見出し画像

最近の【ほぼ百字小説】2024年6月18日~6月29日

*有料設定ですが、全文無料で読めます。

【ほぼ百字小説】をひとつツイート(ポスト)したら、こっちでそれに関してあれこれ書いて、それが20篇くらい溜まったら、まとめて朗読して終わり、という形式でやってます。気が向いたらおつきあいください。


6月18日(火)

【ほぼ百字小説】(5277) 次から次へと問題が持ち上がって、もうテレビの中だけで行うことに。もちろんテレビ局にも異存はない。最初からこうしていればよかった。テレビの中で笑っている。視聴者も笑っている。テレビはタダだと思っている。 

 テレビの話。今のテレビ、もうこんなことになってるんじゃないかという気になります。大阪のテレビの中では、万博も大成功に終わるんじゃないかな。でもまあ、きっと大阪だけの話ではない。そしてタダより高いものはない。

【ほぼ百字小説】(5278) パソコンのキーボードの具合が悪くて結局、外付けのキーボードを買ってきて、キーボードの上にキーボードを載せる。何かのことわざみたいになってしまったが、まあ私の小説には似合っているのかも。亀に似ているし。

 そういうことになりまった。キーが五つほど反応しない。そこに、Aが含まれてますから、これはもうどうしようもない。で、キーボードの二段重ね。親亀の上に子亀、みたいなことになってます。それで問題はないんですが、上のキーボードをどけて下のを使わないといけないことがあって、ちょ
っとまごつきます。まあすぐに慣れるとは思いますが。

6月19日(水)

【ほぼ百字小説】(5279) 見せてくれたのは、なんと小指の先ほどの大きさの猫なのだ。茶と白と黒の三毛猫そのままの配色で、そのまま小さい。これはいいなあ。飼いたくてたまらないが、そのためには、ひとさし指大にならねばならないらしい。

 ミニチュアには惹かれます。怪獣が好きなのもその要素がかなりあるかも。そして、動物フィギュアも。チョコエッグのやつは、一時期はまってて、箱で買ったりしてました。もし生き物でそういうのがいたら。でも小さい生き物を世話をするのは、細部まで見てやらないといけないので、けっこう大変かも。その解決法は、という話。

6月20日(木)

【ほぼ百字小説】(5280) 呼び名からして河童と同様、水辺の妖怪か。そう思ったときには、もう魅入られている。その身に纏った水の中から餡色の瞳で見つめてくる。食べるな、と自分に言い聞かせたところで、頭の中はすでに水饅頭でいっぱい。

 水饅頭のことが書きたくなっただけかな。水饅頭そのものもなかなかおもしろいんですが、水饅頭そのものもなかなかおもしろい。なぜ水饅頭のことを考えてたかと言えば、先週のラジオで蜂本みささんが水饅頭の話を読んだから。そして今週は私が水饅頭の話を読みました。

 これ。


【ほぼ百字小説】(5281) 夏が近づいて、このあたりの住民たちは夏眠をするための準備に取り掛かっている。そんな時期に通りかかると、いつも彼らが羨ましくなる。まあ秋になればなったで、冬眠の準備に取り掛かる連中が羨ましくなるのだが。

 隣の芝生は青い、みたいな話かな。子供の頃、ムーミン谷の住人たちが冬眠するのを羨ましいなと思ってました。寒くて嫌な時期を眠って過ごす、というのはなんともいいですよね。そして、夏の蒸し暑い時期を夏眠でやり過ごす連中がいてもいいだろうし、もちろんそれも羨ましい。実際にそれが快適かどうかなんて、なってみなければわかりませんけどね。

【ほぼ百字小説】(5282) あの日みんなで埋めたタイムカプセルを開けるときがついに来たのだが、いや、開けるにしても事前に目を通して、まずいところは黒塗りに、とか、誰の責任で開けるのか、とか揉めに揉めたあげく、もう開けないことに。

 万博世代の私たちが子供の頃、タイムカプセルってけっこう流行りました。いろんなイベントで埋められたと思う。でも、子供の頃はいいんですが、後になるとこういうことになりそうですよね。もうすっかり黒塗りに慣れてるし。

6月21日(金)

【ほぼ百字小説】(5283) ついに念願のリングが完成し、内側と外側が分断された。お前たちは入れてやるものか、と宣言していた通り、いくら入りたくても入れない。もちろん、いくら出たくても出られないが、志願したのだからそれは問題ない。

 はい、大阪今ココ。たぶんまだ今からでしょうけどね。

【ほぼ百字小説】(5284) 一気に解放する時のためにエネルギーを溜め込んでいて、その巨大なエネルギーを抑え込むために、身体もかなり変形していたのだろう。あの猫がまるで猫に見えなかったのは、そのせいか。もう飛んでいってしまったが。

 猫の身体能力はすごいですね。きゅうっと身体を縮めてから、ぶんっ、と一気に解放するところを見て、あれがもっともっと大きかったら、というのを書いた。それだけのものを溜め込むためには、たぶんもう猫じゃなくなってる。何になってどこへ行ってしまったのか。

6月22日(土)

【ほぼ百字小説】(5285) あの老人が皆に大切にされるのは、皆が欲しがっているもので出来ていると信じられているから。老人が死んだら老人をバラして皆で分け合うことになっていて、分けかたも、もう決まっているとか。本当だったらいいね。

 遺産相続もの、かな? 遺産というか、その身体自体が遺産。いわゆる機械の身体になってたら、そういうこともあるかも。で、死んでから、騙されたっ、というのも遺産相続ものでは定番ですね。嘘つきが死ぬ間際に金の隠し場所を言う。掘ってみたら壺が。あんな嘘つきでも死ぬ前は本当のことを言うんだなあ、と感心して開けてみたら「これが嘘のつきおさめ」と書いた紙が出てきた、という小噺が好きです。

【ほぼ百字小説】(5286) 判子だったのか、と駐車場のアスファルトを見て思う。洗ってもしばらく落ちない。そして落ちた頃、また誰かがここに押す。あそこから落ちれば、ここに押されるのだ。自分がどんな判子なのかを自分が知ることはない。

 ミステリでいう意外な動機、みたいなやつかな。その位置に判子を押す必要があるんですね。どういう理由なのかはわからないけど。まあそういうのは判子にはわからない。判子はそんなこと関係なく、ただ押されるだけですから。

6月23日(日)

【ほぼ百字小説】(5287) あの怪獣は人間よりずっと長生きで、だからあの戦争を体験した人間がみんな死んでしまった後も生きている。あの怪獣のお陰で、この町の上に爆撃機は来なかった。感謝していた人たちも、もうみんな死んでしまったが。

 怪獣の寿命というのはどのくらいなのか、とか考える。あれだけ大きいからかなり長いのではないか、という気はしますね。だから、怪獣の時間と人間の時間は違っていて、それでこういうこともあるんじゃないかと。ある小さな町に伝わる昔はたまに見かけたけど、もうめっきり見なくなった怪獣、みたいなこじんまりしたこんな怪獣映画が見たいなあ。三十分くらいで。

【ほぼ百字小説】(5288) そんなつもりはなかったのに、いつのまにやら波の下にいたらしい。自分でも気づかないうちに潜行していたのだな。それにしても、自分に潜望鏡なんてものがついていたとはなあ。まあだいぶ旧式なのはわかっていたが。

 戦争つながり、なのかなあ。なんかこういうシーンが浮かんだんですね。人間潜水艦ですね。そうなってることに気がつく。潜水艦と言えば、私くらいの世代だと、潜望鏡なんですが、考えたら今どきの潜水艦にああいう昔ながらのはないですよね。

6月24日(月)

【ほぼ百字小説】(5289) またあの蝶だ、と思う。路地の中にあるいちばん細くて古い道を抜けて、ここまで来てくれる。蝶の寿命がそんなに長いはずはないが、でも間違いなく同じあの蝶だ、と見るたびに思う。なぜそう思うのかは、わからない。

 うちの近所には昔ながらの小さな路地がたくさんあります。庭のある家は少ないんですが、路地にはけっこう花がある。植木鉢とか家の前の植え込み事、ちょっとした隙間にたくさん花があって、季節ごとにいろんな花が咲いてます。だから蝶もよく見かけるんですね。だからこういうこともある。蝶が人間の魂、というのはなんだったかな。昔からいろんなお話でそんなのがありますね。まああのひらひら飛んでる姿は、確かにちょっと生き物っぽくない。

【ほぼ百字小説】(5290) いつもの路地で蝶を見かけ、カメラを向けて何度もシャッターを切ったが動きが速くてまるで捉えられず、あとで見ると、いつも見ていたのとはだいぶ違った見えかたの路地の写真があって、そういうことだなあ、と思う。 

 まあそういうことだなあ、と思うんですよ。よく、あったことそのまんま、って書いてますけど、あったことそのまんまを書くとちょっと自分の枠からちょっと外れることができるような気がする。昔はもっと作り込んだものに憧れてたりしてたんですが、最近はそういうもののほうがいいような気がしてて、こういうのは老化かもしれませんけどね、でもそのときにおもしろいと思うものを書くしか仕方がないので、そうしてます。小説に限らず、これってわりと創作あるあるだと思うんですけどね。で、これもそういう、あったこと、思ったことそのまんま。

【ほぼ百字小説】(5291) たまに天使が降りて来て、天使の取り分を抜いていく。まあ天使の取り分なら仕方がないかな、とこれまでは思っていたが、最近ちょっと多くなってないか。だいたい、あれって天使なのかな。貧血気味の頭で考えている。

 で、これもそうなんですよ。いや、こういうことがあったわけじゃないんですが、隣の席にいた高校生が、「天使の取り分って言うんやって、ウイスキーの樽から蒸発した分」「言うてた言うてた、なに、その雑学。なんの役に立つのって感じ」とか笑ってた。それがおもしろくて。私も、昔酒の問屋に勤めてたのでその言葉は知ってる。それがここで役に立つんですね。いや、これが役に立ってるのかどうかは知らんけど。ということで、取り分を取りにくる天使の話。たぶん天使じゃないですけどね。

6月25日(火)

【ほぼ百字小説】(5292) トンネルを掘るのは便利にするためではなく、途中を暗くして見せたくないものを見えなくするため。ピラミッドを解体するのは意思決定の円滑化のためではなく、責任の頂点を不明にするため。そういう工事だけは早い。

 西も東もこんなことばっかりですね。まあせめて忘れないようにしておきましょう。そんだけ。

【ほぼ百字小説】(5293) 夕方の公園で、地面に寝転がって抱きあっていた。猫ではないみたいに向かいあい、抱きしめあったり、互いの首筋を甘噛みしあったりしてじつに楽しそうな彼らは、本当に猫なのか、あるいは猫を被っている何かなのか。

 このあいだ、実際にこういう光景を見た。ほんとに人間が抱きあってるみたいで、なかなか楽しそうで、でも不思議でした。猫ってあんなことするのかなあ。あんなの今まで見たことないんですけどね。


6月26日(水)

【ほぼ百字小説】(5294) 生温い水饅頭の中にいる。すべてがどんよりしていてべたべたと甘ったるくたぶん汗だくだ。あんなに好きだった水饅頭だが、涼しさの欠片もない。まあ写真では温度はわからなかったからな。騙されたのかなあ、と思う。

 毎日蒸し蒸しして、まあこんな感じで、こういう妄想が。水饅頭は好きなんですが、でも、あれは冷たいからいいわけで、温いとちょっと嫌かも、とか。なんでしょうねえ、水饅頭の中で暮らしませんか、とか言われたんでしょうか。

6月27日(木)

【ほぼ百字小説】(5295) 人食い巨大怪獣に見えていたが、じつは生きた状態で呑み込まれるだけで、首輪状のリングによって食道の手前で留められているのだ。鵜飼いのようなことが行われている。まあ、最終的に食われる、という点は同じだが。

 鵜飼いってなかなかすごい。よくあんな方法を思いついたもんだと思います。いや、思いついてもなかなか実行までいきませんよね。そう簡単にうまくいかないだろうし。あれを巨大にしたら、みたいな話。巨大怪獣にも飼い主がいるんですね。

【ほぼ百字小説】(5296) 葉巻型UFOが子供の頃から好きだったが、近頃めっきりその名前を聞かないのは、喫煙者がいなくなってしまったからか。葉巻型UFOどころか、葉巻を目撃することすらもうないのかも。いちどくらいは見たかったな。

 葉巻型UFOってありましたよね。母船といえば葉巻型。アダムスキー型と並んで、定番の形でした。まあそういう記録としてもこういうのを書いとくのはいいんじゃないかと思います。あれが人間の心の中にあるものだとしたら、こういう理由で形が変わったり忘れられていったりするんでしょうね。そしてそれもまたUFOというものの魅力だと思います。ほんと、子供の頃、わくわくしたなあ。

【ほぼ百字小説】(5297) ついさっきまであんなに暗かったが、今はまぶしいほどの明るさだ。ついさっきまであんなに寒かったが、今は汗ばむほどの温かさだ。それらに関しては、良いことには違いない。すべてが燃えていることに目をつぶれば。

 これは、まあ世界の終末の風景みたいなものですね。SFが好き、というのは、そういうことを想像してぞくぞくしたりする、というのもあるんでしょうね。夜の火事って、ものすごく眩しいんですよ。そして、冬でも温かい。そんなことを思い出して。それまでは真っ暗で寒かったところにいきなり炎と熱が出現する。それを見ている。そんなシーン。

6月28日(金)

【ほぼ百字小説】(5298) 川が二本、十字に交差していて、交差点を四角く囲んで橋が四つあるから当然、橋を四つ渡れば元の場所。でも、この日この時刻この場所からこの向きに橋を四つ渡ると元の場所ではない場所に着く。そういう装置なのだ。

 大阪に四橋という地名があって、こういう形に橋が四つ架かっていたようです。昔の絵が残ってます。大阪は八百八橋というくらいで、水路と橋が多かったんですね。絵を見るとすごくいい感じで、憧れの風景のひとつです。そして、四辻というのは、魔物が出るところということになってて、それが川の四辻なら、もっとそれっぽい。それでそれらしいのを考えてみました。形も装置っぽいし。

【ほぼ百字小説】(5299) 夜、橋の途中で名前を呼ばれる。橋の下を覗き込んでも、暗い水があるだけ。いつものことだからもう覗き込まなくてもいいようなものだが、それでも覗き込むのは、本名ではなく芸名で、だからファンかも、と思うから。

 橋の怪異つながり。橋の途中で名前を呼ばれる、というのはわりと定番ですね。橋はやっぱり魔物と出会うところですから。で、この呼ばれた名前が本名じゃなかったら。本名だけど本人。まあ作家だとペンネームですね。たぶんペンネームを使う人と使わない人、というのは、人間の種類の分け方としてけっこうおもしろいんじゃないかと思います。私は、使わない方で、だからペンネームを使う、という気持ちがいまいちわからない。どっちの名前で呼ばれるかで、返事をする自分も切り替わってるんだろうか、とか。

6月29日(土)

【ほぼ百字小説】(5300) 雨の中に白い何かが立っている。塩の塊のようにも見えるが、人の形をしているから立っているように見える。雨でだんだん溶けて、雨上がりには形もない。残った水溜まりの中に大きなナメクジが死んでいることがある。

 雨の日に現れる何か。幽霊というのは、夜に現れますが、雨の日にも出ますね。いや、ほんまにそうかは知らんけど。やっぱり雨と夜とは共通するものがあるんでしょうね。これは雨の日にだけ出てくるもの。でも雨上がりまでには消えてしまう。ということでこんな感じに。そして雨の日に出てくるものをもうひとつ。

【ほぼ百字小説】(5301) 袋小路だが行き止まりではなかったことがわかったのは、このあいだの記録的な大雨のおかげ。勢いよく流れ込んできた水は、突き当りの地面に何の抵抗もなく吸い込まれていった。後に残されたいらないものが我々、か。

 雨つながり。まあ梅雨ですからね。大雨が降って溝から水があふれて路地に溜まると、高低差がよくわかる。そんな風景を見て思いついた話。路地自体がフィルターみたいになってるんですね。そして余計なものが漉し取られて、水だけが向こうへ抜けて行く。そうやってできた路地かも、とか。

 ということで、今回はここまで。

まとめて朗読しました。



***********************
【ほぼ百字小説】(5277) 次から次へと問題が持ち上がって、もうテレビの中だけで行うことに。もちろんテレビ局にも異存はない。最初からこうしていればよかった。テレビの中で笑っている。視聴者も笑っている。テレビはタダだと思っている。 

【ほぼ百字小説】(5278) パソコンのキーボードの具合が悪くて結局、外付けのキーボードを買ってきて、キーボードの上にキーボードを載せる。何かのことわざみたいになってしまったが、まあ私の小説には似合っているのかも。亀に似ているし。

【ほぼ百字小説】(5279) 見せてくれたのは、なんと小指の先ほどの大きさの猫なのだ。茶と白と黒の三毛猫そのままの配色で、そのまま小さい。これはいいなあ。飼いたくてたまらないが、そのためには、ひとさし指大にならねばならないらしい。

【ほぼ百字小説】(5280) 呼び名からして河童と同様、水辺の妖怪か。そう思ったときには、もう魅入られている。その身に纏った水の中から餡色の瞳で見つめてくる。食べるな、と自分に言い聞かせたところで、頭の中はすでに水饅頭でいっぱい。

【ほぼ百字小説】(5281) 夏が近づいて、このあたりの住民たちは夏眠をするための準備に取り掛かっている。そんな時期に通りかかると、いつも彼らが羨ましくなる。まあ秋になればなったで、冬眠の準備に取り掛かる連中が羨ましくなるのだが。

【ほぼ百字小説】(5282) あの日みんなで埋めたタイムカプセルを開けるときがついに来たのだが、いや、開けるにしても事前に目を通して、まずいところは黒塗りに、とか、誰の責任で開けるのか、とか揉めに揉めたあげく、もう開けないことに。

【ほぼ百字小説】(5283) ついに念願のリングが完成し、内側と外側が分断された。お前たちは入れてやるものか、と宣言していた通り、いくら入りたくても入れない。もちろん、いくら出たくても出られないが、志願したのだからそれは問題ない。

【ほぼ百字小説】(5284) 一気に解放する時のためにエネルギーを溜め込んでいて、その巨大なエネルギーを抑え込むために、身体もかなり変形していたのだろう。あの猫がまるで猫に見えなかったのは、そのせいか。もう飛んでいってしまったが。

【ほぼ百字小説】(5285) あの老人が皆に大切にされるのは、皆が欲しがっているもので出来ていると信じられているから。老人が死んだら老人をバラして皆で分け合うことになっていて、分けかたも、もう決まっているとか。本当だったらいいね。

【ほぼ百字小説】(5286) 判子だったのか、と駐車場のアスファルトを見て思う。洗ってもしばらく落ちない。そして落ちた頃、また誰かがここに押す。あそこから落ちれば、ここに押されるのだ。自分がどんな判子なのかを自分が知ることはない。

【ほぼ百字小説】(5287) あの怪獣は人間よりずっと長生きで、だからあの戦争を体験した人間がみんな死んでしまった後も生きている。あの怪獣のお陰で、この町の上に爆撃機は来なかった。感謝していた人たちも、もうみんな死んでしまったが。

【ほぼ百字小説】(5288) そんなつもりはなかったのに、いつのまにやら波の下にいたらしい。自分でも気づかないうちに潜行していたのだな。それにしても、自分に潜望鏡なんてものがついていたとはなあ。まあだいぶ旧式なのはわかっていたが。

【ほぼ百字小説】(5289) またあの蝶だ、と思う。路地の中にあるいちばん細くて古い道を抜けて、ここまで来てくれる。蝶の寿命がそんなに長いはずはないが、でも間違いなく同じあの蝶だ、と見るたびに思う。なぜそう思うのかは、わからない。

【ほぼ百字小説】(5290) いつもの路地で蝶を見かけ、カメラを向けて何度もシャッターを切ったが動きが速くてまるで捉えられず、あとで見ると、いつも見ていたのとはだいぶ違った見えかたの路地の写真があって、そういうことだなあ、と思う。

【ほぼ百字小説】(5291) たまに天使が降りて来て、天使の取り分を抜いていく。まあ天使の取り分なら仕方がないかな、とこれまでは思っていたが、最近ちょっと多くなってないか。だいたい、あれって天使なのかな。貧血気味の頭で考えている。

【ほぼ百字小説】(5292) トンネルを掘るのは便利にするためではなく、途中を暗くして見せたくないものを見えなくするため。ピラミッドを解体するのは意思決定の円滑化のためではなく、責任の頂点を不明にするため。そういう工事だけは早い。

【ほぼ百字小説】(5293) 夕方の公園で、地面に寝転がって抱きあっていた。猫ではないみたいに向かいあい、抱きしめあったり、互いの首筋を甘噛みしあったりしてじつに楽しそうな彼らは、本当に猫なのか、あるいは猫を被っている何かなのか。

【ほぼ百字小説】(5294) 生温い水饅頭の中にいる。すべてがどんよりしていてべたべたと甘ったるくたぶん汗だくだ。あんなに好きだった水饅頭だが、涼しさの欠片もない。まあ写真では温度はわからなかったからな。騙されたのかなあ、と思う。

【ほぼ百字小説】(5295) 人食い巨大怪獣に見えていたが、じつは生きた状態で呑み込まれるだけで、首輪状のリングによって食道の手前で留められているのだ。鵜飼いのようなことが行われている。まあ、最終的に食われる、という点は同じだが。

【ほぼ百字小説】(5296) 葉巻型UFOが子供の頃から好きだったが、近頃めっきりその名前を聞かないのは、喫煙者がいなくなってしまったからか。葉巻型UFOどころか、葉巻を目撃することすらもうないのかも。いちどくらいは見たかったな。

【ほぼ百字小説】(5297) ついさっきまであんなに暗かったが、今はまぶしいほどの明るさだ。ついさっきまであんなに寒かったが、今は汗ばむほどの温かさだ。それらに関しては、良いことには違いない。すべてが燃えていることに目をつぶれば。

【ほぼ百字小説】(5298) 川が二本、十字に交差していて、交差点を四角く囲んで橋が四つあるから当然、橋を四つ渡れば元の場所。でも、この日この時刻この場所からこの向きに橋を四つ渡ると元の場所ではない場所に着く。そういう装置なのだ。

【ほぼ百字小説】(5299) 夜、橋の途中で名前を呼ばれる。橋の下を覗き込んでも、暗い水があるだけ。いつものことだからもう覗き込まなくてもいいようなものだが、それでも覗き込むのは、本名ではなく芸名で、だからファンかも、と思うから。

【ほぼ百字小説】(5300) 雨の中に白い何かが立っている。塩の塊のようにも見えるが、人の形をしているから立っているように見える。雨でだんだん溶けて、雨上がりには形もない。残った水溜まりの中に大きなナメクジが死んでいることがある。

【ほぼ百字小説】(5301) 袋小路だが行き止まりではなかったことがわかったのは、このあいだの記録的な大雨のおかげ。勢いよく流れ込んできた水は、突き当りの地面に何の抵抗もなく吸い込まれていった。後に残されたいらないものが我々、か。

***********************

 以上、25篇でした。

ここから先は

151字 / 1画像

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?