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匂いと記憶とワクワクと

4月はなぜかワクワクする。
私は4月生まれだが、それが理由ではない。
物心ついてから誕生日への思い入れはなくなった。

だが、息子は大学生になった頃から誕生日プレゼントをくれるようになった。ありがたいことだ。

私の誕生日を思い出してくれる人なんて、人類に彼ひとりだけであろう。
かく言う私は久しく息子にプレゼントをあげていない。ごめんね!

ところで、4月がワクワクするのはなんだか新しい匂いがするからだ。
匂いがする、というか、匂いがする気がする。

気付くと咲いている桜。
あんな所に桜の木があったんだなーと改めて認識する。

車を運転していると見かける風景。
新しいランドセルを背負ったちっちゃな新一年生。
一年生ってこんなに小さかったっけ⁈と懐かしくなる。
そして毎年思い出す。

17年前の4月。小学校に入学した息子。
その前年、私はシングルマザーになり仕事で忙しく、入学前の準備もバタバタだった。

学校説明会も仕事の都合で参加できず、父にお願いした。
それまで息子も精神的に苦しかっただろうなーと今になってやっと感じる。
今になって、というのはその時は自分も精一杯で全然余裕がなかったからだ。

毎日毎日が一生懸命で、日々をこなす事だけだった。
だから不安は二の次!とにかく一日一日をやりきるのみだった。
そんな中で迎えた息子の小学校入学である。

初登校の朝、息子と一緒に登校した。
一年生の歩幅だと小学校まで歩いて15分くらいの距離であろうか。
家を出て300mほどふたりで歩く。

丁字路を右折してまっすぐ300mほど行けば小学校だった。
しかし、その時思いだした。
入学前に通学路のシミュレーションをしていなかったことに。

一度でもふたりで歩いておけばよかったのに、そんなことさえ忘れていた。
でもそんな時、幼い息子が言った。
「僕ここからひとりで行くよ」

たしかにまっすぐ歩けば到着だ。でも短い距離にせよ、どうなんだろう。
みんなちゃんと校門前まで親が送って行くのかなあ。不安だなあ。
「大丈夫?」
「平気だよ」そう言って歩き出した。

息子は歩きながら何度もニコニコ振り返った。
ほら、僕できるよ。とでも言わんばかりに。

振り返り歩いて、振り返り歩いて。
中学年や高学年の子供たちに混ざりながら歩いて行った。

小さく生まれた息子は一年生の中でもとても小さかった。
後ろから見るとほぼランドセルしか見えなかった。
私はランドセルが見えなくなるまで見送った。

振り返りながら歩く息子の姿は今でも鮮明で
この季節になるといつも思い出す。

小学校という新しいステージにあがった息子が少しだけたくましく感じた。
成長したんだ、大きくなったなあと実感した瞬間だった。
なんともいえないさわやかな風が吹いたような新鮮な空気の匂いを感じた。

4月のその記憶が、匂いを思い出し、ひいてはワクワクするという理由だろう。

そしてこの出来事をいつまでもずっと忘れないでいたいと思う春である。








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