10 水中花
ああ、今夜だな。そう思った。もう、どうしたらいいかは、わかっていた。
隠れたら必ず見つけられてしまうし、その後はあの子にめちゃくちゃ怒られるから、とにかくじっとしていた。ときどき掛け布団の間を覗きこまれては、大好きだよ、と額を撫でられる。
もうあんまり目が開けられない。視界は水の中にいるみたいにぼやけていて、もっとちゃんと見てからお別れしたいと思った。
布団から出て、あの子の傍に寄る。あの子は物分かりが良くて助かったけど、やっぱり顔がくしゃくしゃになった。ぶさいく。
お互いに、ちゃんとお互いの姿がはっきり見えていたかなんてわからない。
でも、最期に、あの子の手に爪を立てることができた。
そしてゆっくりと、沈んでいった。水の中で、仄青い花がひらいていくように。
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