化かされる話。狸はロボになっても化かす能力はあるはず、というか、そのための狸ロボでしょうね。

【ほぼ百字小説】(5255) 夜道でこの世のものではないものに出くわしてしまったときは、なんにも見なかった顔でそのまますれ違うこと。そこまではやれるが、振り返らず早足にもならず普段通り家まで歩き続けるのは難しい、と今実感している。

『クマにあったらどうするか』という本があって、内容もおもしろいんですが、なによりもタイトルが秀逸ですよね。このタイトルだけで手に取って読みたくなります。まあそんな話ですね。どうするか、という答えはあって、でもその通りにやれるかどうか、となるとなかなか難しいのはクマと同じ。

6月9日(土)

【ほぼ百字小説】(5256) 舗装されてからはもうわからなくなってしまったが、まだ路地の地面が土と砂だった頃には、朝見ると波が作った模様があちこちに残ってたりしてね。ああ、夜のうちに海が遊びに来てたんだなあ、とかわかったもんだよ。

 この【ほぼ百字小説】には何度も登場する生きている海。ソラリスの海ですね。ソラリスの海には、町が丸ごと浮かんでたりしますが、そんな町に住んでいるとこういうこともあるかも。その町に住んでいる人もまた海が作ったものかもしれませんけどね。それと、毎月やってる【まちのひ朗読舎】という会は中崎町の古い路地の中にあって、その路地は舗装されてないんですよ。雨が降った後なんかは、そこに波の模様みたいなのが残ってたりする。そのへんから思いついたやつ。


【ほぼ百字小説】(5257) あの潰れた会社には今も泥の社員が残されていて、いろんな仕事をさせることができる。正社員の命令には従うから、偽の社員証があればいい。泥社員が偽社員に使われてるわけだね。これが偽造社員証、お安くしとくよ。

 泥もの。泥人間の話もいろいろ書いてます。カメリにも出てくる「ヒトデナシ」みたいなもんですね。といってもそんな喩えよけいにわかりにくいか。まあようするに、ゴーレムです。泥で作った人造人間。ということで、そういうのを泥社員として働かせてた会社。社員の命令を聞かないといけない、というのは『ロボコップ』かな。あの映画のあれは、いわゆるロボット工学三原則のパロディとしてもよくできてますね。社員にあらずんば人間にあらず、みたいな規則。で、そういう社会における闇商売のひとつ、みたいな感じかな。

6月9日(日)

【ほぼ百字小説】(5258) 頭と両肘の三点で倒立すると、地球を押しながら宇宙を飛行する自分の姿がイメージできて楽しい。足で立っていても地球を押していることに変わりはないのにそうならないのは、当たり前のような当たり前でないような。

 いわゆる「ヨガの逆立ち」というやつなのかな。『野口体操』という本で、そういう逆立ちのやり方があるのを知った。おもしろそうなのでやってみると、できるようになった。子供の頃から逆立ちはやりたいけどできなくて、でもこのやり方ならできる。それがおもしろくてたまにやってます。重力というのはおもしろいですね。普段あんまり意識してないことが、さかさまになると意識できる、というのも。

【ほぼ百字小説】(5259) ジェットコースターに乗っていることに気づいたのは最近。ゆっくり登っているとき、それがジェットコースターとはわからない。長い登りが終わった今、もうみんな悲鳴をあげているから、わざわざ教えなくてもいいか。

 あるあるですね。今の日本、あっちこっちがこんな感じじゃないでしょうか。もちろん、こんなこともわざわざ言う必要はないですが。


【ほぼ百字小説】(5260) 急降下に宙返りにきりもみに逆走、怖いジェットコースターにもいろいろだが、なんと言ってもいちばん怖いのは、安全性に不安があるジェットコースター、と確信している今だが、これ本当にジェットコースターなのか。

 ジェットコースターの続き。私、ジェットコースター、ダメなんですよ。ずっと好きだと思ってたのに、あるとき、もしかしたらこれ、好きだと思ってただけで、ただ怖いだけなのかも、と気がついて、そうなってからはもう怖くて乗れなくなった。不思議なもんですね。大人になるというのはそういうことなのかも。たぶん違いますけど。

6月10日(月)

【ほぼ百字小説】(5261) 木の枝に傘がぶら下がっている。あんなに高い枝にいったい誰が柄を引っかけたのか。首を傾げていると、ばさ、と開いて、逆さまのまま何度か羽ばたき、くるりと反回転して夕空に消えた。蝙蝠傘はああやって眠るのか。

 実際に傘が引っかけられてた。そして逆さまの状態で開いてた。あれはたぶん、鳥の巣からの糞よけにそうしてるんじゃないかと勝手に思ったんですが、なんとなくそれが妖怪っぽくて。唐傘お化けが好きなんです。唐傘だと柄で引っかけられないから、蝙蝠傘にしました。眠る様も蝙蝠っぽいし。

【ほぼ百字小説】(5262) たまに錨が落ちている。どこから下ろされているのかは知らないが、それに身体を縛りつければ、出発のときいっしょに引き上げてくれる。あ、もう先客が、と思ったらそうではなく、錨に縛られて投げ込まれたのだとか。

 じつはここは海の底で、見上げると船底が見える、というようなことをよく妄想します。路地を歩いているときとかに。そうなるとここに錨が下ろされるだろう、その錨に、という妄想の続き。でもまあ上には上の事情がいろいろあって、こちらにはわからない。

6月11日(火)

【ほぼ百字小説】(5263) 娘が日傘を差して行った。あいつが日傘なんか差すとは。作るだけ作ったままでずっと使わなかったコンタクトレンズも使い出したし、いろいろ変わった。あ、あいつの好きな胡瓜がもうなかったな。今日スーパーで買おう。

 娘定点観測もの。この【ほぼ百字小説】を書き始めた頃は、小学生だったんですが、もうすっかり大きくなりました。大人にとってはちょっと前くらいの感じですが、子供の八年はすごいですね。変わったことはたくさんありますが、変わらないこともある。

【ほぼ百字小説】(5264) 真夜中、どこからか話し声が。はて、と耳をすますと、どうやら小さな話たちが話しあっているらしい。お互いの小さな話について話しあうその中から、またひとつ話が生まれ、話の輪に加わる。そんな話も聞いたような。

 これは、まあひとつの夢ですね。こういうことをよく考える。小さい話が自分たちで勝手に話あって、そして増殖していく。実際、これまで書いたものを眺めていて、その隙間を埋めるように別のが書けたりもするから、もうこうなっているのかもしれません。

6月12日(水)

【ほぼ百字小説】(5265) 坂が好きなのに近所には坂がほとんどない。それでも、こんなところに、という場所に坂はあって、新しく見つけると嬉しくてその坂に名前をつける。坂でなくても坂の名前を付けると坂になることには、最近気がついた。

 坂は面白いですよね。昔から、高低差がある風景が好きでした。あんまり坂のないところで育ったからかもしれません。今住んでるところにもほとんどない。東京は坂が多くていいですね。行くたびにちょっとうらやましくなる。で、こういうことになる。


6月13日(木)

【ほぼ百字小説】(5266) またやるって言ってるよ。勝つまでやるだろうね。そして、勝ったって言うだろうね。負けたんだからもう文句は言わせないって。それとは何の関係もないことにも。まあそのためにまたやるって言ってるんだろうけどね。

 日記です。大阪の今現在の記録として。

6月14日(金)

【ほぼ百字小説】(5267) ガラスケースに入った人形が道路脇に捨てられて回収を待っているのだが、そのガラスケースは鎖や縄で何重にもぐるぐる巻きにされていて、おまけにケースの両開きの扉に何枚も貼り付けられているのはお札らしいのだ。

 あったら嫌なものあるある、みたいな感じですね。ガラスケースに入ってた人形が捨てられていたのは本当。人形が捨てられてるのはわりとそれだけでぞわぞわするものがありますが、どうなってたらもっと嫌だろう、とか思って。定番なんですが、こういうのは定番がいいですね、いや、嫌。

【ほぼ百字小説】(5268) 夜、三十分ほどかけてゆっくり走るコースがあって、順番に現れるいろんなものやいろんなことに呼び名をつけ、頭の中でその呼び名にもっとふさわしい形を与える。ゆっくり走りながらその風景の中へと入っていく遊び。

 走るのは好きで、夜にゆっくり三十分とか四十分走ります。もうどうせ速くはならないし、無理して壊れたら大変なので、ほんとにゆっくり。朗読とか演劇ができる身体にはしとかないと、とかその程度。で、わりとこういうことをやる。山とか谷とかそんなところを走ってることをイメージするんですが、考えたら子供の頃、道端で探検ごっこをしていたのと同じですね。溝に棲んでいるワニと戦ったり逃げたりしてました。

6月15日(土)

【ほぼ百字小説】(5269) 幽霊祭りがあると聞いてさっそく来てみたのに、それらしきものはどこにもない。幽霊の祭りではなくて、幽霊部員みたいなものなのかな。お祭りの券だけを買ってお祭りには行かない幽霊参加者という方法を勧められた。

 とり・みきさんのツイートで「幽霊祭り」なるものが行われているお寺の話があって、そこから。いいですね、幽霊祭り。陰なものと陽なもの、他にもいろいろ背反するものが無理やりくっついてる感じがとてもいい。幽霊のお祭りなのか、お祭りの幽霊なのか、とか。そしてちょっと時事ネタとして、幽霊参加者大歓迎の自民党の裏金パーティ。

【ほぼ百字小説】(5270) ルーレットだったのか。巨大なリングが完成してからそうだとわかる。負けることは決まっている。軟弱地盤の上に作られた水平ではないルーレットだ。もう有り金は勝手に黒に置かれた。玉は赤字にしか止まらないのに。

 大阪、今ココ。さあ、張った張った。

6月16日(日)

【ほぼ百字小説】(5271) 空き地に幽霊が出る。雨が続くと伸びる。大人の幽霊ではないのに大人より背が高くなったり。空き地を埋めつくす幽霊たちで地面が見えなくなる頃、全ての幽霊が刈り取られる。刈り取るところは、まだ見たことがない。

 幽霊と植物はなんとなく似ている。まあ幽霊の正体見たり枯れ尾花、なんて言うくらいだから、立ち姿が似ているのかな。幽霊は見たことないですけどね。空き地に出そうなところも似てますね。前に何があったのかもう忘れてしまった空き地なんかに。

【ほぼ百字小説】(5272) ずっと葉っぱだとばかり思っていたが、よくよく見ると緑色の薄っぺらな手で、それらが蔦のようにあの空き家を覆いつくしていたのだ。手だとわかったのは、これまでパーだけだったのに、グーやチョキも出てきたから。

 怪奇つながり、そして植物つながり、かな。手のように見える葉はたくさんありますよね。そしてなぜ手のように見えるのかと言えば、掌を広げた形だから、それならそれ以外の形は、というところから。あと、実際に蔦に覆われている家がよく通る道にあるから、前を通るたびに、あれが手だったら、とか考える。

【ほぼ百字小説】(5273) 妻は指だけ安静状態。針金入りの小指だけがぴんと立ったその形は、そういうマイクの持ちかたをする人のそれで、見るたび笑ってしまうが、小指が使えないだけでこんなに不自由。骨折って知る小指の恩、てなところか。

 ということで、なかなか大変です。まあ小指が使えないだけで、本人はいたって元気なので、この程度の笑いごとですが。まあもう若くないので骨ももろくなってるんでしょう。気をつけて生きていきましょう。

6月17日(月)

【ほぼ百字小説】(5274) 時を遡って伏線を張ってくるだけの簡単な仕事。そう聞いて引き受けのだが、せっかく張り巡らせたどの伏線にも主人公はまるで気づいてくれず、仕方がないから代わりに回収を続けていくうち、いつのまにやら主人公に。

 タイムトラベルの目的が伏線を張りに行く、というのはなかなかいいんじゃないかと思います。そして、伏線ってそういうもんなんじゃないかとも。結末まで作ってから、遡って張っていく、というところがありますからね。私はめんどくさがりなのでほとんどやりませんが。

【ほぼ百字小説】(5275) 外海に捨てたはずの鯨の死骸が、怪獣化して帰ってくる。怪獣は何かに惹かれるかのように万博会場である埋立地に上陸するが、踏み抜いたアスファルトから噴き出したメタンガスによって大爆発。その頃、東京では――。

 万博と言えば怪獣、というのは、たぶん我々の世代(1962年生まれ)にならわかるでしょう。万博のために怪獣を連れてきたり、万博の展示物を壊すために万博会場に怪獣が現れたもんです。そのくらい万博には勢いがあった。怪獣が乗っかりにきたんですね。あ、もちろん今回の万博と違いますよ。千里でやった万博の話です。でもまあ今度のやつは今度のやつでやりようはあるんじゃないかな。

【ほぼ百字小説】(5276) そればっかり履くから破けてしまって、ほど良い短パンがない、とぼやいていたら、妻がフリマで百円で買ってきてくれた。ほど良い。そして私くらいの人間が履くと、たとえ百円の短パンでも百五十円くらいには見える。 

 ついこのあいだツイートというかポストというかしたこと。だからまあ日記ですね。それを百字にしてみました。もともと、小説と小説でないものとの境界にあると思う【ほぼ百字小説】ですからね。あったことそのまんま。でも私はこれを小説だと言う。そして、小説というのはそういうものだと思う。

 ということで、今回はここまで。

まとめて朗読しました。

************************

【ほぼ百字小説】(5252) 犬くらいの大きさで犬みたいな形の雲が、二階の窓のすぐ外によく浮かんでいた。近所に同じような記憶を持っている者が何人かいるから、たぶんあの雲はいろんな家の二階を行き来していたのだろう。シロと呼んでいた。


【ほぼ百字小説】(5253) 亀鳴くという季語があるから亀は鳴くと思われているかもしれないが、亀は鳴かない。それでも、鼻息がぴいぴいと鳴ることはある。細い息でラッパを吹くとよく似た音が鳴ることがあって、そんなときは亀になった気分。

【ほぼ百字小説】(5254) 猫ロボが、酒と料理を運んでくる。人手が足りないので、猫ロボの手を借りるのが普通になった。しかし人間がやっていたときより速い。それに安くてうまくて量も多い。皆大満足だが、奥に狸ロボがいることは知らない。

【ほぼ百字小説】(5255) 夜道でこの世のものではないものに出くわしてしまったときは、なんにも見なかった顔でそのまますれ違うこと。そこまではやれるが、振り返らず早足にもならず普段通り家まで歩き続けるのは難しい、と今実感している。

【ほぼ百字小説】(5256) 舗装されてからはもうわからなくなってしまったが、まだ路地の地面が土と砂だった頃には、朝見ると波が作った模様があちこちに残ってたりしてね。ああ、夜のうちに海が遊びに来てたんだなあ、とかわかったもんだよ。

【ほぼ百字小説】(5257) あの潰れた会社には今も泥の社員が残されていて、いろんな仕事をさせることができる。正社員の命令には従うから、偽の社員証があればいい。泥社員が偽社員に使われてるわけだね。これが偽造社員証、お安くしとくよ。

【ほぼ百字小説】(5258) 頭と両肘の三点で倒立すると、地球を押しながら宇宙を飛行する自分の姿がイメージできて楽しい。足で立っていても地球を押していることに変わりはないのにそうならないのは、当たり前のような当たり前でないような。

【ほぼ百字小説】(5259) ジェットコースターに乗っていることに気づいたのは最近。ゆっくり登っているとき、それがジェットコースターとはわからない。長い登りが終わった今、もうみんな悲鳴をあげているから、わざわざ教えなくてもいいか。

【ほぼ百字小説】(5260) 急降下に宙返りにきりもみに逆走、怖いジェットコースターにもいろいろだが、なんと言ってもいちばん怖いのは、安全性に不安のあるジェットコースター、と確信している今ココ。これ本当にジェットコースターなのか。

【ほぼ百字小説】(5261) 木の枝に傘がぶら下がっている。あんなに高い枝にいったい誰が柄を引っかけたのか。首を傾げていると、ばさ、と開いて、逆さまのまま何度か羽ばたき、くるりと反回転して夕空に消えた。蝙蝠傘はああやって眠るのか。

【ほぼ百字小説】(5262) たまに錨が落ちている。どこから下ろされているのかは知らないが、それに身体を縛りつければ、出発のときいっしょに引き上げてくれる。あ、もう先客が、と思ったらそうではなく、錨に縛られて投げ込まれたのだとか。

【ほぼ百字小説】(5263) 娘が日傘を差して行った。あいつが日傘なんか差すとは。作るだけ作ったままでずっと使わなかったコンタクトレンズも使い出したし、いろいろ変わった。あ、あいつの好きな胡瓜がもうなかったな。今日スーパーで買おう。

【ほぼ百字小説】(5264) 真夜中、どこからか話し声が。はて、と耳をすますと、どうやら小さな話たちが話しあっているらしい。お互いの小さな話について話しあうその中から、またひとつ話が生まれ、話の輪に加わる。そんな話も聞いたような。

【ほぼ百字小説】(5265) 坂が好きなのに近所には坂がほとんどない。それでも、こんなところに、という場所に坂はあって、新しく見つけると嬉しくてその坂に名前をつける。坂でなくても坂の名前を付けると坂になることには、最近気がついた。

【ほぼ百字小説】(5266) またやるって言ってるよ。勝つまでやるだろうね。そして、勝ったって言うだろうね。負けたんだからもう文句は言わせないって。それとは何の関係もないことにも。まあそのためにまたやるって言ってるんだろうけどね。

【ほぼ百字小説】(5267) ガラスケースに入った人形が道路脇に捨てられて回収を待っているのだが、そのガラスケースは鎖や縄で何重にもぐるぐる巻きにされていて、おまけにケースの両開きの扉に何枚も貼り付けられているのはお札らしいのだ。

【ほぼ百字小説】(5268) 夜、三十分ほどかけてゆっくり走るコースがあって、順番に現れるいろんなものやいろんなことに呼び名をつけ、頭の中でその呼び名にもっとふさわしい形を与える。ゆっくり走りながらその風景の中へと入っていく遊び。

【ほぼ百字小説】(5269) 幽霊祭りがあると聞いてさっそく来てみたのに、それらしきものはどこにもない。幽霊の祭りではなくて、幽霊部員みたいなものなのかな。お祭りの券だけを買ってお祭りには行かない幽霊参加者という方法を勧められた。

【ほぼ百字小説】(5270) ルーレットだったのか。巨大なリングが完成してからそうだとわかる。負けることは決まっている。軟弱地盤の上に作られた水平ではないルーレットだ。もう有り金は勝手に黒に置かれた。玉は赤字にしか止まらないのに。

【ほぼ百字小説】(5271) 空き地に幽霊が出る。雨が続くと伸びる。大人の幽霊ではないのに大人より背が高くなったり。空き地を埋めつくす幽霊たちで地面が見えなくなる頃、全ての幽霊が刈り取られる。刈り取るところは、まだ見たことがない。

【ほぼ百字小説】(5272) ずっと葉っぱだとばかり思っていたが、よくよく見ると緑色の薄っぺらな手で、それらが蔦のようにあの空き家を覆いつくしていたのだ。手だとわかったのは、これまでパーだけだったのに、グーやチョキも出てきたから。

【ほぼ百字小説】(5273) 妻は指だけ安静状態。針金入りの小指だけがぴんと立ったその形は、そういうマイクの持ちかたをする人のそれで、見るたび笑ってしまうが、小指が使えないだけでこんなに不自由。骨折って知る小指の恩、てなところか。

【ほぼ百字小説】(5274) 時を遡って伏線を張ってくるだけの簡単な仕事。そう聞いて引き受けのだが、せっかく張り巡らせたどの伏線にも主人公はまるで気づいてくれず、仕方がないから代わりに回収を続けていくうち、いつのまにやら主人公に。

【ほぼ百字小説】(5275) 外海に捨てたはずの鯨の死骸が、怪獣化して帰ってくる。怪獣は何かに惹かれるかのように万博会場である埋立地に上陸するが、踏み抜いたアスファルトから噴き出したメタンガスによって大爆発。その頃、東京では――。

【ほぼ百字小説】(5276) そればっかり履くから破けてしまって、ほど良い短パンがない、とぼやいていたら、妻がフリマで百円で買ってきてくれた。ほど良い。そして私くらいの人間が履くと、たとえ百円の短パンでも百五十円くらいには見える。

*********************
以上、25篇でした。

ここから先は

121字 / 1画像

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?