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【創作】2024.07.23

*この作品には暴力的な表現および性的な表現が含まれます。

僕には到達すべき場所があったのだ 過去があるのか 実在した事なのか 6万時間 370万分 本当に自分が経験した事 世界を解決しなければならなかったのだ この苦痛に こんな苦痛に 意味がなければならない そうでなければおかしい これほどの苦痛に 意味がないなんて でも違った そうやって自分を正当化していただけで そうでなければ耐えられなかった 存在し得なかった まるで他人のために苦しんでいるような気になって 自分に酔っていただけだった
僕は大学で哲学を専攻した 世界を解決するために 自分を救済するために 自分と同じ奴を助けるために 真理はこれを齎すだろう 世界と僕に安寧を齎し 未来永劫の解決が実現するだろう 人類史は全く新しいものになる これと同じ苦痛に苦しむ人間が今後一切 現れなくなる 哲学はそんなものではなかった 哲学は絶えざる営みだった 失望した 辺りを見渡せばすべてがそうだった あらゆるものが絶えざる営みだった
私には無理だ
僕は終止符を打つ
死を実現するための生 生きながら死を手に入れる あり得べからざる死を可能にする 
何かが変わったはずだ 前はこうではなかった 自分が変わったせいか 環境が変わったせいか 何が変わったのだ なにも もしかしたら なにもかも こうでなかったことは確かなんだ 僕は誰なんだ 覚えているぞ 全部 僕は僕だ なんだ これ
Sertraline
死以上に僕が求めるものはなく これを可能にするものを手に入れるだろう 
しからば 僕は幸福になる
記憶が 僕を 知らない場所へ連れていく まるで電気が走る 回路に 脳が 言葉になる

帰って来ないで。パパ、帰って来ないで。

———あなたはわたしと同じよ わたしと同じはずだわ だってお話しできるもの 私の話分かるのでしょう? わたしの感覚を共有できているのでしょう? わたしたちは同じものを感じているのよ わたしはあなた あなたはわたしよ ねえ これ好きでしょう? だってわたしが好きなんだもの 楽しいでしょう? だってわたしが楽しいもの 
———わたし、全然楽しくない。
———ねえ!見て!あれは気狂いよ。頭がおかしいわ。最近、ここらへんも変な人が増えたわよね。外国人も多いし。あの人たち夜騒いでいるのよ。知ってる?
———じゃあ、あの人は?あのスーツのおじさん。すまほいじってる。
———何言ってるの。あれは普通の人じゃない。見るからに。
———じゃあ、あの人は?自転車に乗った女の人。あの電動自転車の。
———あれも普通の人よ。見えない?子供を乗せているわ。

なにやってるんだ。電車に座っているんだ。なぜ電車に座っているんだ。あそこへ行くためだ。どこへ。どこかへ、家の外のどこかだ。行きたいのか。行きたくない。なぜ。行っても何もないからだ。なぜ家にとどまらない。何もないからだ。眼だ。誰も彼もお前を見ているぞ。醜いお前の顔を覗き込んでいるぞ。腕を見ているぞ。お前は誰だ。可愛子ぶっているのか。弱者気取りか。私は安全な人間味です。怒っているのか。何に。鳩を殺すのか。脚が赤いから。みんながお前を取り囲んでいるぞ。あそこのカップルはお前を馬鹿にしているぞ。私とは違うのだろう。私は彼らとは違うのだ。どう違う。とにかく違っているのだ。取り囲まれているぞ。誰もお前なんか気にかけない。みんなは私とは違うのだ。そうだお前は違うのだ。何をしているんだお前は。電車に座っているんだ。刺殺されるかもしれないぞ。お前がそうするように。誰もそんなことはしないはずだ。いやお前はみんなと違うのだろう。目の前のおやじはビール缶を持っているぞ。蹴られるかもしれないぞ。殺さなくていいのか。あの人は作業着を着ているから帰路についているんだ。働いた人の権利だ。お前を犯す権利も持っているんじゃないか。誰もが犯し犯されるのだ。お前が知っているように。関係ないことだ。お前は家で犯すのか。犯されるのか。助けてくれ。お前は何をしているんだ。電車に座っているんだ。前にサラリーマンが立っているぞ。パンツの中には男根があるぞ。関係のないことだ。お前は犯されるかもしれないぞ。そいつが妻を犯すように。私は家に帰るだけだ。帰れないかもしれないぞ。誰もお前を帰さないぞ。それでも帰るんだ。帰ってどうなる。帰るんだ。お前は何をやっているんだ。

誰もわたしを助けない。わたしはわたしを助けない。

お前は私と同じだ。

なぜだれも助からない。

私はお前と同じだ。

お前を見捨てる。

お前のことなど知らない。

わたしが悪いのか。なにか間違ったことをしたか。

お前は私とは違う、———同じじゃないのか?


©︎ 2024 Yuuki Miwa

*この作品には差別的な表現が用いられていますが、作者に差別を助長させる意図はなく、作品をより的確に表現するために不可欠なものであると考え、使用しています。

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