12 坂道

第1話「01 鍵」

前話「11 からりと」


 獣医さんは、腎臓病になるのは家猫の宿命だと言いました。
 でも、病気なのだからきっと予兆があったはずで、それに気づけなかった落ち度があると思いました。それでももう、どんなに後悔しても、壊れた臓器の機能は回復しません。

 自転車の前かごにケージをのせて、坂道をとぼとぼと下っていきました。自分以外の命って、こういうことなんだな、と思いました。

 どうにもならないんです。
 どうすることもできない。

 下り坂の途中で、金木犀が咲いているのが見えました。そのときに決めたんです。

 これからは毎日、あの子に「大好き」と声に出して言おう、と。


第13話「13 うろこ雲」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?