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増尾好秋「Good Morning」(1979)

早いものでもう3月になりました。季節も春めいてきましたね。実は今月は海外出張もあり、気分が少し高揚しております…。

ということでこの季節にピッタリの爽やかなフュージョンをチョイス、知る人ぞ知る、日本を代表する名ギタリストの増尾好秋。あのジャズ界の巨匠、ソニー・ロリンズのバンドにも在籍していたということでも有名な方ですね。彼はチック・コリアのRTFのオーディションに合格したものの、先に決まっていたソニー・ロリンズのバンドに加入したとのこと。1973年の話です。この時代、既に彼はニューヨークに拠点を移して活動していたんですね。
その後、1976年までソニー・ロリンズのバンドに在籍し、以降はソロ活動を開始。本作はソロアルバムとしては4枚目のアルバム。増尾好秋のギタープレイのみならず、非凡なメロディセンスも感じさせる1枚です。

まずは印象的なオープニングナンバーの①「(I'm Still)Believing In Dreams」。優しいエレピの調べが美しく心地いい。少し長いプレリュードに続く増尾の奏でるメロウなギターのメロディ…、一気に春の息吹を感じさせますね。ボッサのリズムワークも素晴らしいです。実は増尾好秋のアルバム、これが初聴、かつ最初どんなミュージシャンが演奏しているのか分からずに聴いていたのですが、どうもこのベース、かなり粒が立っており気になります。エンディングのハープも美しい…。

オープニングの流れを踏襲するような目覚めのポップチューンが続きます。アルバム・タイトル・トラックの②「Good Morning」。
曲がセカンドバースに移る頃にはやはりこのベースは只者じゃない…と思い、クレジットを調べると、T.M.スティーヴンス!!
T.M.スティーヴンスって自らの音楽を「ヘヴィメタル・ファンク」と称している方だった筈。増尾の爽やかフュージョンと結びつかない(笑)。T.M.スティーヴンスは活動初期の頃は増尾好秋と活動を共にしていたんですね~。恥ずかしながら知らなかった…。そしてドラムはロビー・ゴンザレス。セカンドギターは実弟の増尾元章。キーボードはヴィクター・ブルース・ガッジー、パーカッションは増尾夫人のシャーリーという布陣。この布陣で来日もしており、その時のライブ盤も発売されております。

そのライブ盤の裏ジャケがこちら。カッコいい~、T.M.はやっぱりT.M.だ(笑)。シャーリーが隠れてしまいすみません。

本作中、一番爽やかでポップな③「Because Of You」は実弟の増尾元章の作品。春の昼下がりにまったり聴いていたい楽曲ですね。この曲、最初は爽やかなフュージョンですが、リズムが倍速になるバースでは増尾兄弟の本領が発揮されていきます。中盤以降の兄弟のギターの掛け合い、爽やかな曲の割にゴリゴリ唸っているT.M.スティーヴンスのベース…(笑)。エンディングにかけてのリズムが倍速していく中での、熱い二人のギターの熱演、ロビーのドラミング、T.M.のファンキーベース…、単に爽やかなフュージョンというわけではありません。

そういえば増尾好秋は早稲田大学のモダンジャズ研究会(ダンモ研)出身。ダンモ研といえばタモリですよね(笑)。実は増尾氏とタモリは同期で二人の間には今も交流があるようです。増尾氏が1973年にソニー・ロリンズのメンバーとして来日し、福岡で公演した際にはタモリ(当時は芸能界には入っておらず、喫茶店のマスターだった)が応援に駆け付けたとのこと。このダンモ研、一つ上の先輩にベーシストの鈴木良雄が居り、この3人が数年前に雑誌の表紙を飾り、マニアの間で話題になりましたね。こうした若かりし頃の付き合いが今も続いているっていいですね。

本作中、一番T.M.スティーヴンスが暴れている曲が⑥「Dealing With Life」。この曲はやっぱりライヴテイクを聴いてみたい。前述の「Masuo Live」からのスピーディーなバージョンをどうぞ。メンバーの熱い演奏が堪能出来ます。

エンディングは夕暮れを感じさせる落ち着いたナンバーの⑦「Little Bit More」。心地よいギターの調べとメロディ、それが増尾好秋の持ち味ですね。彼はJフュージョンの草分け的存在でもあるし、特にこの曲は日本のフュージョン・サウンドの典型的な音のような気がします。海外のフュージョン・サウンドとはちょっと違いますね。

今も現役で活動中の増尾好秋…。学生時代から渡辺貞夫のバックバンドに加わり、ワールドワイドに活躍してきた方。多くのミュージシャンが途中で挫折していく中、増尾氏は途中、プロデューサー業に追われた日々もあったようですが、常に音楽を楽しむ姿勢を貫いているように見受けられます。生き方なんかも素敵なミュージシャンですね。


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