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【読書】生きるぼくら

いじめを機に登校拒否となり、そのまま引きこもり生活をしていた主人公。両親が離婚し、母と2人の引きこもり生活の中、ついに母がある時書き置きを残して家を出ていってしまう。

一人残された主人公は、残されていた年賀状の中にあった父方の祖母をたよりに数年ぶりに外出し、山梨県蓼料に向かうーそこには認知症の祖母と、分かれた父親が再婚したときの連れ子の女の子がいた。という展開が進む。

女の子と主人公は、認知症の祖母と一緒にちょっと変わった”耕さないたんぼ”を始める。稲の自然に生育する力を生かしたお米づくり。山梨の美しい山と田園風景が浮かぶ。

実は、この本の中で紹介される”耕さないたんぼ”。友人がここ数年、千葉で取り組んでいるということを聞いていたので、その友人も含め3人で、この本の読書会をやった。友人によると、自分が実践しているやり方とは違うそうで、耕さないという方法にもいろんな手法があるとのこと。

このところ、周囲に田んぼをやっている人をよく見かけるようになったが、その喜びは人それぞれなのかもしれない。”つくること”に没頭し、無心になれるという時間が好きだとある友人は教えてくれたし、田んぼの中に様々な生き物が集い、一つの生態系をつくっている。その中に自分も溶け込むようにいることでなんだか大きな安心感、つながりを感じるという人もいる。

私は田舎で育ち、特に生き物が好きだったので、一日中、山や近所の川に出かけて虫や魚をつかまえ、家を虫かごや水槽だらけにしてずっと眺めているような子どもであった。

生き物は、非常に合理的にできていて、身体のつくり、行動にはすべて理由があるし、それぞれ特性がある。それぞれの生き物をじっと観察し、その法則のようなものを発見し、自然界がうまくできていることに感心したものだった。

生き物は単独では存在できない。自然の中をうまく利用し、利用され、その中に織り込まれて、調和の中で生きている。私はそれをなんとなく身体にしみこませ、自分もその一部であることを原体験として理解したように思う。

そのことを思い出すからなのか、この主人公が田んぼを始める中で活力を取り戻し、精神的にも健やかになっていく様子がなんだかわかる気がする。

これから田舎と、自然とどういう付き合い方をしていきたいのか、改めて振り返らせてくれる作品であった。


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