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どんぶりとゼリーと大学受験

この時期になると大学受験を思い出す。
大学が入試準備のために休校になり、カロリーメイトの泣ける感動CMが流れ始め、キットカットには受験生への応援メッセージが書かれる。

自分の大学受験を振り返り、いくつかの展開に分けるとすれば、
①受験勉強と面接練習をイヤイヤしつつも、ふわっと過ごした受験生生活
②よく寝て、よく食べ、緊張感0で挑んだ受験当日
③廊下のど真ん中で、涙を浮かべる先生とハグをした合格発表の日
と、なるだろう。
そしてハイライトは、なんといっても展開②で登場する「12:00 昼食」だ。

上で分けた3つの展開の中では、いかにも③が見せ場のように思える。
確かに、あんなにも担任の先生と抱き合うのは初めてだったし、言葉に言い表せないほどの達成感と安心感に包まれたのも事実だ。教室で眉間にしわを寄せて赤本と向き合っていたクラスメイト数人には非常に申し訳ないことをしてしまったのだけれど……。

しかし、受験シーズンになり真っ先に頭に浮かぶのは、やはり「12:00 昼食」の場面なのだ。
決して、ごちそうばかりを詰めたお弁当を持って行っていたわけではなく、1000円分のお菓子をリュックに詰めて行っていたわけでもない。
どれだけ緊張感0だと言っても、さすがに食欲が湧き上がってきそうもなかったため、私はツナマヨおにぎり1個とともに受験に挑んでいた。
周りを見渡せば、たいてい同じような感じで、おにぎりやパンを片手に持ちながらノートを真剣に見返している受験生が多かった。手っ取り早くゼリーの容器をギュッと絞りエネルギーを摂取している子もいる。
一体あのノートには何が書かれているのかと、のんきな疑問を抱きつつ私は静かすぎる空間に息を詰まらせキョロキョロと視線を動かしていた。
その時、私の斜め前に座っていたメガネをかけた女の子がピンと姿勢を正し、丼ぶりを食べていた。
どうしても何丼か気になってしまった私は、トイレに行くふりをして席を立ち真正面から見ることを試みた。
すると、それは間違いなくカツ丼だった。
すっかり固まった卵の上に、意外にもボリューミーなカツがのっかっている。
一定のスピードで、スプーンによって崩されていくご飯と卵、カツの層から目が離せない。
やはり「勝つ」とかけているのだろうか。
お茶を飲み込むことさえためらってしまう教室で、カツ丼を黙々と食べるあの子に、私は勇気づけられた。
しっかりと食事をとるということを忘れない姿勢に感銘を受け、私の一口は大きくなって、心なしかツナマヨはいつもより美味しかった。

きたる就職採用試験、私もカツ丼食べようかな。

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