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経済物理学の概要について

ここでは、経済物理学の概要を説明します。

経済市場の原理について

(1)正規分布とべき分布

既存の経済学は平均値が最多になる正規分布を採用しています。しかし、実際は、企業の売上高や個人の所得分布などの経済現象は典型的な大きさが存在しないべき分布に従っています。

ここで、正規分布とは釣り鐘型の分布であり、ベキ分布とは右肩下がりの分布を言います。

具体的に、以下の2つの分布を見てみます

人々の分布は、身長で見れば平均を中心にまとまっていますが、富の分配で見ると、一部の突出した持つ者と、大多数の少ししか持たない者に分かれます。

一般に平均的に考えられる時は正規分布ですが、桁違いの大きさが混在するときはそのような考え方ができないので、べき分布を使います。本やCDの売り上げや所得と言った経済市場ではべき分布であることが多いと言われます。

ではべき分布であることで意味することは何でしょうか?キーワードはフラクタル性を持つことです。どういうことでしょうか。

岩石に衝撃を与えて砕けさせますと、その破片の大きさの分布はべき分布を示すと言われています。大きな破片が数個で、中小の破片が無数にあります。

図は、高安 秀樹「経済物理学(エコノフィジックス)の発見 (光文社新書)」より引用

この分布を顕微鏡で見ても同じような分布が観測されます。つまり。大きく見えても小さく見えても同じように見えるというフラクタル性を持つということです。

ここで面白いことは、大きな破片を集めただけで、大体のもとも大きさが推定できるという事実です。つまり、べき分布に従う現象を語る時に最も重要な意味を持つものは、数としてはわずかな大きな破片ということになります。その時に分析するときは、平均や標準偏差で考えるアプローチとは別な方法が必要になります。

(2)経済市場の動き

経済市場はブラウン運動と酷似した動きになっているとされています。ブラウン運動とは、液体のような溶媒中に浮遊する微粒子(例:コロイド)が、不規則(ランダム)に運動する現象であります。この運動を一般化したものはランダムウォークと言われ、次に現れる位置が確率的に無作為(ランダム)に決定される運動であります。その理論を使うとべき分布に従う経済市場を説明できるとされています。

市場の予測について

東日本大震災のような大地震が発生するには、地殻に巨大な歪みのエネルギーが蓄積される必要があり、そのエネルギーが解放される時は、まず予兆が見られ、その後一気に解放されることが多いとされています。

その予兆が地震雲であったり、動物の異常行動だったりします。その予兆を分析しますと、今後の地震予知ができるようになると期待できます。経済市場の場合も同じようなことが考えられます。市場の大変動が起きる時、巨大なエネルギーみたいなものが蓄積されていると考えることができます。

このようなことから、例えばこれまで上がり続けていた市場に対して、懸念する動きが出て、その後暴落というシナリオが考えられます。逆に言えば、ある経済市場が長期にわたって下落している時、今後大暴騰する予兆がどこかに現れているのかもしれません。経済市場や地震のエネルギー分布もまたべき分布になるとされ、ランダムウォークを使った理論で分析されています。

市場が持つ性質

経済物理学の研究のよると、市場は自動的に臨界状態になる仕組みを内在したようなシステムがあると言われています。臨界という言葉は原子力発電から来ており、核分裂が爆発的に進行し始める時とそうでない時の境目を言います。そのシステム自体の性質として、臨界状態を保つ仕組みを内在した現状を自己組織臨界状態と言います。べき分布の性質もこの性質を持つとされています。

需要超過と供給超過している状態の境目に自由に取引ができる市場があるとみなす、つまり自己組織臨界状態とると、バブルや暴落は市場取引が活発なときに生じます。その境目から外れると、インフレが起きるとされます。つまり、核爆発が起きたようです。

お金(法定通貨)は、国の信用の大きさを数値にしたものです。しかし、インフレが起きると、その信用は落ちますので、国家機能が麻痺することを意味します。

日本経済の実情

経済物理学による研究によると、日本経済は1972年のオイルショック以降、経済成長をしていないと言われています。経済成長をするということは、市場全体の時価総額が大きくなっていることを示すが、実際はそうなっていないので、どこかの企業が大きくなる分、他の企業の取り分が減るということを示しています。

一方、アメリカやイギリスは市場が大きくなってきていることから発展途上にあるとされ、今後さらに大きな企業が現れることが予想されます。つまり、日本に比べると将来性があると言えるのです。

そのような中で、個人の所得もまたべき分布になっており、稼げる人が圧倒的に少なく、その他は低収入であると言えるのです。ということは、高収入の人が低収入の人を助ける社会システムの構築が必要だろうということがわかります。

参考文献

高安 秀樹「経済物理学(エコノフィジックス)の発見 (光文社新書)」光文社 (2004/9/20)
週刊エコノミスト編集部「経済は物理でわかる 週刊エコノミストebooks 」毎日新聞出版 (2016/9/16)


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