Free「Heartbreaker」(1973)
このアルバムには名ベーシスト、アンディ・フレイザーは参加していません。
1971年にフリーは一旦解散。その後、紆余曲折を経て、同年再結成を果たし、1972年5月にアルバム「フリー・アット・ラスト」を発表します。しかしメンバー間の確執がひどく、アンディ・フレイザーとポール・コソフが脱退。再び空中分解してしまいます。
その後ポール・ロジャース、サイモン・カークは以前から交流のあった山内テツ(B)、ジョン”ラビット”バンドリック(Key)に声をかけ、そして8月には再びコソフが合流。10月より本作のレコーディング開始に漕ぎ着けます。
しかしよほどコソフの体調が悪かったのでしょう。本作では5曲でギターを弾くに留まり、再びバンドを脱退してしまいます。
これら経緯を経て、本作は発表されたのです。
フリーの演奏スタイルは、ギター、ベース、ドラムが最低限の音しか鳴らさないので隙間が多いのですが、印象的なフレージングを駆使するため、そこに独特の緊張感という間を生み出してました。特にアンディ・フレイザーのベースはその緊張感の間の要とも言えますね。
本作はそのアンディが不在。しかもキーボードが加わり、音の厚みが出ております。従来のファンからは賛否両論あるでしょう。
しかしこれもフリーの別の一面。ポール・ロジャースのブルージーなヴォーカル、サイモン・カークのヘビーなドラム、脱退はしたもののポール・コソフの泣きのフレージングも聴けます。
楽曲も優れたものが多く、個人的には名盤として挙げてもいいのではないかと思ってます。ましてや上記のような経緯を経て制作されたアルバムにしては、かなりの出来栄えだと思います。
アルバム最初の曲、①「Wishing Well」から強力なチューンですね。
シングルヒットを狙いにいったのか分かりませんが、非常にポップな曲です。しかしポール・ロジャースのソウルフルなボーカルがあまりにかっこいいので、やはりフリーの曲として聴かせます。最後の ♪ wishing well ♪ のポール絶叫はしびれますね~。
②「Come Together in the Morning」はラビットのキーボードがサウンドに彩りを添え、コソフの泣きのギターも聴けます。適度にブルージーで重く、後期フリーらしい1曲。
フリーとしては異色な曲はトラディショナルソング風③「Travellin in Style」くらいでしょうか?
ただブリティッシュ系のミュージシャンは総じてこうしたフォーキーな楽曲が大好きなんですよね。レッド・ツェッペリンにしてもフェイセズ、ロッドにしても皆、ブリティッシュ・フォークが大好きでした。
アルバム・タイトル・トラックでもある④「HeartBreaker」も誉れ高き名曲ですね。とてもブルージーで、キーボードが加わったことで、より深みのあるサウンドが楽しめます。この曲はポールの単独作品でもあります。ポールは歌も上手いですが、優れたソングライターでもありました。
ポール単独作の⑦「Easy On My Soul」も人気の高い1曲ですね。
ラビットのキーボードが印象的。音の厚みはそれほどないものの、それぞれの楽器のアレンジはなかなか凝ってますね。
この時期のフリーに参加した山内テツ、凄い日本人だと思います。直前、ミッキー・カーティス&サムライのメンバーだった山内氏は、1971年4月にたまたまポール・ロジャース、サイモン・カークと日本でジャム・セッションをする機会があり、そこで意気投合したらしいですね。
その後山内氏は、あのロッドスチュアートが在籍していたフェイセズへ華麗なる転身を果たすのです。どこに縁が転がっているか分からないものですね。
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