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泰葉「TRANSIT」(1981)

6月29日に泰葉の4枚のアルバムがリイシューされました。正直、泰葉といえば「フライディ・チャイナタウン」しか知らず、かつあの破天荒な強烈なイメージしか浮かばず、ついついスルーしてしまうところでしたが、たまたまサブスクでもチェック出来たので、デビューアルバム1曲目を何気なく聴いてみたら…、これが完全なシティポップ。しかも明らかに私の大好きな井上艦サウンドで実に素晴らしい…。

各曲のクレジットは不明ですが、全曲作詞:荒木とよひさ、作曲:海老名泰葉、アレンジは井上艦・若草恵・矢野立美が担当。バックは林立夫・山木秀夫・宮崎まさひろ(Ds)、岡沢章・富倉安生(B)、今 剛・松原正樹・芳野藤丸(G)、斎藤ノブ・浜口茂外也(Per)と錚々たる顔ぶれ。
初代林家三平の次女として誕生した彼女は、幼少の頃からクラシックを学び、音大受験失敗を機にポピュラー音楽を志すようになったらしい。若干20歳でのデビューなので、一瞬コネデビューと思ったら、決してそんなことはありません。このデビューアルバムは、彼女の才能が迸っております。

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まずは私が気に入ったアルバム・トップの①「恋1/2」をどうぞ。アレンジは井上艦。
イントロからウエストコースト系AORの香りがします。Aメロの1拍目にタムをアクセントに入れたり、かなりリズムを強調したドラムが実にグルーヴィーですね~。随所に入るフルートやクラリネットが実に爽やかで効果的。曲調は違いますがケニー・ロギンスの「Wait a Little While」からの影響を感じさせます。
歌詞もメロディも、当時は愛らしかった泰葉のキャラクターをうまく反映させた名曲。

②「モーニング・デート」は泰葉と井上艦のコンビがうまく合致したロックチューン。
初期の松田聖子の楽曲を思わせる松原正樹のギターが唸ってますね~。これは完全にパラシュートの面々の演奏ですね。
この曲の特に後段、3分28秒以降のアレンジは、後にデビューする稲垣潤一のサウンドと全く酷似してます。ひょっとしたら稲垣さんがデビューする前に、このアルバムで既にその下地は出来ていたのかもしれません。
この曲は井上艦さんのエアプレイっぽいアレンジの勝利ですが、泰葉さんもいい曲作るなあ~と感じます。

①②は完全に井上さんが作り上げた世界観が押し出された形でしたが、だからと言って、泰葉の力量に疑問符が付くわけではなく、特に④「Bye-Bye-Lover」は彼女の迫力あるヴォーカルとそのアレンジに驚愕。この曲のアレンジは彼女自身と矢野立美。
この曲はアーバン・ディスコ・ナンバーとして、密かに人気があるらしい。確かに曲調が非常にソウルフルで心地いい。でも本作の聴き所はそこではなく、やはり間奏。個人的には本作のハイライトは「フライディ・チャイナタウン」ではなく、本作の間奏部分にあると思う。
間奏のギターソロ、よく聴くと泰葉のヴォーカルとハモっている。そして速弾きのギターソロ部分まで…! きっと彼女、コレやりたかったんだろうなあ。以前、クリスタルキングのアルバムをご紹介しましたが、その中の1曲でもクリキンの田中昌之さんが同じようなテクニックを披露してましたね。

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そして彼女を一躍有名にしたヒット曲の⑦「フライディ・チャイナタウン」。こちらもアレンジは井上艦。
圧倒的な迫力あるヴォーカルと印象的なサビ、シャープでどことなくラテンチックなアレンジ。どれを取っても秀逸。イントロと間奏のユニゾンで奏でるバンドサウンドがカッコいい。この時代、八神純子、渡辺真知子、久保田早紀…、素晴らしい女性シンガーソングライターが相次いで登場してましたが、泰葉も間違いなく、天才肌の一人でした。近年はDJのNight Tempoがこの曲を取り上げたことで、ワールドワイドで人気が再燃しているらしい。

イントロはおとなしい楽曲ですが、かなりロックしている⑧「ミッドナイト・トレイン」。
この曲のアレンジは若草恵。こちらも洋楽の香りがするアレンジです。山口百恵さんが歌いそうなスピーディなナンバー。

泰葉の懐の深さを感じさせる1曲が⑨「アリスのレストラン」。
昭和歌謡を連想させるブギウギナンバー。泰葉さん、こんな曲まで作れるんですね。しかもアレンジも自身と矢野立美のもの。

如何でした? 当時、井上艦は自身がアレンジを務めた寺尾聡のアルバム「Reflection」が大ヒットを記録し、日本の音楽シーンを牽引しているアレンジャーでした。その井上艦とパラシュートのメンバー等の演奏と対等に亘り合っている泰葉のシティポップが堪能できる1枚です。
その後、泰葉は数枚のアルバムを発表後、春風亭小朝と1986年6月に結婚、芸能界を引退します。以降の一連の流れは皆さん、よくご存じの通り。
これだけ音楽の才能溢れる方だったので残念ですが、近年の彼女に対する再評価は喜ばしいことですね。

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