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中込遊里の日記ナントカ第95回「中高生と創るシェイクスピア劇について」

たちかわシェイクスピアプロジェクト2018
「複数の高校生がシェイクスピア作品における劇的なセリフを大きく声に出しながら集団でせわしなく動き回る演劇」中間発表会・ご挨拶

たましんRISURUホール(立川市市民会館/東京都立川市)展示室
2018年5月6日15:00~

出演者:多摩地域の中高生29人
構成・演出:中込遊里(鮭スペアレ)
主催:たちかわシェイクスピアプロジェクト実行委員会
共催:公益財団法人立川市地域文化振興財団・たちかわ創造舎
企画運営:鮭スペアレ

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こんにちは。演出家の中込遊里です。私は立川市のたちかわ創造舎を拠点として劇団「鮭スペアレ」を主宰しています。おかしな劇団名は、有名な劇作家シェイクスピア(Shakespeare)に基づいています。

ウイリアム・シェイクスピアは、約400年前のイギリスの劇作家です。世界で一番有名な劇作家といえるでしょう。その作品は世界中のありとあらゆる地域・様々な規模で上演されています。日本でも、蜷川幸雄氏の演出から、シェイクスピア作品を元にした現代戯曲の上演、演劇のみならず手塚治虫の漫画作品にも登場するなど、幅広く、深く、上演/研究されています。

400年という昔の異国の作家がなぜこんなに人気なのでしょうか。それは、シェイクスピアの作品に、時代や場所が変わっても、永遠に変わらない人間の真実が描かれているからだと思います。

シェイクスピアはヨーロッパを舞台に物語を展開させていきますが、どの国も問題だらけです。悲劇「マクベス」では、魔女の予言を受けることで権威に固執した王様が次々と殺人を犯します。恋愛劇として有名な「ロミオとジュリエット」でも、女性に自由がなく、自由恋愛が禁じられたことから心中という悲劇が起こります。男女の双子が取り違えられドタバタ恋愛が起こる「十二夜」といった喜劇たちも、実は皮肉たっぷりの台詞の応酬です。

価値観や流行は時代と場所によって変わりますが、いつの時代も戦争は終わることがなく、社会には必ず問題が生じていて、人々は苦しみの中で生きてきたのだということがわかります。

けれど、人は、苦しみの中で生き抜く力を持っています。「冬物語」では妬みから無実の妻を殺した男の孤独を救うように、妻は実は生きていたということが“彫刻が動く”という独特な形で描かれます。このように、他の作品でも、暗闇に引きずり込まれそうになりながらも懸命に生きる人間の姿が様々な形で描かれています。

今私たちが生きる日本でも、頭を抱えることばかりが起こります。これらの「痛み」は、たとえばひどい腹痛を起こすとその苦しさ辛さしか感じられなくなるように、私たちの感覚と視野を一点に留めてしまいます。けれど、歴史を見つめれば、いつの時代も人間は同じように他者を憎んだり、労わったり、頼ったり、愛したりしながら生きてきたということがわかります。

「たちかわシェイクスピアプロジェクト」は、これからの時代を作る若者たちとともに歴史に学ぶという考えのもと、2016年秋から演劇ワークショップを中高生と行い、これまでに成果発表会を立川市内で3回行いました。今年1月からは、7ヶ月にわたる長期ワークショップをスタートしました。今日はその中間発表会です。この春参加した新入生も含め、「はじめまして」から3日間で集中して作品を創りました。

演劇は、出演者・スタッフ・お客さんという集団で創られます。参加者のみなさんと大切にしたことは、自分1人で何かを外側に発信することから始めるのではなく、空間を感じ、そこにいる他者を感じ、自分の内側を観察することです。現代は、1人でいてもインターネットで世界中の誰とでも繋がれます。しかし、いつの時代も私たちには身体があり、空間があり、歴史の中で他者と繋がって生きています。そのことを直に確かめられるのが演劇です。

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