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Full Moon「Full Moon」(1972)

AORファンには御馴染みのフル・ムーン。というかラーセン・フェイトン・バンドと申したほうがいいかもしれませんね。私もラーセン・フェイトン・バンドはよく聴いてました。
ニール・ラーセン(Key)とバジー・フェイトン(g)。フュージョン、AOR界では御馴染みのスタジオ・ミュージシャンで、この2人を核に1972年にフル・ムーン名義でアルバムを1枚発表しますが、敢無く解散。
それから8年後の1980年に再び2人が中心となり、ラーセン・フェイトン・バンド名義でアルバムを発表します。そのアルバムがAOR指数が高く、名盤として語られているのです。ですから1972年発表のフル・ムーンのアルバムは、ちょっと忘れられた存在なのかもしれません。

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ジャケットからしてメンバーが精悍に写っており、なかなかかっこいいですね。そしてその中身ですが、ラーセン・フェイトン・バンドのイメージで聴くと裏切られると思います。
なにせ1曲目から強烈なファンクチューン「Heavy Scuffle's On」ですから(笑)。しかも楽曲そのものが黒い! 強力です。

このフル・ムーンのメンバーですが、バジーとニールに加えてFred Beckmeier (b)、Phillip Wilson (ds,vo)、Brother Gene Dinwiddie (sax,fl,vo)といった面子。バジーとフレッド、ブラザー・ジーンはポール・バターフィールド・ブルース・バンドに居ました。フィリップはR&B系のスタジオミュージシャン。これらの経歴を踏まえると、1曲目のファンクはなんとなく納得しますが、それにしてもスゴイ迫力です。

②「To Know」は①とはまた反対に優しさに満ちた和やかなニューソウル的な楽曲。バジーの作品です。バジーはこの時期、ラスカルズにも在籍しておりました。バジーはラスカルズの2枚のアルバムに参画してますが、特に1971年発表の「Peaceful World」はブルーアイドソウルの名盤ですね。この「To Know」は当時のラスカルズを連想させるものがあります。
そういえば山下達郎氏は「バジーが一番好きなギタリスト」と仰っていたような気がしますが、ラスカルズの作品でバジー作の「In And Out Of Love」ではシュガーベイブの「Show」と酷似するリフが登場します。

インスト曲③「Malibu」と⑤「Midnight Pass」は共にニール作。ちょっとラテンフレイバー溢れる楽曲。1972年という時代背景を考えると、これぞクロスオーバーミュージック、フュージョンの原型のような1曲に思えます。

個人的にはバジー作の⑥「Need Your Love」がいいですね。この曲はなぜかドゥービーブラザーズを連想させます。豪快なコーラスと軽快なギターワーク。同じ1972年にドゥービーは「Listen to the Music」を発表してますから、バジーは何らかの影響を受けたのかもしれません。ファンキーな部分とソウルポップな部分がうまく融合された名曲ですね。ちょっとイントロは長いですが…。

バジーとフィリップの共作である⑦「Selfish People」はかなり実験的なジャズの要素が感じられます。このアルバム、ファンクからニューソウル、ジャズまで、かなり様々な音楽が詰まった感じで、最後にこうした楽曲が来ると、困惑してしまう方もいらっしゃるのではないでしょうか。
ちなみにボーナストラックの⑧「Three Step Dance」は、デイヴ・ホーランド作のさらに実験的ジャズの色彩が強い楽曲です。私もこうした楽曲も嫌いではありませんが。

かなり高度な音楽を演奏していたフル・ムーンは、商業的には失敗したかもしれませんが、かなり多くのミュージシャンに影響を与えたようです。確かに聴き応え充分のアルバムですね。

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