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Yellow Magic Orchestra「増殖 - X∞ Multiplies」(1980)

今年、高橋ユキヒロ、坂本龍一ご両名が相次いで亡くなられたということは非常に残念なことでした…。
このお二人が在籍していたYMO。今回ご紹介する彼等の4枚目のアルバムは、私の中では「イロモノ」扱いと認識していたのですが、実はかなりYMOらしい毒気のあるアルバムで、今更ながら最近のヘビロテとなっております。お遊びながらも決してお遊びになっていない、そこがYMOの凄いところ。また全盛期にこうしたアルバムを果敢にも発表したこと自体意義深いことと思われます。

当時、ライブアルバムである前作「パブリック・プレッシャー」が商業的な成功を収め、YMOは人気絶頂期にありました。
それに気をよくした所属レーベルのアルファは、同様なアルバムをメンバーに求めたのですが、それではファンは納得しないとして細野氏が固辞。一方当時多忙を極め、曲作りも進まなかったことから、高橋ユキヒロが気に入っていたスネークマン・ショーのコントを間に挟むことを企図。そしてご存じのように本作はスネークマン・ショーのコントを曲毎に挟んだ、非常に風変わりなアルバムとなったのでした。あ、ちなみにスネークマン・ショーとは小林克也、伊武雅人、桑原茂一のコントユニットです。

全12曲、ではなく12トラック。このうちスネークマン・ショーのコントが5トラック。ジングル、既発表曲を除くと、純然たる新曲は4曲のみで、アルバム自体が30分に満たないことからも明らかなように、元々はこの作品、10インチのミニアルバムとして発表されたものでした。
当時、私が「イロモノ」として認識していたのは、このコントが収録されていたからですが、実際今聴くと、ブラックユーモア溢れるコントでついつい苦笑してしまいます。それから新曲は明らかにテクノポップなYMOではなく、ロックバンドとしてのYMO、時代の最先端をいくニューウェーブ・サウンドが実にカッコいいのです。このブラックユーモアなコントとニューウェーブ・サウンドが織り交ざり、毒気を超越し、むしろ洒落たセンスを感じさせます。

まずはジングルに続いて収録されている②「Nice Age」。作詞:クリス・モズデル、作曲:高橋ユキヒロ・坂本龍一。
高橋ユキヒロの怪しげなヴォーカル、音はまるでデュラン・デュラン(笑)。昔はこのテのサウンドが苦手でしたが、ここでのYMO流ニューウェーブはカッコいい。
途中のニュース速報のナレーションは福井ミカ。「22番」というのはポール・マッカートニーが当時入獄していた独房の番号。Coming Up Like A Flower と歌われている歌詞は、当時のポールの新曲「Coming Up」からの引用。ご存じのようにポールは1980年1月の来日の際に、大麻不法所持で逮捕拘留されてしまいます。当時のスケジュールでは、YMOのレコ―ディングにポールが見学することになっていたらしい。そういった背景もあり、このブラックユーモア的なナレーションが入っております。

そしてこの後に続くスネークマン・ショー、ますは③「KDD」。
日本人と(恐らく)米国人が英語で会話しております。ミスター大平と名乗る日本人は明らかに当時の大平首相をモチーフとしたもの。自分は大金持ちだと自称する大平、自分の会社は超有名だと言い放ち、会社名を聞かれ、K・D・D…と(笑)。こんなブラックユーモア、今では音源化なんか出来ないですよね。こんなコントが5本、どれもが毒っ気満載…。よくやるわ…って感じです。

私を狂喜させた楽曲が④「Tighten Up (Japanese Gentleman Stand Up Please!)」。
こちらは1968年に大ヒットしたアーチー・ベル&ザ・ドレルズのカバーですが、この軽快なR&Bを見事なグルーヴで再演。特に細野晴臣の味のあるベース、そしてこのグルーヴ感こそ、高橋ユキヒロの真骨頂。彼のシャープなドラミングが堪能出来ます。YMOのリズム隊のベストな楽曲じゃないかなとも感じました。
このアルバム、スネークマン・ショーでは日本人を皮肉ったコントが多く収録されてますが、その日本人に対して「Japanese Gentleman Stand Up Please!」との強烈なメッセージですからね~。スタジオ録音では小林克也が叫んでます。
そしてこの曲、なんと米国の著名なTVショー「Soul Train」でYMOが演奏しているんですよ。なんか痛快ですよね。その時の映像がアップされておりました。YMOのマネージャーである伊藤洋一氏がダンスフロアで黒人たちに混じってカッコよく踊っているという有名な映像です(笑)。コレ、後に小林克也氏も「画期的なこと」と語っておりました。ユキヒロさんもカッコいい。アッコさん(矢野顕子)も相変わらず堂々として凄いですね。

大村憲司のギターが鋭い⑧「Citizens of Science」は坂本龍一作曲。
出だしに⑦「ここは警察じゃないよ」のエンディングが僅かに収録されてますが、これは警察と麻薬中毒者のやり取りコントで、スネークマン・ショーの有名なコントのひとつ。興味ある方は是非YouTube等でチェックしてみて下さい。このふざけたやり取りからのニューウェーブ・サウンドです。曲自体は単純ですが、アレンジで一気に聞かせてしまいます。後の英国のニューロマンティックにも繋がる楽曲。ワールドワイドなYMOならではの楽曲ですね。

スネークマン・ショーの⑨「林家万平」、もちろん林家三平師匠のパロディ、あまりにも下らない(笑)。
中国で通訳を介しての落語、下らないオチの後の沈黙、そして大爆笑…。この間が堪りません。

アルバム・タイトルにもなった⑩「MULTIPLIES」は当時流行っていたスカをいち早く取り入れたもの。
当初はYMOのクレジットでしたが、冒頭に「荒野の七人」のフレーズを入れたことが問題となり、現在はその作曲者の巨匠バーンスタインもクレジットに入れております。しかしここでのユキヒロさんのドラムも実に彼らしくシャープで切れ味抜群。実にスカのリズムに合ってますね。ベンチャーズ風な大村憲司のギターも素敵。いや~、これもカッコいい。

そしてエンディングの⑪「THE END OF ASIA」は坂本龍一の「千のナイフ」からの1曲。こちらをオリエンテッドなアレンジに仕上げてます。何といっても途中の伊武雅人の台詞「あ…、日本は…、いい国だなあ」にまったり感を覚えます。

なんとこのアルバム、オリコンチャートで1位を獲得。如何にYMOの人気が絶大であったか、よく分かります。実際、音楽的なクオリティも非常に高く、スネークマン・ショーのコントも秀逸ですね。

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