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スマホを置いて旅したら

アラームが鳴る。時刻は朝方の3:00。わたしたちは眠い目をこすりながら身体を起こした。誕生日が1日違いのわたしと夫のお誕生日小旅行へ出かける。長野と山梨へ、会いたい人に、見たい街へ。

今回は愛車のRASHEENが旅のお供です。高速道路の深夜料金を活用するために、午前4時前に高速道路に乗るべく、わたしたちは早朝とも深夜とも言えぬ時間に出発することにした。

車に乗り込み、さて意気込んで、わたしはスマートフォンの電源を切った。今回の旅ではデジタルデトックスもすることにしてみたのだ。最近読んだふかわりょうさんの「スマホを置いて旅したら」という本がとても面白かった。ふかわさんは、家にスマホを置いてくる、までの大冒険だった。わたしはそこまでの覚悟はなく、スマホは持っていくことにした。思いつきだったのでスマホなしの旅の準備は出来ておらず、全く触らないということはできないだろうと思っていたが、普段わたしを支配しつつあるこの小さな機器と距離を取ってみようと考えたのである。

星のやでも『脱デジタル滞在』というものがあって。わたしもいつかやりたいな〜という思いでいた。デジタルにまみれた日々からの少しの避難。

たったひとつ、自分のなかでルールを決めた。SNSは使わない、ということ。それ以外の必要な連絡と、地図の検索は必要最低限にとどめる。

やったことはたったそれだけ、でもこれほどまでに気づきや、考えることが多くあったのかと、旅を終えた今、ものすごい発見を感じている。どんなものに心から感動し、喜びを感じ、どんな瞬間に満たされるのか。承認欲求やインスタ映えするのかどうか、とか。そういう気持ちから離れて、自分の心とだけ向き合えたような気がする。自分が取り入れる情報量もかなり削減されたことで、考える余白が生まれていたのだろう。容量というものが、人にはやっぱりあるんだろうな、と感じる。

でもやっぱり、旅は思いもよらないことの連続で、面白くて、楽しくて、胸がいっぱいで。誰かに話したくなる。それで今、今回の旅の思い出をこうして、ときどき書き記した日記を見返しながら、書いている。あの日のこと、早く話したい。

予定通り、ぎりぎり午前4時を回る前に高速道路に乗った。わたしはほっとして助手席で目を閉じてしまった。ごめんなさい。夫に起こされたのは佐久平のSAにて。すでに空がうっすら明るくなって、朝が半分やってきていた。車から降りると少し肌寒いくらいで、もちろん明け方だったということもあるが、それでも、いつもいる街とは違うということが感じられた。あぁ、旅に出た日の朝のにおいがした。

今回の旅の中で一番予想していなかったことは、この初日に起きた。はじめの目的地は須坂市だけれど、途中で寄りたいお店があり、手前の佐久平で高速道路を降りた。まだ開いているお店もなく、唯一早朝営業をしていたスターバックスで目覚めのコーヒーを。

ふと、そういえばこの辺りに会社の先輩が住んでいたことを思い出し、こんな朝早くには迷惑だと分かっていながらも、電話をかけた。突然の電話に驚きながらも、折角だから、と顔を出してくれることになった。久々の再会に嬉しくて眠気はとんでいった。夫も交えて何度か会っていたので、夫も久々の再会に嬉しそうだ。

近況報告に盛り上がる。話を聞いていると、2連休だという。この後の予定が終われば午後も翌日も予定はないようで、それで「それならば、須坂に一緒に行こうよ。」という話になったのである。「いやいや、冗談でしょ。」と笑う先輩にわたしたちはいたって本気で「是非一緒に旅行しよう。」と誘った。

今回の最初の目的地である須坂の旅へ大好きな友人が加わったことは、わたしと夫にとって最高の誕生日プレゼントだった。これがこの旅いちばんのサプライズな予想を超えた出来事である。

先に須坂に向かったわたしたちは、チェックインまで時間があるので小布施の街歩きへ。栗やりんご、おやき、日本酒、和紙。名産品がお店に並んでいる。さすがに日中の気温は35度を超えていたけれど、湿度が少なく、うだるような暑さではない。幼少期に過ごした夏はこんな感じだったような気がする。

用事を済ませた友人と須坂でふたたびの再会。嬉しくて、嬉しくて、それだけで今回の旅の意味が全て満たされたような気持ちだった。

嬉しい瞬間を忘れないように。いつもはストーリーズにお披露目することをやめて、代わりにぎゅっと心に刻んだ。絶対に忘れないぞ、と心に誓った。わたしの記憶はこの小さな機器の中ではなく、心の中にある。その記憶をひとつひとつ辿るこの作業がなんとも幸せなのである。

3人で混浴の露天温泉に入ったこと。ガチャさんのカレーを食べたこと。おやきをたーくさん食べたこと。初めましてのご夫婦が素敵だったこと。夜遅くまでボードゲームで大笑いをしたこと。通っていた中学がすぐ隣だった友だちができたこと。人生で初めて夢だったアイスケーキを食べたこと。雷滝が思ったより迫力があったこと。ずーっとずっと笑っていたこと。ふたりといる安心感のこと。

全部が本当に幸せな夜だった。幸せな日だった。スマホが近くになかったから、ではないかもしれないけれど、その分研ぎ澄まされたたくさんのセンサーが幸せを拾ったのは間違いない。

そんな初日でした。

かのんちゃん、一緒に来てくれてありがとう。大好きなお姉ちゃん、大好きです。

夫のスマホの写真から1枚だけ。わたしはこの夜を思い出すだけで何度でも立ち上がれる。何度でも幸せを確かめられる。ありがとう、須坂の夜。

ハッピーバースデーのわたしたち

次の舞台は長野の村のはなしです。
つづく

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