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Humble Pie「As Safe as Yesterday Is」(1969)

ハンブル・パイ…、スティーヴ・マリオットのバンドというイメージが強く、実際私自身、ピーター・フランプトンが抜けた後のソウルフルなハードロックの作品ばかり聴いていて、ピーター在籍時のアルバムは殆ど聴いていませんでした。今回、チェックする機会があって、デビューアルバムを聴いたのですが、これがいいんですよね。

一般的にはデビュー当時のハンブル・パイは個性を模索しているような時期…とも捉えられ、どちらかというとネガティブなイメージで語られますが、個人的には散漫というよりは、4人のメンバーの個性がバランス良く溶け合っているような印象です。少なくともこの時点ではまだピーターの居場所もありました。

そもそもよく考えたらハンブル・パイの母体はピーター・フランプトンが起点となっていたんですよね。当時、スモール・フェイセズに在籍していたスティーヴが、ザ・ハードのピーター・フランプトンを引き抜こうとしたものの、それが失敗に終わり、水面下で新バンドを結成しようとしていたピーターに、スティーヴがグレッグ・ギドリー(B)とジェリー・シャーリー(Ds)を紹介。
ところがスティーヴ自身がスモール・フェイセズのメンバーとの確執からピーターのバンドに合流。これがハンブル・パイ結成の経緯なんですよね。恐らくこの経緯がごく短期間の間に行われたんでしょうね~。
ちなみにあまり知られておりませんが、このバンドにブライアン・ジョーンズの加入が予定されていたのですが、合流するリハーサルを翌日に控えた1969年7月3日にブライアンは皆さんご存じのように亡くなってしまいます…。

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全10曲。US盤には彼等のデビュー曲「Natural Born Bugie」がフェイセズのイアン・マクレガン作「Growing Closer」と差し替えで収録されてます。このUS盤をベースとすると、スティーヴ・マリオットが6曲、ピーター・フランプトンが2曲、スティーヴとピーターの共作が1曲、カバー1曲とデビュー時点から主導権がスティーヴに向かっていることが分かります。
(ここではご紹介出来ませんが、カバー曲とはステッぺン・ウルフの「Desperation」をカバーしたもので、そのクオリティはオリジナルを凌駕する迫力あるものです)

本作で私の一番のお気に入りナンバーはスティーヴ作の⑨「A Nifty Little Number Like You」。
実にカッコいいハードロック・ナンバーです。後から出てくるギターのリフが実にカッコいい。この曲なんか聴くと、ハンブル・パイは当時のザ・フーよりも大音響のロックをやっていたんじゃないでしょうかね。この曲はエンディングに向かってかなりアグレッシブになり、ドラムだけが走りまくる展開になります。最後の3連フィルの応酬はZEPのボンゾを彷彿させます。

このバンドの特徴は3人のリードヴォーカルがいること。スティーヴ・マリオットだけじゃないんですよね。
それがよく分かる映像が④「Natural Born Bugie」。グレッグ→ピーター→そして我慢しきれずスティーブがシャウト(笑)。端正な顔立ちのジェリーは淡々とドラムを叩いてます。この曲、単純なブギーですが、このバンドの手に掛かるとカッコいい。

アルバムってだいたいがA面にいい曲を揃えていくっていうのが王道かと思いますが、この作品については、私的には圧倒的にB面に魅力を感じます。
まずはパワーポップな⑥「Bang!」。
グレッグのベースがグイグイ曲を引っ張ります。このラウドなドラムは後のラズベリーズに通じるパワーポップ系のドラムですね。「Get Back」のビリー・プレストン風なピアノはスティーヴのプレイ。

結構ビックリしたのがカントリー風な⑦「Alabama '69」。こんな曲もやっていたのか~って感じです。
ピーターはフォーキーな曲が好みだし、スティーヴはスワンプな曲が好みと思いますが、こちらはスティーヴの作品。ちょっとスワンプの香りのするカントリー。ちょっとブルースっぽいハーモニカなんかはスティーヴらしい。映像ではドラムのジェリーもアコギを弾いてますが、レコ―ディングでは彼はタブラーを叩いてます。

ピーター作の⑧「I'll Go Alone」はかなりサイケな楽曲。
イントロからシタールですよ…。この曲は前半と後半と全く違うサウンドですが、前半はシタールとフルートが織り成すサイケな世界が堪りません。この前半部分がフェードアウトしたと思ったら、2分23秒辺りからレッド・ツェッペリン風なギターが…。後半はZEPほどじゃないにしてもハードな楽曲。ピーターのヴォーカルはスティーヴほどパワーはないので、ちょっとポップなロックにも聞こえます。

このB面は⑥「Bang!」から⑧「I'll Go Alone」、そして先にご紹介した爽快なロックの⑨「A Nifty Little Number Like You」と続くのです。実に引き出しの広いバンドだと思いませんか。そしてエンディングがミディアムテンポの⑩「What You Will」。これがまたドラマティックな展開の曲なんですよね。
淡々と歌われていきますが、この前半なんかはローリング・ストーンズの楽曲を連想させます。3分をちょっと過ぎた辺りでフェードアウトして、ここで仰々しいドラムのフィルイン。そしてまた楽曲が奏でられ、最後はスティーヴのスキャットと共にフェードアウトしていきます。デビューアルバムにて、このB面の展開、なかなか凄いバンドだと思います。

ここではご紹介出来なかったアルバムタイトルの⑤「As Safe as Yesterday Is」はスティーヴとピーターの共作で、ちょっと組曲風な、これもまた素晴らしいハードロック。フォーキーな部分もあって、かなり凝ったアレンジです。機会あれば聴いてみて下さい。

このアルバムが発表された時、レッド・ツェッペリンはセカンドを発表する直前。既にファーストを発表し、センセーショナルなデビューを飾ってました。実はZEPのヴォーカルには当初、スティーヴ・マリオットが候補として挙げられていたのですが、当時のスティーヴのマネージャーの反対に合い、結局スティーヴの追っかけをやっていたロバート・プラントがそのポジションに収まります。1969年の英国のロックシーンって物凄く刺激的であり、人の繋がりもかなり重要だったんだろうなあと思います。
それにしてもスティーヴ・マリオットとロバート・プラント、その後の二人の生き様を思うと、なかなか感慨深いものがありますね。

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