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非ヒーローの特撮作品の可能性について | GO AHEAD -僕の描く夢- 第280回

 みなさんは、特撮ってどんなイメージですか?
 仮面ライダー、スーパー戦隊、ウルトラマン、ゴジラ、スター・ウォーズ、マーベルヒーローなどなど、人の数だけ作品のイメージは変わってくるかもしれません。
 今日、私が考えたいのは、「ヒーローのいない特撮作品は今後成立するのか?」ということです。現在日本では「特撮=変身ヒーロー」という図式が確立されていますが、過去にはヒーローのいない特撮作品も製作されました。たとえば、こんな作品たちです。

はじめに:ヒーローの登場しない作品たち

怪奇型(「ウルトラQ」「怪奇大作戦」「恐怖劇場アンバランス」など)
 日本古来の昔話や、最新の科学技術に対しての警鐘、サスペンスものなど、“怪奇”を謳った特撮作品が1960年代に多数製作されました。これに近いものとしては、「世にも奇妙な物語」を想像してもらえるとわかりやすいと思います。特捜組織や民間航空会社の隊員・社員たちを主人公に、怪獣・宇宙人・子どもなど、ありとあらゆる怪奇現象と対峙します。特に「ウルトラQ」は日本特撮のターニングポイントとなった作品で、この作品の社会現象化をきっかけに「ウルトラマン」「マグマ大使」「アゴン」といった巨大特撮が一種のブームとして多数製作されるようになりました。

国際組織型(「マイティジャック」「円谷恐竜シリーズ」「サンダーバード(英)」など)
 諜報組織や人命救助、環境保護をテーマとした作品たちです。今回挙げた作品の共通項は、「どの作品も特撮のレベルが非常に高い」ということ。近未来や過去を舞台に、力強く壮大なドラマが展開されます。しかし、やや子どもたちにとってテーマが取っつきにくいことや、絵面が地味になりやすいことから、途中で路線変更されてしまう作品も珍しくありませんでした。(その反省を活かしたのが、刑事ドラマをベースに特撮要素をプラスした「レスキューポリスシリーズ」やトミカと人命救助を組み合わせることで作品全体の希求力を高めた「トミカヒーローシリーズ」といったヒーローたちです。)

スペースオペラ型(「スターウルフ」「宇宙からのメッセージ」「スター・ウォーズ(英)」など)
 1970年代後半に「スター・ウォーズ」が日本に上陸するということで、日本でも『その波に乗り遅れまい』とスペースオペラ型の作品が集中的に製作されました。この路線は主に映画が中心で、そこに人材や最新技術も多数投入されましたが、ドラマの面で時代劇や一般作品の枠を脱しておらず、国民的な人気は得られませんでした。しかし、東通ecgシステムやモーションコントロールカメラなどの新技術は80年代の特撮作品に大きな影響を与えました。

ホームドラマ型(「がんばれ!ロボコン」「快獣ブースカ」「ぼくら野球探偵団」など)
 このホームドラマ型は、一般ドラマをベースにロボットやコメディ要素をプラスすることで、児童層が取っつきやすい作品を志しました。ヒーローを主人公とした勧善懲悪ものというよりは、話そのものの面白さや、特撮技術そのものの妙味を活かした作品が中心です。様々な作品が製作されましたが、特に「がんばれ!ロボコン」と「快獣ブースカ」は子どもたちの人気者となり、両者ともにリメイク作品や商品展開が現在でも行われるほどの根強い人気を誇っています。なお、ロボコンの路線は後に「東映不思議コメディーシリーズ」として結実しました。

スーパーロボット型(「大鉄人17」「ジャイアントロボ」「スーパーロボット マッハバロン」など)
 現在に至るまで、スーパー戦隊シリーズに欠かせない存在として巨大ロボットが挙げられますが、彼らが単体で主役を張っていたのがこのスーパーロボット型です。どちらかといえば変身ヒーロー的な側面も濃いですが、あくまでも人が乗り込む形なので、ここに含めています。アニメ作品の迫力とはまた違うロボットの魅せ方が特徴的で、特撮ならではの現実感が多くの子どもたちに夢を与えました。

巨大怪獣型(「ゴジラ」「ガメラ」「モスラ」など)
 みなさんお馴染みですよね。体長40メートルを超える巨大生物が市街地や山岳地帯に現れ、そんな彼らに人間たちがどう立ち向かうのかというドラマを描いた作品たちです。巨大メカや宇宙人、自衛隊なども登場し、映画館で観る映画として、正月に家族みんなで楽しむ映画として、瞬く間に大人気となりました。「シン・ゴジラ」の記録的ヒットも記憶に新しいところです。

アニメ+実写型(「プロレスの星 アステカイザー」「円谷恐竜シリーズ」「科学冒険隊タンサー5」など)
 こちらは番外編です。ドラマ部分や必殺技などをアニメで描き、恐竜やその他の場面を特撮で表現した意欲作が70年代後半に数作登場しました。実験性がかなり強く、ご存知ない方も多いかもしれません。模索期の70年代後半ならではのチャレンジでしたが、ストップモーションアニメやセル画との融合など、他の時代では見られない独特の映像感覚が一部のファンに現在も支持されており、「恐竜大戦争アイゼンボーグ」は数年前にショートムービーの新作が公開されました。

なぜ、「特撮=変身ヒーロー」なのか?

 最初にも書いたように、今の日本で特撮といえば、等身大ヒーローや巨大ヒーローといった「ヒーロー」が中心ですよね。ヒーロー以外の特撮を語るなら、一般映画やドラマで使用されるVFXまで手を広げなければいけません。しかし、特撮が狭義のものかといえばそうではなく、「ジュラシック・ワールド」や「レディ・プレイヤー1」「スパイダーマン」など、海外で“SF映画”と呼ばれるほとんどの作品が特撮作品だという括り方も可能でしょう。マーベルヒーローたちも、DCヒーローたちも、すべて特撮作品の仲間です。

 ただ、特撮はあくまで技術のお話なので、ヒーローに話を移しますが、日本でヒーローというと、やはり先にも述べた通り、変身ヒーローたちが主役です。メカニックの面白さを追求した「マイティジャック」は視聴率が低迷し、エドモンド・ハミルトンの原作をテレビドラマ化した「スターウルフ」も芳しい結果を得られませんでした。東映もかなりの作品数と予算を投入しましたが、現在まで定番として残っている作品はありません。

 ちなみに、私は「変身ブームがあまりにも大きな社会現象になりすぎたこと」と、「アメリカ風文化への憧れ」が未だに日本社会に根強く残っているために、単純明快な変身ヒーローが登場しないヒーロー作品たちがなかなか人気になりづらいのかなあ……という仮説を立てるのも可能ではないかと考えています。

 実際、私たちの感覚で言えば、変身ヒーローが登場しない作品は少し作品の魅力がぼやけてしまうように思えます。たとえば、サンダーバードなら「国際救助隊」のメカたちや隊員たちの救出劇が見所ですが、変身や必殺技はなく、発進シーンや自然描写が中心。そのために、子どもたちが真似できるシーンが少なく、作品全体としての魅力は決して負けませんが、人気作品の数としては限られてきます。

 要は、単体では埋もれてしまいがちなメカ描写や人間ドラマを存分に魅せるために、作品全体の「惹きつけ役」としてヒーローたちが存在するという考え方も出来るわけです。

 作品全体の明瞭さ、子どもたちへの希求性を考えるとき、いちばんわかりやすいのが変身であり、それがヒーローの“標準”となった。ヒーロー史をごく単純に捉えれば、こんな結論となりました。

まとめ:変身ヒーローのいない特撮作品を考える

 では、ここでまとめとして、これから先に登場するかもしれない、変身ヒーローのいない特撮作品を考えてみましょう。もちろん、ここの特撮作品とは、人間やその他の生き物たち、メカや事件が主人公の特撮作品です。

 ……意外と思い浮かびませんよね。長々と考えてきましたが、私も非ヒーローで新しい魅力を持った特撮作品を思い浮かべられませんでした。

 ひとつ浮かんだのは、人間や宇宙人を主人公に、ヴァーチャル世界やスペースコロニーなどを舞台に繰り広げられるSFドラマとかでしょうか。戦争映画やファンタジー映画のように、より現実と非現実が複雑に入り組んだ作品は面白そうだなあと思います。

 ただ、特撮は新技術や未来観の変化で可能性が大きく広がっていくので、今後はもっと様々な分野に分岐していくかもしれませんけどね……

 新しい作品にスポットライトが当たりがちだけど、結構な頻度でリバイバルブームがやってくるし、突然新しい分野が覇権を握ることもある。うーん、難しい。

 というわけで、特撮とヒーローのお話でした!

 2020.5.14
 坂岡 ユウ

最後までお読みいただき、ありがとうございました。 いただいたサポートは取材や創作活動に役立てていきますので、よろしくお願いいたします……!!