「大人ですから」
わたしく、年内で50歳。
いい大人です。
私の頃は、20歳で成人でした。
それが近づいたとき、父がこんなことを言ったのでした。
「誕生日の前の日の、23時59分まで子どもを楽しめ。残りの1分で、子ども楽しかったってなってくれ。日付が変わったら、嫌でも大人の仲間入りだからな」
10代も後半になると、成人前でも子どもを大人扱いする大人は多い。
バイトをしていたこともあり、大人として扱われることはしばしばあった。
けれど、父はそういう人ではなかった。
昭和20年の戦後生まれ。
中卒で働きに出て、大人扱いされるのが早かったのだろう父は、私を20歳になるまでしっかり「子ども」でいさせたかったのかもしれない。
毎年、ちゃんと祝ってもらった。
甘いものが苦手で、私自身ケーキはあまり食べなかったけれど、家族と分けるのだからとホールケーキが用意されていた。
ありがたい限りである。
父の言葉のおかげで、誕生日前日の夜はワクワクした。何度も時計を見て過ごした。
23時59分。
残り1分。
子どもの私は、私が楽しみたかったことを充分に楽しんだ気がした。
小学校、中学校でいじめを経験した。
高校はバイトで稼いで自力で卒業した。
同人にのめり込み、本をたくさん作った。
好きなアーティストのおっかけもした。
色々あったけれど、楽しいが勝った。
そして迎えた誕生日当日の0時。
大人になったんだと、何とも感慨深かった。
大人になってから潜り込んだ布団は、大人0歳の私をあたたかく迎えてくれたのだった。
あれからもうすぐ30年経つのか。
齢50歳だけれど、大人30歳です。
いや、充分大人だわ。
私は同じことを、子どもにも伝えてきた。
よく「勉強ばっかりしてないで遊んで!」という母になった。
子どもがどう思っているのか聞いたことはないけれど、私の子どもも着実に大人の道を歩いている気がします。
近々、ふたりで美味しいお酒でも飲みましょうかね。
ちなみに、お酒は子どもの方が強いのよ。
あ。親の前では子どもです。
わたくし、母の前では一生子ども。
うちの子は、私の前では一生子ども。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?