【創作】2024.07.22

*この作品には暴力的な表現および性的な表現が含まれます。

ミシェル。あの人、たぶん。いや。どうして。そう、あの人。わたしは。わたし？WATASHI。あの。この。あれ。いや。ああ。はあ。FU。なに。顔がない。あれはたぶん。え。いや。誰も知らない。誰にも見られてない。隠れているから。縮こまっている。覆われているから。別にいい。吐き気。あの。わたし赤ちゃん。おしめ取り替えて欲しいの。おしりを拭いてほしいの。わたし可愛らしい赤ちゃん。つるつるの赤ちゃん。フェラしてあげようか。電車は10分おきに来る。次は33分、その次は43分、その次は53分。なに。自動ドアが動かないのよ。エスカレーターもね。わたし駅のトイレ使いたくない。ひとりで行けばいいじゃん。行ってくれない？446円になります。すみません、展示室での携帯電話の使用は控えていただけますか？ロビーでならお使いいただけますが。なんなのよ、この服。少し漏らした。下着が濡れて気持ち悪い。布団にも染み出したかも。うちの洗濯機、エラーがでて止まるのよね。まあ、ずいぶん長く使ったからねえ。ただいまサンプル品を無料でお配りしてまして。俺とあいつの何が違うんだよ！落ち着いて。分かんねえよ。気狂いの治療には電気ショック療法が適しています。ロボトミー手術も有効です。お兄ちゃん、聞いて。あなたは病気なのよ。あなたはおかしいの。でも治せるわ。すぐ治るわよ。ねえ、聞こえてる？そんなに不安になることないのよ。そんなに暴れて、痛いでしょう。大丈夫だから、体の力を抜いてちょうだい。すぐ治るわよ。先生も看護婦さんも、みんなあなたの味方よ。ここにはお父さんは来ないわ。あなたの嫌いなお父さんに会うことはもう無いのよ。だから安心してね。聞こえているのかしら。ねえ、お兄ちゃん。わたしの好きだったお兄ちゃんに戻ってね。じゃなきゃ死んで。治るまで出て来れないからね。一所懸命になることね。分かった？自分を治療しようとするのよ？治ろうと努力するのよ。いいわね。じゃあお願いしますね。着替えなどはまた明日届けに参りますから。じゃあね、お兄ちゃん。先生たちを困らせないように、良い子にするのよ。

どう？最近気分は。

———沈黙。

久しぶりのセッションだけど、最近は何をしているの？

———沈黙。

———カップを手に取って紅茶を飲む。
私はね、ある子の相談にのっているの。というかその親御さんなんだけどね。ゲームばかりしていて心配なんですって。あなたはどう思う？

———沈黙。
この曲知ってる。ショパンのバラード、第一番。

そうなのね。有名な曲？

カウンセリングには向かない曲ね。

そう。綺麗な音楽だと思うけれど。

“The Pianist”っていう映画で使われてるの。ポーランド人のピアニストがドイツ人の将校に弾いて聴かせるの。廃墟になった家のなかにピアノがあってね。ピクルスの缶詰を開けようとしていたらね、偶々出会っちゃうのよ。車椅子のおばあちゃんかおじいちゃんがね、ベランダから投げ落とされるのよ。ユダヤ人だからね。結局、ドイツは戦争に負けるわ。その将校は処刑されたそうよ。名前は確かシュピルマンだったかな。将校の名前は覚えてない。わたしが好きだったのはルービンシュタイン。

そうなの。

あなた子供は？子供はいるの。どっちでも良いわ。いえ、きっといるのね。あなたどうしてこんなことしているの？生活のため？わたしと話せていると思っているのね。なぜわたしの話を聞くの。それがあなたの仕事だから？話すことを作ってあげているのよ。それであなたは給料をもらうってわけ。なんなの、これ。わたしは何をしている？今。どこにいる？ここにいる。なぜ？ここに来たからだ。なぜここに来た。わたしは行かないわ。いいから行きなさい！何やってんだよ！わたしあなたの言葉が嫌い。あなたと話したくない。なぜ話すのか？話しているからだ。あなたには分からないわ。誰なら分かるの？わたしにしか分からないわ。わかるってなに？あなたはわたしじゃない。当然でしょう。あなたはわたしのママなの？ママじゃないの？ママ、どこ！知らない。あなた知ってる？わたしがどこにいるか知ってる？おじさん、だれ。お巡りさんは警棒持ってていいの。パパやママはどこにいるのかな。ママ…？歯磨きして、ママ。一緒に寝て、とんとんして。ママは嫌い。醜いおばさん。誰もいないわ。見たことないのよ、一度も。他人しか見たことないわ。どこにいる？おまえ！ぶち殺してやるからな！なんであいつはここに居ねえんだよ！旅行に行っているからよ。迷惑だろ！分からねえのか！あの、すみません、通してもらえますか。あなた、電車に乗っていたんじゃないの？パニック発作が出てしまって。俺は精神病になって会社辞めたんだよ。仮病だよ、どうせ。そんなに死にたいなら死ねばいいじゃない。誰も止めてないわ。でも死にたくねえもん、俺。意気地なし。ダサい男ね。気味が悪いわ。あなた発達障害じゃない？そこ、よそのうちだから入らないで。俺の家だ。嫌なら出て行け。ご両親はどちらに？手放した風船は上昇する。見えない？どこにいったんだろう。あそこらへんにあったのに。その風船が戻ってきたことがあったの。皺くちゃに萎んで。割れてもいなかったし、糸も把手もそのままだった。いらなかったから捨てたわ。宇宙まで行ってしまうと思ったのに。期待はずれね。ゴミね。ママとパパと一緒に植木鉢に苗を移したの。週末に。あのときの花はもうない。気付かないうちになくなった。あれは何年前だ。何度も見た。何度も聞いた。もう飽きた。だれ？嫌なことを考えるのは辞めましょう？誰のせい？お前のせいだ！わたしは悪くないわ。だってやるべき事をしているもの。あなたはどう？あなたは何をしているの？時間があるなら少しくらい手伝ってくれない？ここを出ましょう。どこに行くの。どこか。無理です。どうして？体が動かない。いやよ。帰って来れなくなるわ。もう二度と帰って来ないんだよ！こんなところには！わたし、あの家に火をつけたい。嫌な家だもの。汚い家。先生、少し用があるので出ていてもいいですか？はい、また戻ったら声を掛けますね。はは！死ね！誰が片付けると思ってるの。季節が良くないのよ。少しは節制しなさい。

トポロジーとは位相幾何学という意味だが、哲学とくに現代思想の文脈では、連続した不可分な変化をさすために使われる。アンリ・ベルクソンの純粋持続という概念は、時間を一方向に均等に流れるものとして線分やベクトルで表現される一般的な時間概念を批判する。時間が時点を持たなくなれば、時間は指標や単位ではなくなる。今、私は今と書く。書かれた今は先の今である。私はもう一度今と書こう。私が書こうとしているのはこの後だ。ベルクソンは必ずしも因果関係を否定していない。しかしヒューム以降の因果律および帰納法に対する懐疑は随所で顔をだす。過去は実在したものの像なのだろうか？

覚えている？本当に覚えている？何をしていたの？どうやってここにきたの？どうしてここにいるの？
あの、わたし———。
ANO WATASHI
WATASHIHANANDEMOHANASUKOTOGADEKIMASUYOJINRUIGAITUMETUBOUSURUNOKASAHEHANASUKOTOGADEKIMASUKANARAZUHOROBUDESYOUKARATOITTEMOANATAGATANIHAKANKEINONAIHANASHIDESUGAANATATACHIHAITUMODOURINOSEIKATUWOTUZUKETEIKUNODESHOUWATASHIANATATATINOKOTOGAKIRAIDESUANATATATIWOSUKININARETAKOTONAINDESUDEMOANSHINSITEIMASUWATASHIMOSINIMASUKARAMINNATOONAJIYOUNI

©︎ 2024 Yuuki Miwa

*この作品には差別的な表現が用いられていますが、作者に差別を助長させる意図はなく、作品をより的確に表現するために不可欠なものであると考え、使用しています。