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白い部屋で鍋

夕飯を食べているとき、台所へ水を汲みに立った。客観的な視点から、家族が鍋を囲む画が見えた。私自身が、自分の目で見たのだから、主観でしかありえない気もするのだが、あれは確実に自分が視点ではなかった。

ああ、家族だ、と思った。涙が込み上げてくるくらいに。ぐつぐつ煮える鍋の置かれたこたつ机を囲むあたたかな家族。失ってはならないものである気がした。机を"囲む"ことができるのはもうそんなに長くないのかもしれない。そんなことを思った。普段は、早く家から出たくてしょうがなく、家族という名前のついた関係だという理由だけで彼らをひいき目に見てしまう自分に飽き飽きしているのにも関わらず。

その画は、映画『愛のむきだし』の終盤に出てくる場面とほとんど一致する。真っ白な部屋で真っ白な服を着た家族が白いこたつに入り、ぐつぐつ煮える白い鍋をつつく。楽しそうに、あたたかそうに。そこに、その家族を洗脳したよそ者たちが紛れている。しかし、家族にしか見えないのだ。それは私の、家族に対するイメージそのもの。