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ナボコフ全短編「言葉」を読みました。解像度が細かい文章。

ただならぬほど山がちな国だった。見るまでもなく、モザイク状になった巨大な崖の岩肌、つき出た岩角、その光沢や、目もくらむばかりの絶壁、自分の背後、下方のいずこかにある湖畔の鏡のような水面を感じ取った。

「ナボコフ全短編」ウラジミール・ナボコフ著 作品社 P20

冒頭の文章です。山に対してのこの細かい描写。直接的な事実の描写から、自然から受けた刺激をともなう描写、そして比喩表現を用い感情に則した描写。この短編が、このような解像度が細かい描写で描かれるであろうことを冒頭で示している。
読むのが大変である。描写の細かさを追うのも大変なら、語り手となる人物の目的が見えない(望郷の念を持っていることは早い段階で示されているが)ので、どういう方向に行くのか予想して読みないのである。
絵を鑑賞するように、細かくなめるように堪能しなければならないのだろう。その細かい描写を想像し、文章から想像された構図を組み立て、絵でいう視線誘導を文章から読み取らなければならないのだならないのだろう。

細かい描写は続き、加えて天使や宙に獣たちが現れ幻想的な様相を帯びていく。ますます想像することに体力を要するようになる。ただ、天使という中心的存在が出てきたので、その天使と語り手の関係性を主軸に読み進められるようにもなる。

その国こそ私の国なのですが、重苦しい闇に覆われて、死にかけているのです、と。

「ナボコフ全短編」ウラジミール・ナボコフ著 作品社 P21

語り手はその訴えを天使に行い、残照(比喩的な表現。希望とかの意味だろう)を故郷に持ち帰りたいと願うが、天使たちはさってしまう。

ただひとり残った天使に想いを伝えたいと思うが、大事なことは伝えられない。しかし、天使から救いの言葉をもらうことはできた(その言葉は文章にはない)のだが、結局全て忘れてしまったようだ。
最後の行に「冬の黎明に窓は緑色に染まり、(中略)」とある、路傍に立っていたはずの語り手が室内にいることがわかる。今まで語られてきたことは夢なのだ、とわかってしまう。

描写の中にある動きと、語り手の感情の変化の2重奏が語りの厚みを増している。天使への叫びで最高潮に達した語り手の感情を、最後の行で全てが夢であることを判明させ、その叫びを忘れてしまった語り手の描写で深く落下させる。冒頭の細かい描写にあった山から落ちるように。コントロールして書いているのだろう。

この短編が物語として面白いかと言われるとわかりませんが、こうやって読み解くのは面白いですね。
たとえ夢であっても天使から得られた故郷へ救いをもたらすほんの少しの希望。それが最後に無惨にも崩れ、再び現実を直視しなければならないことを示します。主題は「生への希望のなさ」でしょうか。希望を最初に見せ(一人残して天使は去っていくし、得られた希望も僅かな小さなものでしたが)ることで、より最後の行から「生への希望のなさ」を感じられます。
物語として見れば暗さが目立ちますが、それと対比をなすように描写は明るく美しい。主題は「生への希望のなさ」と私は書いてますが、それよりも物語と描写の対比を描くことこそ主題だったのかもしれません。

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