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Humble Pie「Humble Pie」(1970)

スティーブ・マリオットピーター・フランプトンが在籍していた時代のハンブル・パイは実に味わい深いものがあります。特に本作はそれが顕著で、そもそもサード・アルバムにして、タイトルがバンド名の「ハンブル・パイ」というのも意味深いですね。恐らくバンド・メンバー全員がそれぞれやりたい音楽を持ち込んだからだと思うのですが、それが吉と出たのか、凶と出たのかは、聴き手によって大きく意見が分かれると思います。

スティーブがブルースやソウル系、ピーターがアコースティック系を志向していたことは明らかですが、ベースのグレッグ・リドリー、ドラムのジェリー・シャーリーも彼等の作品を聴く限り、ピーター寄りの音楽が好きなのかなという感じです。
そして本作がユニークなのは、共作も含めた4人が持ち寄った曲が、ハードロック・ブルース系の曲と、フォーキーな曲と見事に交互に収録されているという点です。ハッキリ言って落差が激しい(笑)。両者の曲が好みであれば多様性ということで許容出来るし、どちらかに好みが偏れば、本作は散漫な印象を与えるでしょう(もちろん私は本作、かなり好みですが…)。

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ハンブル・パイはこの当時、それまで所属していたイミディエイトが倒産してしまい、新たにマネジャーにディー・アンソニーを迎え入れ、そのディーがA&Mと交渉し、契約に成功。そして本作がA&M移籍第一弾のアルバムとなりました。プロデューサーはグレン・ジョンズ

まずはオープニングの①「Live With Me」と2曲目の対比を聴いて驚いてください(笑)。
①「Live With Me」はハンブル・パイ(つまりメンバー全員の共作)作のブルージーなナンバー。
スティーヴのハモンド・オルガンが激シブです!フリーを思わせるようなブリティッシュ・ロック、実にカッコいい。フリーというか、後のバッド・カンパニーっぽい。とにかく淡々と同じコードを繰り返すのですが、演奏が熱いですね~。

この渋いナンバーの次がなんとほのぼのカントリーソングの②「Only a Roach」。
ドラムのジェリーの作品。リード・ヴォーカルとギターもジェリー。
いや~、この1曲目とのギャップは何だろう。あまりにもギャップ有り過ぎ(笑)。個人的にはカントリーが好きなので、このテの曲も全く抵抗ないんですがね。敢えてジェリーのこういう曲を収録したということは、民主的にアルバムを製作しようとしたということなのでしょうか。スティール・ギターはB.J.コールという方。日本のバンド、はっぴいえんどなんかもやりそうな曲ですね。

ピーターの作品はブリティッシュ・フォークな④「Earth And Water Song」。
本アルバムの日本語タイトルが「大地と海の歌」ですから、ある意味、アルバム・タイトル・トラックですね。
このフォーキーな感じはZEPのサードに収録されそうな楽曲。適度にブルージーな感じも漂わせつつ、ドラマティックにアレンジしてます。ブギーとかフォークとかカントリーとかブルースとか…、ハンブル・パイって器用なバンドでした。

多分本作中、一番ハードなZEPと近いサウンドの楽曲が⑤「I'm Ready」。ウィリー・ディクソンのカバー。
イントロからジェリーの迫力あるドラムのフィル・イン。さすがにボンゾよりは劣りますが、それでも迫力あるドラム。この時、ジェリーは若干18歳!
後にピーターが語ったところによると、プロデューサーのグレン・ジョンズが、ファーストとセカンドではハンブル・パイの良さが出ていない、ヴォーカルはスティーヴ、ギターはピーターとハッキリ分けるべき、と助言があったらしい。ここではピーターのギターが炸裂、カッコいいですね~。でも後のピーターのソロを踏まえると、やっぱりピーターがやりたかったのは、④「Earth And Water Song」のような曲だったんですね~。

こちらもメンバー4人の共作のカッコいいブギーな⑦「Red Light Mamma, Red Hot!」。
このサウンドがハンブル・パイの持ち味でしょうか。スティーヴ色の濃いブギーナンバー。このルーズな感覚はストーンズやフェイセズっぽいですが、もっとブルージーでハードな印象。こちらもめっちゃカッコいいです。

エンディングはグレッグ作のフォーキーな⑧「Sucking On The Sweet Vine」。
実はこの曲も結構好みだったりします。本作の構成はメンバー各人の作品はフォーク、バンドの共作がハードな作品、という色分けだったのかもしれません。ベースのグレッグのこの作品はちょっと洒落たフォーク、すごく叙情的で奥行きの拡がりを感じさせるナンバーですね。

ちょっと今回は曲を多く紹介しましたが、実は紹介しきれなかった2曲も決して嫌いな曲ではありません。つまり本作、捨て曲がないんですね。アルバムの統一感としてはクオリティは落ちるかもしれませんが、ハンブル・パイの奥行の深さを示す作品集としては十分楽しめるものではないかなと感じます。

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