見出し画像

眠れない日々

ドクターは
落ち着いた人だった

けっして
威圧的ではなく
高慢ではなく

淡々と患者を診る人だった
しかしそこには感情的なものはない

それはおそらく精神科医という分野の鉄則なんだと思う
患者に感情移入していたら
自分もおかしくなるだろう

リョウコの気持ちを
ちゃんと見ていると感じた

そして
「・・・典型的な統合失調症じゃないかもしれないですね・・・」

じゃあ、何?と思ったが
病気なんて、あとで名前がついてるだけってことは
知っている

そういうくくりで薬がでるんだから
仕方ない

ナースステーションにはリョウコの部屋のモニターが映っている

寝てる姿が映ってる

1日中寝てるんじゃないかっておもうけれど

実は眠れていないらしい
そもそもリョウコの一番の問題は
「眠れてなかった」ことだと気づいた

そういえば数か月前から言っていた
「眠れない」って

でも私は全く聞いていなかった

私自身が眠れないことがないから全く分からない

そして、言っていることが時々よくわからないリョウコのことだ
どうせ、じぶんでそういっているけれど
結構寝てるに違いないって

感覚も違った
暑いのに窓ガラスを締め切っていたり
真冬に窓ガラスが全開になっていたりした

リョウコの感覚がよく理解できない私には
いい加減なことを言っているという
傲慢な気持ちしかなかった
おそらく今から考えたら
夢中で何かをしているときは
環境のことなんかまったく意識できないくらい
集中するタイプだっただけ
私にはないものを持っているだけ
それが私には、普通じゃないっていう事に対する
嫌悪感があった

そして、全くリョウコの訴えを無視していたんだ

それがこういう事態に発展したということは
おそらく当たっている

不眠症は様々な状態を引き起こすから

先生が典型的なタイプじゃない・・・といったのは

私がリョウコの訴えを無視し続けた結果
愛情不足の結果かもしれないって
実は思っていた

典型的ではないけれども
閉鎖病棟に入ったリョウコは
症状が激しかったからだろう

妄想が激しい

先生が教えてくれた

普通は人は潜在意識と顕在意識があって
境界線があって
潜在意識から顕在意識には
あまり上ってこないようになっているらしい
それはあまりにも情報量が多いから
必要な情報だけ上がってくる

その境界線に穴が開くようなもの

リョウコの境界線は穴だらけで

長い間蓄積され
押さえつけられ
ふたをしていたつもりの
恐怖や不安や嫉妬や攻撃性が
どんどん出てきてしまうらしい

もしかしたら

小さい頃から
リョウコは
とても怖がりだった


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?