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The Temptations 「All Directions」 (1972)

CD全盛期の頃、名盤が1,000円で発売されていたシリーズがあり、結構充実しておりました。なかでもビル・エバンスの「パリ・コンサート」とテンプテーションズの「オール・ディレクションズ」は良かったですね。いい時代になったものだ…と思ったものです(今ではサブスクでもっと簡易に名盤が聞けますが)。

さてテンプスの「オール・ディレクションズ」ですが、サイケデリック・ファンクの名曲③「Papa Was A Rolling Stone」を収録していることでも有名な名盤ですね。そしてプロデューサーのノーマン・ホイットフィールドのサウンド・プロダクションが冴え渡っている1枚といってもいいかもしれません。

60年代後半、サイケデリック・ムーブメントが巻き起こり、ソウルミュージックはスライ&ザ・ファミリーストーンに代表されるファンクが主流となってきました。この流れに乗ったのがノーマン・ホイットフィールドで、スライのファンクを研究し、それをテンプテーションズという素材を使って、次々を革新的な楽曲を発表していきます。
その布石となった曲が「Cloud Nine」(1969年)。初期スライの、ノリのいいダンスミュージックと、若干のファンクらしさが香る名曲ですね。

そして③「Papa Was A Rollin' Stone」ですが、ノーマンはこの曲を最初、テンプではなく彼の秘蔵っ子グループのThe Undisputed Truthに歌わせてます。そこでのアレンジはノーザンソウルのような、ホーンを前面に押し出したような作りとなってました。
The Undisputed Truthは1971年にこの曲を発表するのですが、実はあまりヒットしなかったんですね。確かにテンプのヴァージョンと比べるとインパクトが全然違います。アレンジによって、こうもイメージが変わるのか、といういい手本のような事例ですね。

テンプのバージョンはサイケデリック・ソウルの極みのような音作りです。アルバムでは約12分。ボーカルグループなのに、歌いだしは3分を過ぎてから・・・(笑)。ハイハットと必要最小限のベース。怪しげなカッティング・ギター。オーケストラとトランペットがサイケ感覚を煽ります。クールな音にハンドクラップが実にカッコいい。The Undisputed Truthとは全く別曲ですね。
このクールな音からテンプのヴォーカルが切り込んでくるところは実にスリリングです。テンプらしく畳み掛けるように様々なヴォーカルが飛び交います。ノーマンの音作りとテンプのヴォーカルグループとしての力量が十分発揮された素晴らしい1曲です。
アップした映像はショートヴァージョンですが、実に曲にあった映像ですね。随所にテンプの歌うシーンが挟みこまれてますが、これがまたいい。カッコいい!

本作トップを飾る曲は、これもまたカバーとなった①「Funky Music Sho' Nuff Turns Me On」。
もちろんノーマンの楽曲ですが、エドウィン・スターが1971年に発表してます。とにかくファンク色が強く、スライの楽曲に似てますね。最初テンプは歌うのを躊躇ったとも云われてます。
本作では敢えて擬似ライヴバージョンに仕立ててます。

本作はA面(①~③)がファンク路線、B面が通常のメロウ路線。本作のファーストシングルは「Papa~」ではありません。実は⑦「Mother Nature」という曲。
なぜこの曲がファーストシングルに選ばれたのか、正直良く分かりません。楽曲自体も強力なナンバーと思えませんし。当然ながら、全くヒットしませんでした(そしてセカンドシングルが「Papa~」な訳で、ビッグヒットを記録します)。

ちなみに④「Love Woke Me Up This Morning」はマーヴィン・ゲイ&タミー・テレル、⑥「The First Time Ever (I Saw Your Face)」はロバータ・フラック、⑧「Do Your Thing」はアイザック・ヘイズのカバー。結構強力な楽曲が他にもあるんですけどね。
④「Love woke me up this morning」のライブ映像がありましたのでアップしておきます。4人のコーラスマイクがスゴイ!ハイトーンヴォーカルは今年亡くなられたデーモン・ハリスでしょうか。

実は私、テンプテーションズのアルバムを聴くのは本作が初めてですが、いいですね。やっぱり70年代のニューソウルは素晴らしい。


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