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やさしさが愛を探して

ずっと心の中にあって、ふとしたときに頭の中で流れる。できれば、ずっと忘れたくないと思うひとときのこと。雪が降ったというニュースをみながら、心に流れた一曲の話です。

ある年のクリスマス、我が家に新しいラジカセがやってきた。文字盤のところの光の色を変えられるやつ。わたしは虹色のグラデーションがお気に入りだった。姉とラジカセの争奪戦の日々が始まった。ひとりがラジカセで操作しては、もうひとりはリモコンで曲を変えるという、エンドレスの喧嘩をして「壊れるからやめなさい!」と、怒られる始末。これが平和な日常の一部であることを知らない頃のことの記憶。

毎週のようにCDレンタル屋さんに通って、CDを借りてきてはMDにダビング作業。姉はORANGE RANGEを、わたしはいきものがかりを。母が聴く曲はどこか大人っぽく聞こえて、歌えるようになりたいと思って、一生懸命に歌詞カードを自分のノートに書き写して、練習した。なぜかその一曲目に選ばれたのがこの歌だった。今でも覚えている。ノートの1ページ目に書いたこの歌詞のこと。母が好きな歌、というだけの理由だったと思う。

どこまでも限りなく 
降り積もる雪とあなたへの想い
少しでも伝えたくて届けたくて そばにいてほしくて

DEPRTURES/globe

当時のわたしに歌詞の意味が分かったかどうかは覚えていない。それでも、どこまでもどこまでも誰かを想う気持ちというのがこの世界には存在するのか、ということはなんとなく分かったような。わたしもいつか、テレビドラマのように、誰かに恋をするのかしら、切なくて泣いたり、胸が苦しくなったりするのかな、なんて考えていたかも。かもしれない。

他にも父や母がよく聴いていたが故に覚えた歌がある。美空ひばりのお祭りマンボ。尾崎豊の I love you。オフコースのさよなら。杏里のオリビアを聴きながら。郷ひろみのお嫁サンバ。今井美樹のPRIDE。Every Little Thingのfraigile。(「いつもそう〜」が、どうしても「みずぼうそ〜う」と聞こえて仕方なかった。)

どの曲も、今ならば歌詞が胸に沁みる。歌を聴きながら誰かを想い、切なくなる。あぁ、そうか、この気持ちの名前は”切ない”だったのかと、知ったのはいつだったろう。初めて失恋をした夜かしら。初めて「DEAPRTURES」を聴いたときからかすかに覚え始めたことにしよう。名前は分からなかったけれど、なにか大切な感情のような気はしていた、かもね。

この曲を聴くたび、両親と姉と弟と暮らした幼き頃の他愛のない日々が思い出されて、ある意味で切ない。ラブソングなのに、家族のことを、歌番組を観ながら陽気に歌って踊ってた母のことを、どうでもいい兄弟喧嘩のことを、お風呂でいつも歌っていた父のことを、なんだか思い出す。もう二度と戻れない確かにそこにある時間。

そういう歌が誰にでもあって、歌詞の意味に関わらず、そのメロディが、声が、音が、お守りになるといい。タイトルはこの歌詞の中でいちばん好きなワードから。

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