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【読書】楽園のカンヴァス

原田さんはたくさん本を出しているが、「楽園のカンヴァス」には、彼女の情熱と才能がほとばしっている感じがする。森美術館、ニューヨーク近代美術館勤務経験があり、アートに造詣が深い彼女にとって、アートは人生そのものだろうし、本当に書きたいと思う、書かずにはおれないというテーマなのではないか。

その原田さんの情熱が乗り移ったような話に、終始ゾクゾクして引き込まれ、読後感はしばし余韻が抜けない。ずっしりと心に響く本だった。

田舎でアートとは無縁な環境で育った私としては、幼少時に美術館に行った記憶も残っていないし、大人になってから時々アートに触れるようになっても、正直それが何たるものか、まったく語ることができない。そこにある絵をどのように鑑賞するとよいのかわからず、雰囲気を感じて、感覚的に愉しむというかかわりしか持てていない。

そんな私がこの本を読んで感じたのは、当たり前だけど、絵画にはその画家の物語がつまっているということ。

芸術家の作品が世の中に認められ、日の目を見るまでには、画家には爪に火を灯すような毎日がある。

この本がテーマとするアンリ・ルソーという画家は初めて知ったけれど、美しい、まっすぐな心を持つ人として描かれている。生活を切り詰め、すべてを絵を描くことに費やし、家賃の支払いに困り、督促を受けながらも狂ったように絵に向かっていく。若きピカソはそのルソーの画風に大きな影響を受け、そして、そのピカソに価値を見出されることで、その情熱が結実して圧倒的な作品ができる。

アートに魅せられた人というのは、作品そのものをそこにある”絵”のみただ鑑賞しているだけではなく、その背景にあるストーリーを一緒に味わい楽しんでいるのだろうな。そんなことに思い至る。

以下は本の中にある一節。

「傑作というものは、すべてが相当な醜さをもって生まれてくる。この醜さは、新しいことを新しい方法で表現するために、創造者が闘った証なのだ」


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