短編小説「中身」
公園のベンチで僕はまったりしていた。
すると目の前に男がやって来た。
その人は僕に包装紙に覆われた小さな箱を渡してこう言った。
「その中身は君次第だ。」
僕は包装紙を取って、小さな箱を見つめた。
なぜだかそうしなきゃいけないという衝動に駆られたのだ。
目の前にいたはずのその人はもういなかった。
小さな箱は真四角で真っ白だった。
積み木のようなその箱には開ける場所が見当たらない。
どこからこの箱を開ければいいのだろう。
まず僕は箱を振ってみた。
音はしない。
継ぎ目を探してみるがそんなものはない。
全部の辺を見ても、爪の入る隙間すらない。
また箱を振ってみる。
やはり音はしない。
中身が詰まっているのだろうか。
僕は箱をコンコンと指でつついた。
箱がへこむ気配はない。
缶切りやナイフで開けてみようかと思ったけど、今はそんなもの持ち合わせてない。
思いっきり地面に箱を叩きつけるのはどうだろうか。
いや、中身も一緒に壊れてしまうのではないだろうか。
白い箱は僕に沢山の疑問を与えてくる。
じっくり白い箱を観察する。
手のひらサイズのただの箱。
中身を予想してみる。
このサイズだからお札が丸められて入っているかもしれない。
...いや、都合よすぎるか。
まぁお金ではないだろう。
ましてや硬貨ではないのは確実だ。
少し残念だが、中身を決めるのは自分次第と言われたのを思い出す。
上手くいけばそれもありえないことではない。
じゃあ、お金ではないとしたら何が入っているのかと考える。
この箱はとても軽い。
...そもそもこの箱の中身は役に立つものなのだろうか。
考えるほど白い箱が分からなくなっていく。
日光に透けて見えないだろうか。
何度か試したが透けることはなかった。
箱の外面に何か書かれているのか?
いや、中身は君次第と言われたんだ。
外側なんてどうでもいい。
かれこれ1時間近く白い箱と格闘した。
やれることは全てやった。
結局中身は分からず、開け方も分からなかった。
座っていた公園のベンチから腰を離す。
あの突然目の前にやって来た人は何を目的に僕に白い箱を渡したのだろうか。
僕は白い箱をベンチに置いた。
伸びをして身体をリフレッシュさせる。
僕はベンチに箱を置いたことを忘れてその上に座ってしまった。
ぐしゃっと箱は潰れた。
焦って立ち上がり、潰れた箱を見る。
中身はセミのぬけがらだった。
妙に怖くなる。
あの人は何が言いたかったのだろう。
そもそも言いたいことに中身なんてなかったのかもしれない。
そう思うと僕はどうしようもない虚無感に襲われた。
そろそろ日が暮れる。
終、
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