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Tom Waits「Closing Time」(1973)

トム・ウェイツ。息の長いアーチストですね。個人的にはあのヴォーカルスタイルが馴染めず、彼のアルバムは永らく未聴となってましたが、今回これを機に、イーグルスの名曲「Ol' '55」のオリジナルヴァージョンが収録されているデビューアルバムを聴いてみました。

プロデュースは意外にもジェリー・イェスター。元ラヴィン・スプーンフルのメンバーで、ポップス寄りのイメージがありますね。トム自身はこのシブいアルバムを「もっとジャズ寄りにしたかった」とのこと。ジェリーのプロデュースが意外なんですが、ジェリーだからこのデビューアルバム、トムにしてはちょっとポップ(?)なのかもしれません。セカンドアルバム以降はプロデューサーはジャズ畑のボーンズ・ハウが担当してますからね。

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シブいですね~。もう1曲目の①「Ol' '55」からイーグルスのカバーが持つ商業的な香りを削ぎ落としたような、いぶし銀的な異彩を放ってます。
レココレ記事によるとトム・ウェイツはこのカバーヴァージョン、というかイーグルスを嫌っていたそう(後に和解したとあります)。そりゃ、タイプが全然違いますよね(笑)。
アップした映像を見てもらえれば、そのヴォーカルスタイルが対極にあることがよく分かると思います。

②「I Hope That I Don't Fall in Love with You」も聴きやすい1曲。歌詞はマッキーの「もう恋なんてしない」を連想させるようなもの。言い回しなんかはトム・ウェイツらしい。
フォーキーで味わいある作品です。歌詞の最後の方で、 ♪ Closing Time~♪ といったアルバムタイトルが飛び出してきます。この歌詞の世界、ジャケットのイメージぴったりです。

とてもトム・ウェイツの音の世界をうまく現している1曲、⑤「Midnight Lullaby」。ミュートの効いたトランペットや、場末のバーを思わせるピアノ・・・。のらりくらりと歌われるバラード。いいですね~、この雰囲気。フォーキーなトムは仮の姿、ジェリー・イェスターが仕掛けたもの。本来はこうしたジャージーな音が彼のやりたかったことなのでしょう。

⑥「Martha」・・・。この歌詞もまた映画のワンシーンのよう。トムのヴォーカルを聴いていると、トム自身が映画役者のように思えてきてしまいます。素晴らしいバラードです。

アップテンポなジャズ調の⑨「Ice Cream Man」。とても怪しげ雰囲気に聴こえてしまうのは、トムのだみ声ヴォーカルのせいでしょうか?
エンディングで被ってくるオルゴールの音がまた粋ですね。

このアルバムのなかで一番私が大好きなのが⑪「Grapefruit Moon」。以前単身赴任で名古屋へ戻る新幹線の車中・・・。別に悲しくないのに、この曲を聴くと妙に切なくなってきました。それくらい聴き手の感情に入り込んでくるメロディーです。
グレープフルーツムーン、満月でしょうか? 三日月でしょうか? 夜空に輝く月を見ながら、自分の人生を考えてみる・・・。今日もこの曲を聴きながら、ついついそんなことを考えてしまいます。
シンプルな演奏にシンプルな歌詞とメロディー。ここにも音楽の魔法が潜んでおりますね。名曲です。

トム・ウェイツの音楽は商業的なものとは無縁です。ですから安易に聴くべきではなく、じっくりと長く聴いていくべきでしょう。第一印象が良くないからもう聴かないとすべきアーチストではなく、もっと心の余裕のあるときにじっくりと聴いてみたいアーチスト。
私は彼のアルバムをまだ本作しか聴いてません。いろいろ調べていると、このファーストが一番聴きやすいとのこと。本作は一番聴きやすいのであれば、他はかなりいぶし銀的なんですね(笑)。

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