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太田裕美 「BEST COLLECTION」 (1986)

毎週日曜日、いつも楽しみにしているラジオ番組があります。それはラジオ日本で放送されている「クリス松村のいい音楽あります」という番組です。拝聴されている方も多いかと思いますが、クリス松村さんのマニアック振りが堪能出来る音楽番組なんです。洋楽邦楽問わず、ちょっと味のある選曲に毎回唸らせられます。と同時に毎回「こんな素敵な音楽があったのか~」と気付きがあって、いいんですよね。

数年前ですが「太田裕美の素晴らしさ」に気付かされました。オンエアされた楽曲は「南風」でしたが、その曲、40数年振りに聴きました。で、すぐにヤフオクで彼女のベスト盤を購入…、彼女の声、そして松本隆さんの描く世界観に引き込まれました。

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彼女の代表曲といえば「木綿のハンカチーフ」ですね。言わずと知れた作詞:松本隆、作曲:筒美京平の名曲。
太田裕美はスクールメイツ出身で、1974年、19歳で「雨だれ」でデビュー。アイドルとしては遅いデビューだし、歌唱力はあったので、当時はニューミュージック系歌手として売り出そうとしたらしく、マイナー調の「雨だれ」「たんぽぽ」はフォーク調の楽曲でした。

結局サードシングルの「夕焼け」まで商業的なヒットには至らず、ここまで松本隆さんはディレクターの指示の通りに作詞を行ってきたわけですが、ここで「自分のやりたいようにやらせて欲しい」と直訴し、ディレクターから「シングルは口出しするけど、アルバムならいいよ」ってことで、そのアルバムの中の1曲に「木綿のハンカチーフ」があったわけです。
今までの「楽曲の上から作詞する…」というスタイルから、「作詞してから曲をつける」というスタイルへ変更を求め、完成させた詞が「木綿のハンカチーフ」だったんですが、この詞が長すぎた(笑)。さすがに筒美京平氏も大いに戸惑い、担当ディレクターへ電話をしたが捕まれず、仕方なく曲を書いたら、これがうまくいった…。名曲が出来たわけです。しかも当時はこの曲、前述のようにアルバムの1曲として書かれたものだったのですが、筒美氏は「これはシングルカットしたほうがいい」とディレクターに推薦。結局、詞もこのままでシングルカットが実現してしまったですね。

皆さんご存知のようにこの楽曲の歌詞、都会へ行ってしまった恋人(男性)と、残された恋人(女性)の会話の繰り返しが4番まであるんですよね。こうした会話形式の歌詞なんて従来なく、松本隆さんのその大胆な試みと挑戦に、筒美氏が見事に答えた形で、素晴らしいポップスが誕生したのです。また以前放送された「NHK名盤ドキュメント『心が風邪をひいた日』」では、この曲のアレンジにも注目されてました。それはイントロのギターの3拍のフレーズ。楽曲は4拍なのに、そこに3拍のフレーズが入ることでスピード感が増す。確かにそう聞こえますね。

結果として松本隆さんの考えは間違ってなく、この大勝負に勝ってしまったんですね。後に松本さんは「そういう意味では、ぼくにとって太田裕美さまさまなんですね。ありがとうございます、という感じです。」と語ってますし、太田裕美の楽曲は、以降しばらくは松本隆&筒美京平コンビが提供していくこととなります。

他に私が好きな楽曲が「失恋魔術師」。有名な「九月の雨」もいいんですが、ちょっとマイナー調な楽曲がどうも好きになれず(もちろん名曲であることは間違いないのですが)。
「失恋魔術師」は1978年に発表された11枚目のシングルで、作曲が筒美京平ではない初めてのシングルなんです。作曲者は吉田拓郎…、確かに拓郎さんらしい楽曲。
あなたの住む街へ行き、待ち合わせた珈琲ハウス…、待ち人はまだ居らず…。きっと恋人は来ないと囁く失恋魔術師。この楽曲の詞も長い(笑)。エンディングのフレーズのテンポアップしたドラムアレンジ。ここで彼が登場するという仕掛け。これもまた太田裕美らしい名曲ですね。

1978年発表の13枚目のシングル「振り向けばイエスタディ」はロスアンゼルス録音の楽曲。本作収録のアルバム「海が泣いている」は、これまでのご褒美的な意味合いで全曲がロスアンゼルス録音となってます。そして「振り向けばイエスタディ」は松本&筒美さんの作品であり、編曲はS&G「明日に架ける橋」のアレンジャーとしても有名なジミー・ハスケル。確かにゴージャスなゴスペル風なところは彼らしい。
アップした映像は彼女が弾き語っているもの。デビュー当時はこのスタイルでした。

CMソングとしても有名な1980年発表の「南風 -SOUTH WIND-」もご紹介しておきます。同世代の方は覚えてますよね。
♪ 君は光の…オレンジギャル ♪ って歌詞。キリンオレンジのCMですね。作詞作曲は網倉一也氏。シンガーソングライターとしてデビューした方ですが、アイドル歌手等にも楽曲提供されていました。夜のヒットスタジオ出演時の映像もどうぞ。

やっぱり「さらばシベリア鉄道」もご紹介しておきます。もちろん大瀧詠一さんの名曲ですが、当時は「A Long Vacation」発表前であり、大瀧さんの知名度もまだまだマイナーだった時代。大瀧さん自身が、この曲の女性言葉の歌詞を嫌がり、太田裕美への楽曲提供を思いついたということのようです。ギターは鈴木茂さんです。ここでもはっぴいえんど勢力が力を発揮してますね。

太田裕美さん、のちに「今の太田裕美があるのは松本隆のおかげ、今の松本隆があるのは太田裕美のおかげ」と冗談めかして語ってますが、でもその通りですね。木綿のハンカチーフは彼女の愛らしい澄み切った声で歌われるのが良かったのですから。

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