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🖋情景が浮かぶような文章

ジャカルタのスカルノ・ハッタ国際空港を抜けて、むんとする熱帯の空気と人々が行き交う混沌の中に身を置いたときの胸の高鳴りを、私は一生忘れることはないでしょう。宗教も価値観も言葉も異なる未知の人々が激しく往来し、日本では聞き慣れない雑多な音が響き合う異国の地。そこは私が求めてやまなかった自由があふれる場所でした。

拙著「宇宙はおしゃべり」リンダパブリッシャーズ発行/徳間書店発売

読んでいて情景が浮かぶような文章ですね。

数秘学徒の皆様や読者様から幾度となくこの言葉をいただきます。
温かい言葉に自信をもらうとともに、感想を伝えてくださる皆様の「情景が浮かぶ文章への憧れ」も感じました。
自分にとって何がそうさせるのか。私の方法が絶対ではありませんが、これなら簡単!と思える何かヒントがあればと思ったときに思い浮かんだものがあります。
それは情景が浮かぶ文章を書くための秘密道具(ペン・シャープナー)。今日はこのペン・シャープナーについて書きたいと思います。


わたしのペン・シャープナー

野村進著「調べる技術・書く技術」

ペン・シャープナーという言葉は、野村進著「調べる技術・書く技術」を読んで初めて知った言葉でした。この本によるとプロの作家でも原稿に向かうときに気持ちを高めていくのはたやすいことではないといいます。

ほっとする言葉ですが、だからこそ、プロの書き手は自分なりの「集中の儀式」をもっているそうです。ここがアマチュア(愛好家)の自分と違うところかもしれませんが、原稿に向かう前に音楽を聞いたり、掃除をしたりするみたいなんですね。そして集中の儀式に役立つ「材料」としてペン・シャープナーが紹介されています。

ペン・シャープナーとは、文章のカンを鈍らせないために読む本や、原稿を書く前に読むお気に入りの文章のことだ。

調べる技術・書く技術 P.128

この本によると、評論家の荒正人は寺田寅彦を読むと頭の整理ができるといい、作家の加賀乙彦は大岡昇平を文章の手本にしています。お気に入りにはその人の魂に共鳴して「本来の文体」に調律する大切なものがあるのでしょう。

私にもペン・シャープナーになってくれる本があります。
・センス・オブ・ワンダー
・森に還る日
この2冊です。

音読と写本

星野道夫著「森に帰る日」レイチェル・カーソン著「センス・オブ・ワンダー」


私の源泉ともいえるのが、この2冊の本。
決めては「文体」だと思います。表紙からも想像できますが、両者とも自然への驚異と畏敬にあふれていて、その文章にふれただけで整う感じがします。

日常的に文章をアップしていると、ときに機械的になったり、説明調になったりします。気づかぬうちに身体に力が入り、「気(エネルギー)」が出なくなっているんです。そんなときは一旦筆を置いて、お気に入りの本を手に取って眺めてみます。

ある秋の嵐の夜、わたしは一歳八か月になったばかりの甥のロジャーを毛布にくるんで、雨の降る暗闇のなかを海岸へおりていきました。

センス・オブ・ワンダー P.7

ほんの1~2ページ、さらっと読むだけで、心が落ち着いてきます。読み進めて内側にエネルギーが満ちてきたら文章に取りかかります。まだもう少しという場合はお気に入りのもう一冊をパラパラとめくります。

植物たちの声、森の声を
私たちは聞くことができるだろうか。
あらゆる自然に魂を吹き込み、
もう一度私たちの物語を取り戻すことはできるだろうか。

森に還る日 P.10

頭に上がっていた「気」が下腹まですーと降りてきます。どこかに行きっぱなしになっていた自分自身が戻ってきました。静かになった私はペンを握ります。すると、自分ではない誰かが書いているようにスラスラとペンが走るのです。

それはお気に入り本の文体(魂)が乗り移ってくるような感覚です。
読むだけで自分が整う本に巡り合ったら音読や写本もいいでしょう。作家さんになったつもりでその世界に入りむ。その後に書いた文章は、あなたの憧れた文章と共鳴し、その世界を確実に取り込んでいます。

目の前に広がる人生は美しい

散歩中に見つけた野の花


私は自然が大好きです。日常的に公園を散歩するのですが、その公園の緑も、空の青も、笑いながら駆け抜けていく小学生たちも、そのすべてが目の前に広がる私の人生で、とても美しいと感じます。

あなたの目の前に広がる人生に、もっと興味をもつこと。人々、物事、文学、音楽……世界はあまりに豊かで、宝物や美しい興味深い人々に満ちている。自分のことは忘れなさい。(ヘンリー・ミラー)

ジュリア・キャメロン著「あなたも作家になろう」

家族や友人、山と積まれた本、音楽、美味しい食べ物、家族同然の動物たち。それらも目の前に広がる自分自身の人生です。そこにレイチェル・カーソンがセンス・オブ・ワンダーに書いたような「神秘さや不思議さに目を見はる感性」で眺めたら、自然と情景が浮かぶ文章になるでしょう。豊かで好奇心に満ちた面白い世界に夢中になれば、自分を忘れることもできます。
情景が浮かぶ文章の原点は、目の前に広がる人生への賛美だと思います。
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