26 対価

第1話「01 鍵」

前話「25 ステッキ」


「水はめぐるものですからね」

 あの猫に言ったのと同じ言葉を、あなたにも告げた。あなたはあの猫が言ったとおり、物分かりが良かった。

「水がめぐるように、命は廻ります。もう一度めぐり逢うために、まっしろにするのです」

 あなたは眉ひとつ動かさず、聞き入っている。

「それはまるでやわらかな雨に濡れるように、ゆっくりと咲いて、静かに散ります」

 あなたは察しも良く、小さくうなずいた。

「あなたの猫はまっしろになり、ひとしずくの鍵を置いていきました」

 あなたは仄青い水の鍵を見つめる。やがて、祈るように握りしめた。

「あなたにありがとうと云い、そして、あなたに許されるための、対価です」


第27話「27 ほろほろ」

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