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【読書】なぜ「若手を育てる」のは今、こんなに難しいのか

”ゆるい職場”という言葉を世に生み出した、リクルートワークス研究所の古屋さんの著書。なんといっても本書の特徴は、なぜゆるい職場が生まれたのかということを考察、検証し、そこから今の若手がどのような志向・価値観をもつに至っているかを調査インタビューをもとに明快に提示した点にあると思います。

たとえば、管理職の方や経営者の方とお話をしていると、最近の若者は「残業をせず、自分の権利ばかりを主張する」「とにかく3年は我慢してやるという考えがない」「指示待ちで言われたことしかやらない」などの不満の声をお伺いします。
また、うかつなことを言うとハラスメントと捉えられるかもと思うと、気軽に声掛けや終業後の飲みに誘うのもためらってしまうという声も聞きます。

以前と比べると上司が若手に関わることに及び腰になる。しっかり指導したりフィードバックする関係性が失われてしまった、それが”ゆるい職場”を生んでしまっているということです。

こうした職場が増えた背景を本書では、近年の法改正によって、物理的に会社員の労働時間が減ったことを指摘しています。


・若者雇用促進法(2015年):採用活動の際に自社の残業時間平均や有給休暇 
 取得率、早期離職率を公表することが義務付けられる
・働き方改革関連法(2019年):労働時間の上限規制が設けられる
・パワハラ防止法(2020年):パワハラ防止の措置が義務付けられる

近年続いたこうした法改正により、たとえば2015年と2022年の大手企業の比較調査によると、大卒以上若手社員の週の残業時間が半分に減少。有給休暇取得率も大きく伸びたという変化が起きているとのことです。

これはつまり、今の職場でのコミュニケーション機会が、物理的に少なくなったことを意味します。以前は、たくさんの業務をこなす中で仕事の意味や進め方のコツを学んでいく。あるいは上司の背中をみながら薫陶を受けていく。こうした人材育成ができなくなっていることを意味します。

私自身、以前いたリクルートでは「量質転換」という言葉があり、とにかく経験が浅い人は、電話を100件かけて、一日5件訪問するという行動量を増やして経験から学び、成長スピードを上げていくという方法がとられていましたが、その自らの経験をもとに若手を指導しようとしても、それを環境が許さなくなっています。

加えて、リンダ・グラットンの「ライフシフト」にて紹介されている、キャリア構築がマルチステージ型へと変化していることに触れ、今は数年単位でキャリア選択が迫られる社会になったことが若者の価値観に影響を与えていると指摘しています。

つまり、誰もが同じ会社で直線的なキャリアを歩むのではなく、結婚、出産育児、学び直しなどのライフステージの変化に際して、キャリアを断絶させることなく、働き方をシフトさせながら対応するようになっていることが、ゆっくりと会社にキャリアを委ねていることをリスクに感じさせているというのです。

これはとても鋭い指摘だと思います。自分が変化を迫られた時に、市場価値のある専門性、経験を有していなければ労働市場で自分の立場が弱くなってしまう。だから自分が成長できる環境にあるかに敏感であり、無用な下積みや回り道を嫌がるというのです。

以上から、本書の提案を、私の言葉にて解釈しなおすと、人材育成において、以下2点が必要になると感じました。

1.長期スパンでじっくり育成することや、回り道と思える異動は若手に受け入れてもらえない。質的によい成長機会が得られているという実感を持たせ続けるような人事体制、マネジメント体制をつくる

2.変化する社会にあわせ自律的にキャリアを考えている若者に対して、上司である管理職自身も自律しなければならない。多様なキャリアについて理解を深め、率先して自らも変化し続けている必要がある。そうでないと若手と向き合って信頼関係をつくっていくことが難しい

具体的な打ち手のヒントも豊富にあるので、本書をぜひ手にとってみてもらえたらと思います。若手育成の手立てを考えるための指針が得られる素晴らしい良書だと思います。

私たちは、どうしても自分自身の成功体験に照らして、もっとこうしたらいいのに、、、と目の前の若手をみてしまうものです。自分自身のものの見方が自分が育った時代背景に依拠するものであったことを自覚し、マネジメントをアップデートできるかどうか。自らに問われていることを感じさせられる本でした。

ぜひ手に取ってみてください。

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