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松田聖子 「SQUALL」 1st (1980)

あまりにも初々しい松田聖子のデビューアルバム。記念すべき、このアルバムの発売は1980年8月。なんと40年以上前の作品なんですよね。
本作が未だに名盤として語り継がれている理由は、アイドルのアルバムなのに、楽曲のテイストが洋楽フレイヴァーたっぷりであること、ミュージシャンのクレジットが示されていること(ミュージシャンもフォーカスした最初のアルバム、作曲家の小田裕一郎氏がレコード会社に交渉したらしいです)、そして何より松田聖子というまだ原石ながらも素晴らしいヴォーカリストが見事に楽曲を歌いこなしていることに収斂されるのではないかなと思ってます。
そして主人公である松田聖子以外の点で敢えて申すと本作、松原正樹のギター!ここに耳が引き寄せられてしまいます。

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このファーストアルバム、全作品、作詞:三浦徳子、作曲:小田裕一郎の楽曲で統一されてます。CBSソニーの敏腕プロデューサーの若松宗雄氏が全体のイメージを作っていたと思いますが、やっぱり洋楽志向の小田裕一郎の起用がベストな選択でした。またアレンジャーも信田かずお、大村雅朗等、フュージョン寄りの方々が素晴らしい仕事をされたわけで…。

そんな素晴らしさは、アルバムトップの①「~南太平洋~サンバの香り」を聴いただけでご理解頂けると思います。この曲のアレンジは信田かずお。サンバの香りらしく、ラテン系のイントロが心地いいですね。ドラムの広瀬徳志は後に松岡直也のバンドに在籍するドラマー。ギターは今剛、松下誠。信田かずおは1979年に松下誠とミルキーウェイってバンドを組んだところでした。バックのミュージシャンもフュージョン系の凄腕の方々を揃えたわけで、そこに従来になかった洋楽センス溢れる楽曲を歌う松田聖子…。マーケティングの勝利でしょう。

スローなバラードでスタートする③「SQUALL」はアルバム中、最も軽快なナンバー。そしてこの曲こそが、初期松田聖子を象徴するようなナンバーではないかと思います。ディストーションのかかったギター、アイドルの楽曲にしては珍しく目立つギターソロ、キーボード等洗練されたアレンジ、弾けるようなヴォーカル。ドラムは70年代から活躍しているスタジオミュージシャンの島村英二、ベースは渡辺香津美バンドで実力を発揮していた岡沢茂、ギターは当時今剛、林立夫、斉藤ノブとフュージョン・バンド、パラシュートを結成していた松原正樹。この松原さんの伸びあがるようなギターが素晴らしい。このアルバムには松原さん、③④⑥⑦⑩に参加してますが、どれもが一発で彼と分かる音色ですね。

④「トロピカル・ヒーロー」はレゲエのリズムを取り入れた楽曲。サビの ♪ トロピカル ヒーロー Yeah Yeah ♪ に続く松原氏のギターがセクシーで印象的です。

エクボの~、で有名な松田聖子のデビュー曲、⑤「裸足の季節」。そういえば松田聖子のシングルのタイトルは、プロデューサーの若松氏が先に決めていたそう。もちろんこの「裸足の季節」もタイトル先行。この曲は資生堂のエクボ洗顔フォームのCMソングでした。そしてそのCMに登場していたのは、松田聖子ではなく、山田由起子。松田聖子の容姿ではインパクトが薄い、ということだったのかと思われますが、「裸足の季節」は山田由起子が歌っているものと勘違いされたのは有名な話ですね。CMアップしておきます。

イントロのキーボードのリフやギター、ドラムのフィルイン等々、完全にTOTOとかボズ・スギャックスの影響が見受けられる⑥「ロックンロール・デイドリーム」。バックのコーラスなんかはR&B調、というか当時流行っていたAORの影響大。またこうした曲調も歌いこなす松田聖子って、やっぱり歌上手いですね。ここではアイドルの楽曲としては珍しい長尺のギターソロ、もちろん松原氏のギターソロが堪能出来ます。エンディングでも長尺ソロが堪能出来ますが、このソロに入る前の間奏部分、その直前で松田聖子は興奮のあまり(?)、「フォー!」と掛け声を上げてます。これって自然と出たアドリブなんでしょうか、デビューしたてのアイドル歌手にしては度胸も相当なものですね。

続く⑦「クールギャング」もイントロだけ聴くと、松田聖子の楽曲とは思えません。シャッフルビートのパーカッションから入るそのリズムは、まさにドゥービー・ブラザーズそのもの。スペーシーなキーボードとか、彼女のヴォーカルが入るまでは、完全に洋楽テイストですね。ここでも松原氏のギターソロが楽しめます。

⑧「青い珊瑚礁」は言わずと知れた彼女をスターダムにのし上げたセカンドシングル。実は本作収録のシングル2曲は、ギターは松原氏ではないんですよね。但しここでのミュージシャンは当時の歌謡界を支えていた重鎮。ギターはハイティーン・ブキとか少女Aでも弾いていた矢島賢、ドラムは信田かずおと交流が深く、後に高中正義のバンドに入る宮崎全弘、ベースはピンクレディーでもプレイしていた金田一昌吾。
とにかくこの曲、イントロからいきなりサビに入る最初の掴みで、完全に彼女の世界に引き込まれていきますね。当時、全くの偶然と思われますが、ブルック・シールズ主演の「青い珊瑚礁」って映画も封切られてました。この曲の何かを予感させるようなドラマティックなイントロそのものの様に、この曲が、アイドル全盛時代、80年代の幕開けとなったのでした。

エンディングはしっとりとした⑩「潮騒」。こうした大人のムードを漂わす楽曲も見事にデビューアルバムで歌いこなしてました。この曲、アップしたライブバージョンでは分かりづらいですが、サビのバックのキーボードのリフは完全にマイケル・マクドナルド…ですね(笑)。そもそもこの曲も従来の歌謡曲のアレンジとは違う、洋楽テイスト溢れるもので、じっくり聞かせてくれます。

松田聖子という荒削りながらも何かを予感させるようなフレッシュなヴォーカルと、洋楽テイスト溢れる楽曲とフュージョンタッチなアレンジと演奏、これらが見事に融合された緻密なマーケティング…、本作が80年代のアイドル歌謡史を変えたといっても過言ではありません。

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