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今週の【ほぼ百字小説】2022年12月5日~12月11日

 今週もやります。ひとつツイートすると、こっちにそれについてあれこれ書いてます。解説というより、それをネタにした雑談だとでも思ってください。

 マイクロノベルと私が勝手に呼んでいるこの形式は、中学生くらいのための小説への入口だったり、しばらく小説から離れてしまっている人の小説へのリハビリだったり、もちろん普通にそんな形式の小説として、他にもまだ誰も気づいてないいろんな可能性があると思うし、このままでは先細っていくだけだとしか思えない小説全体にとってもかなり大事なものだと私は思います。気が向いたらおつきあいください。

 あ、投げ銭は歓迎します。道端で演奏している奴に缶コーヒーとかおごってやるつもりで100円投げていただけると、とてもやる気が出ます。

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12月5日(月)

【ほぼ百字小説】(4205) それを見てふらふらとついていってしまうのだ。サーカスに子供がさらわれるというのはそういうことなのかも、と思う。そんなことができたあの人も、向こう側へと行ってしまったのか。ついていくわけにもいかないし。

 「どくんご」というテント芝居の劇団があって、毎年楽しみにしてたし、かなり影響を受けたりしてます。この【ほぼ百字小説】にも、その公演を観たり、テントを立てるのを手伝ったりして書いたものがいくつもあります。観ると何か書きたくなる、というか書くことがいくつも見つかるようなそんなテントでした。そしてそれを観て同じようにテントで芝居をしたり旅公演に出たりする人たちを何人も見ました。先日、その演出家のどいのさんが亡くなりました。急なことでしたが、まあ急じゃない死はないですね。本当に残念です。あんな奇跡みたいなことができたんだなあ。どいのさん、ありがとうございました。

【ほぼ百字小説】(4206) 露天風呂に日が差して、お湯に浮かんだ銀杏の葉の影が底に映っている。その影が二つになったが、お湯に浮かんでいる葉は一枚だけ。なのに三つ四つ五つと増えていって、そこで自分の身体がばらけているのだとわかる。

 旅行ものの続き。露天風呂が特に好き、というわけではないですが、でも日が差してる朝の露天風呂というのはいいですね。非日常ですよね。非日常というのは、どちらかといえば薄暗いほうに行きがちで、明るい非日常感というのはちょっと珍しいような気がします。葉っぱの影が底に映ってる、というのは体験したことそのまんまで、例によってそこからの妄想です。お湯に浸かってると身体が緩んでばらけそうになりますからね。

12月6日(火)

【ほぼ百字小説】(4207) 市街地ではあるが、折り畳まれた状態で存在している登り坂を正しく選んで登っていけば山頂に至ることができるという。位相幾何学的な登山なのだ。かつてこの土地にあった位相幾何学的な古墳を再利用したものらしい。

【ほぼ百字小説】(4208) 山頂に古墳があるのではなく、山そのものが古墳。そう気づいたのは、見下ろす山々に囲まれた町が、掘られた穴の底にあるように見えたから。あの町、そして我々も、死んだ王と共に埋められるために作られたのだろう。

 このふたつは先日奈良に行ったときに書いたもの。温泉とか紅葉のやつと同じです。一泊だけの小旅行でしたが、やっぱり目新しい風景に出会うと妄想のスイッチが入って書きやすい。俳句の吟行みたいな感じですね。これは一泊して翌日、若草山に登ったとき。裏側というか、あんまり見晴らしのようない普通の登山道みたいな方から登って行って急に視界が開けたのがなかなか新鮮でした。奈良は歩いて廻れるくらいの箱庭感がいいですね。若草山も土産物屋とか並んでる通りからそのまま登れるのに、けっこう山奥みたいな風景もあって、それもまた箱庭というかだまし絵っぽくておもしろい。そういう印象から書いたやつ。山頂に古墳があるのもいいですね。妄想のいいスイッチになります。奈良はおもしろい。大阪から近いから、もうちょっと頻繁に行こうかなと思ってます。

12月7日(水)

【ほぼ百字小説】(4209) 空に向かって伸びたたくさんの枝がしなって、風が可視化されている。波が進んでいくように並んだ街路樹のいちばん上のあたりが順番にしなっていくが、中の一本だけが逆方向へ。風以外の何かも可視化されているのか。

 風が強い日が多くなりました。もうそろそろ木枯らしなのか。ということで、例によって前半は実際に見た風景。歩いていてこういうのを見ました。きれいにしなっていくんですね。で、そこからの妄想です。シンプルですけどシンプルな分、はっきりと変なことがわかるので強い。風で見える形というのはおもしろいですね。つむじ風とか。

【ほぼ百字小説】(4210) 氷の下に巨大な亀が眠っている。夢を見ているからそうだとわかる。この惑星の長い冬をこうして越すらしい。我々はこの亀が見ている夢なのだというところまではわかっている。亀が見ている夢を観測してわかったのだ。

 亀もの。【ほぼ百字小説】を亀でまとめる、というのを勝手にやっていて、だいぶまとまってきたところで、ちょっと補強する必要があって書いたやつ。亀と言えば冬眠、そして眠りと言えば夢。それに小松左京の『氷の下の暗い顔』という短編があって、そのイメージを重ねました。あ、そう言えば小松左京には『眠りと旅と夢』なんてタイトルもありました。まあ『邯鄲の夢』のSFバージョン亀バージョンでもあるかな。夢の中の存在がその夢を観測することはできるのか、とか。

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