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稲垣潤一「No Strings」(1985)

シティ・ポップスが堪能できる名盤 

大学生時代、もっとも良く聴いたアーチストはJ.I.こと稲垣潤一かもしれません。彼からは音楽の魔法をいろいろと教えられました。大学生生活のあらゆるシーンに、彼の音楽が染み込んでいます。

リアルタイムに聴いていたのは7枚目の「Mind Note」や8枚目の「Edge of Time」ですね。それより前のアルバムは後聴きですが、本当にJ.I.はよく聴いてました。
大ヒット曲「ドラマティック・レイン」の頃の初期J.I.は、多彩なシティ・ポップスの名演奏家、作曲陣が参加してます。デビューアルバム「246:3AM」からサードアルバム「J.I.」までは、そういった素晴らしいバック陣の名演奏が聴けますね。

本作はJ.I.5枚目のアルバム。ここではJ.I.の作品のなかでも個人的に大好きな曲が収録されてます。

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J.I.はデビュー前、歌うドラマーとして横須賀や立川の米軍キャンプ地でライブを重ね、ヴォーカリストとしての実力を蓄積していった人物です。しかしそのヴォーカルは、けっしてゴスペル的な豪快なものではなく、口先だけで歌っているような、独特のものです。声質がシティポップスに合っているんでしょうね。いいヴォーカリストです。

さて本作の良さですが、①②③に収斂されているような気がします。
①「Jの彼女」。題名がいいですね~。このイントロのかっこよさに参ってました。秋元康作詞、木戸やすひろ作曲、そしてアレンジャーは井上鑑今剛のカッティングギターが心地いいです
メロディーはごくありふれたものだと思いますが、アレンジがいいですね~。あとサビの後追いコーラス(木戸さんでしょうか?)もいいです!

そして私の大好きな②「The Rule of love-Baby,take a chance on me-」!実はこれを聴くためにこのCDをいつも引っ張り出してます。作詞湯川れい子、作曲崎谷健次郎、アレンジ井上鑑
①のエンディング。音が消えるか消えないかで、この曲のブラックテイスト溢れるイントロが鳴り出します。でもこのイメージはイントロと間奏だけ。おっと!この曲、全部英語なんです
後に崎谷健次郎自身が87年にセルフカバーしますが、そちらは日本語詞。この崎谷健次郎が書いた最高なポップスメロディには英詩が合います。
どこか微笑ましい、撥ねるリズムのポップスに、山木秀夫(Ds)&高水健二(b)のリズム隊がいい仕事してますね~。最高にゴキゲンなポップスです。

それに続く③「Mr.Blue」は正統派3連ロッカバラード。J.I.が歌うとメロディが染み入るように感じます。これは大ヒット曲「夏のクラクション」にも通じます。

⑤「愛は腕の中で」は作詞秋元康、作曲林哲司、アレンジ松任谷正隆のAOR系の、ちょっとオシャレなバラード。ドラムは林立夫。こうした洒落たAORにJ.I.のヴォーカルはぴったりです。

J.I.は基本的にはシンガーであり、めったに作曲はしないのですが、たまに自身の曲が収録されてます。そういった曲はアルバムのなかでは決して捨て曲ではなく、結構いい曲なんですよね。例えば「REALISTIC」に収録されているJ.I.作①「UP TO YOU」なんか、最高にかっこいい曲ですよ。
で本作にも自身の曲が1曲収録されてます。それが⑦「楽園伝説」。題名の通り、南国の楽園でゆったりとくつろいでいる雰囲気が伝わってくる佳曲。ロック系だけでなく、こうした曲も作れるJ.I.に驚きを覚えた記憶があります。今剛のアコギソロが染み入ります。

以前、山下達郎のサンソンで山下氏がいみじくも、「楽曲の70%はアレンジャーで決まる」と発言されてましたが、このアルバム、J.I.のヴォーカルの良さをうまく引き立たせた井上鑑のアレンジの勝利ともいえるかもしれません。
本作以降のJ.I.は「パラシュート系音楽」(って言葉はないですが、イメージは伝わるでしょうか??)から、より独自路線のポップスを歩んでいったような気がします。

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