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チノ。|キューバ56日ひとり旅 #9

ひとえで垂れ目の私が、この地で浮くのはたやすい。

すれ違う人、階段に腰掛ける人。外を歩いていると私の顔に、ぎょろりと大きな目玉たちから好奇のまなざしが注がれる。

ときおり、その中から「チノ!」と呼びかけられる。チノ(chino)は、日本人や中国人などの東洋人を指すスペイン語だ。

最初は、あなたたちに対して「ネグロ(黒人)!」と言っているようなもんだぞと感じ、この呼称があまり好きではなかった。あーはいはい、と右手を挙げて軽くスルーしていた。

しかしあまりにも多くの人から「チノ」と呼びかけられ、別にさげすんでいるわけではないことを認識してからは気にしなくなった。

レストランのオーダー表にも「chino」と筆記体で書かれていた。名前の分からない、この地では希少な目の小さい人を指すには「チノ」がベストなのだ。

私の目が「チノ」足らしめているのかもと疑い始めたある日、ザックの底で眠っていた偏光サングラスをかけて街に出てみた。

すると、どうだろうか。ぎょろり目玉からの視線が一気に減った。土産売りの屋台が並ぶ道を通っても、声かけられ率はぐっと下がった。してやったり、と自然に口角が上がった。日に焼け焦げた肌は確実にこの地に浸透している。

それでも、感の鋭い現地人からまれに「チノ」と声がかかる。そのときは、「おお、よく見抜いたね」と嬉しくなり、「オラ!」と笑顔で応じる。

彼・彼女らのほとんどが、通行人ではなく道端の日陰に座っている。常に通行人を眺めている観察眼はあなどれない。

さらにすごい人がいる。

「ハポン!」と呼ぶ人だ。ハポン(Japón)、つまり「日本」。

チャイニーズでも、コリアンでもなく、ハポネス(日本人)と見抜く彼らには、参りましたと降参せざるを得ない。

ちなみに現地の人たちとの会話で、ハポンが話題になるときのベスト3は……

1位 イチロー (野球話題時の必出単語。ショーヘイ・オオタニや、ソフトバンクホークスで活躍するキューバ人・デスパイネの名もときどきあがる)

2位 侍 (「七人の侍」はキューバでも有名だ。エレベーター管理人のおっちゃんに見えない刀で斬りつけられたことがあった)

3位 おしん !!

1位と2位はなんとなく予想していたが、連続テレビ小説「おしん」の名が出てきたときはさすがに驚いた。アジア各国では放送されていて知名度が高いことは知っていたが、まさかキューバでも放送されているなんて。ワールドワイド、おしん。

個室にテレビのあるカサに泊まったとき、この目で現在放送されていることを確認した。字幕ではなく、スペイン語の吹き替えだ。

人生で初めて観る「おしん」が、流暢なスペイン語を話している。違和感が半端でない。シュールなコントみたいだ……

われらチノの大先輩「おしん」はキューバで活躍しています。


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