不安と喜び。〜パパとしての自信をなくした日〜
今朝は寝坊から始まる。
妻から起こしてもらい、慌てて飛び起きる。
今日は妻は休み。
子どもも保育園を休ませ、一緒に過ごすとのこと。
大丈夫?率直な気持ちを尋ねる。
アンパンマン見せてるから大丈夫。
それを大丈夫と言うのか…
その時の不安をすっかり忘れて、マッハで用意をして仕事に向かう。
だんだん仕事の終わる時間が近づくにつれて帰ってからの不安が大きくなっていく。
帰ってもご飯は用意してるわけないよな…
子どものお風呂くらい済ませてたらいいな…
つい求めてしまう。
妻はツラいのだから。
自分に何度も言い聞かせる。
こういうとき期待しないことがいいのか?
言い方が良くないな。
何か考え方の根本を見直さないといけない気がする。
ただ今は、どういう気の持ち方でいればいいのか分からない。
家に帰ると薄暗い中、アンパンマンを見ている子どもと横たわる妻の姿。
ヤバい。表情が曇っていく。
「パパおかえり〜」
飛び出してくる子どもに何とか笑顔を作る。
無事に今日を終えれる自信がない。
ご飯の用意をする間も妻は寝ていた。
そこに対しては素直に心配できた自分にホッとする。
「ゴメン、ベッドで横になるね」
「気にしないで」
自分もこれからを受け入れる覚悟を決めさせてくれた。
子どもの主張がとまらない。
夕飯の用意に追われる中、冷蔵庫を叩いて訴えてくる。
何か食べたいらしい。
何なのかを察するのは難解。
抱っこして冷蔵庫の中を見渡す。
飴が食べたいらしい。
夕飯前にか…
もう一般的な育児論なぞ知るか。
それで大人しくなるなら背に腹は代えられない。
急ピッチで仕上げる。
納豆ご飯、野菜の味噌汁、豚肉と野菜の中華炒め。
昨日、久しぶりにおかずを食べてくれた豚の唐揚げに習い
食べやすいサイズに切り、下味と片栗粉をまぶしてカラッと炒める。
皿にうつしていると、飴がない…
得意気に見せてくるオモチャ箱の中に…
ため息混じりの深呼吸で落ち着かせる。
キレちゃダメだ、キレちゃダメだ。
そう自分に言い聞かせる。
自分の分野も用意して2人だけの夕飯。
いただきます。
子どもがみるみる不機嫌に。
今度はなんだ?
スプーンが気に入らないみたい。
慌てて箸を渡すと、
「ちがう」
「スプーン!スープーン!」
意味が分からない。
もう熱傷レベルの湯沸かし状態の頭で普段使うスプーンを5本差し出す。
「ちがう!スプーン!」
意味が分からない。
何を主張しているのか?
頭をフル回転させようにもスプーンを投げつける。
ひと口、納豆ご飯に手をつけたと思えば、違ったようでデザート用スプーンを投げつける。
投げられたスプーンが糸を引く。
まさにカオス。
考える間も与えてくれない。
冷静でもいられない。
こんな時、子どものしたいことにしっかりと耳を傾けることが大事というがソイツは人生何周目だよ。
それでもよく聞く話には説得力がある。
今、大切なことは気持ちを落ち着かせること。
強い忍耐力。
何がしたいのか、しゃがみ込み目線を合わせて1つ1つ問いかける。
ご飯は食べたいのか?
スプーンで食べたいのか?
ここにある物は使いたくなかったのか?
一緒に探してみようか?
手を繋いで台所へ。
すると、他のスプーンやフォークをしまった引き出しへ一直線に手を伸ばす。
分かってるんだ…
子どもの成長のおかげで少し冷静さを取り戻させてくれた。
抱えて一緒に引き出しを覗き込むと迷いなく手に取る。
一年以上前に使っていたスプーン。
子どもに笑顔が戻る。
以前は四苦八苦していたスプーンを今じゃ巧みに口に運ぶ。
この光景に沸騰していた熱がスッと岩清水のように清らかに落ち着きを取り戻してくれる。
更に嬉しいことにペロリとたいらげ、おかわりまで御所望。
何か成し遂げたかのような充実感。
父親としてのレベルを上げてくれたかのような自信を与えてくれた。
それでも試練は待っていた。
いつも課題の寝かしつけるタイミング。
楽しくお風呂に入った後は、いつもの日課のアンパンマン。
1時間の約束でも中々、子どもには難しい。
時刻は20時30分を過ぎた。
ちょうどアンパンマンが終わり、頃合いかなと歯みがきを用意する。
案の定、「もういっかい」とリクエスト。
「もう寝る時間だよ」
イヤイヤ。
想定内だ。
まだ、冷静。
「歯みがきしようね」
「アンパンマ〜ン」と叫びながら、歯ブラシをぶん取り投げつける。
よくある日常。
まだ、冷静。
歯ブラシを拾おうとすると、先回りして掴み更に遠くへ投げつける。
すると冷蔵庫の前でドンドン扉を叩く。
言葉にならない声で訴えてくる。
いつの間にか主張が変わる。
子どもあるある。
まだ、冷静。
「梨食べよっか?」
妻が用意してくれていた梨を取り出す。
「ちがう!」
「じゃあ何にする?」
抱えて冷蔵庫を眺める。
一体、1日に何度このやり取りをするのだろうか?
まだ、冷静。
すると、ヨーグルトを取り出す。
悩みながらもギリセーフか〜?
基準なんて既に破綻してるが、都合よく自分を納得させる。
まだ、冷静…
一筋縄ではいかない。
2つ食べたいと。
まるで宝物のように両手で抱えて走り出す。
「もう一個は明日に取っとこうか?」
精一杯、優しく、切実な願い。
半ば、ぶん取るように冷蔵庫へしまう。
納得のいかない子ども。
まだ、冷静…
椅子に座ってくれない。
自分で開けようとしないのに開けてあげようとすると怒る。
意味が分からない。
「取り上げたりしないよ」
「自分で開けられる?」
渋々、差し出す。
蓋を開けてあげると、最後は自分で開けたかったようで奇声をあげて怒られる。
子どもって難しい。
まだ、冷静…か?
自分でしたいお年頃。
してあげようとする気持ち、急かす気持ちが、つい。
よくやってしまう失敗。
冷静ではないな。
ヨーグルトを食べ終えても収拾がつかない。
食べる間に片付けていたブロックを指差し、
なんてことをしてくれたんだとばかりに怒り狂う。
キーともキャーとも表せない甲高い声というよりも音が部屋中に響く。
もうダメかもしれない…
背けるように浴室へ。
逃げた。
廊下中に音を響かせ追ってくる。
暗闇の中、立ち尽くす私へ。
「ま~ま~」
泣き叫んでいた。
暗い中でも子どもの涙は見え、私はきっと感情をなくした顔をしていた。
なにかが壊れた。
無表情のまま散らかったオモチャを次々と投げつけるようにしまう。
激しく叩きつけられた音に子どもの泣く声が上回るかのように大きくなる。
その中には子どもが今でも楽しそうに遊ぶ100均で買った杓子のような謎のオモチャもあった。
100円でこんなに喜んでくれるんだ。
救われるようで愛おしさを感じさせてくれた大切なもの。
我にかえる。
もう時間は戻らない。
子どもの目を見れない。
怯えているのだろうか?
怒りを向けているのか?
いっそ怒ってて欲しい。
この期に及んで身勝手な自分。
寝室の扉を叩き、「ママ!」と泣き叫ぶ姿に。
これまでの間、「ママは?」と聞かれ
「ママはちょっと体がキツイ、キツイだから休ませてあげようね」
「○○くんも体キツイときは、お休みしたいでしょ?」
と素直に頷いてくれた子どもの優しさなのかもしれない。
言葉が出てこない。
真っ白な頭の中、子どもに近づく。
敵を見るような目で何度も叩かれ、追い返される。
遊びとは違う、ハッキリとした拒絶。
明日になれば無かったかのように子どもはかけ寄ってくるのだろうけど、
この事態を招いた自分は抱きしめてあげる資格があるのだろうか?
もう踏みだすことは出来なかった。
気付けば妻が出てきて、子どもを抱きしめていた。
無性に走りたい(逃げたい)気分だった。
「ゴメン、頭を冷やしてくる」
子どもは落ち着き、安心した顔で腕の中にいた。
逃げるように家を出る。
外は雨が降っていた。
皮肉なことに心を無にして発散させることすら許してくれないのか…
そんな資格ないのか…
「忘れさせねぇよ」
天からそう言われているかの如く、ほんの数時間の出来事を振り返る。
ほんの数時間の出来事に感情がごちゃ混ぜになり自分の愚かさ、無力さ、情けなさ、結局は自分ばかりのことを考えてしまうことに嫌気が差す。
覚悟なんて安っぽい言葉に虚しさがこみ上げてきたこと。
レベルアップだなんておめでたい自分。
今日感じた喜びは幻だったのか。
壊れたなにかは、きっとその全てだ。
雨が強くなっていく。
涙を浮かべ今日を綴る。
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