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ナボコフ全短編「ロシア語、話します」を読みました。男の感情が変わる瞬間。

いままで読んできた話とは違って幻想的な描写はなかったです。描写は細かく特徴的なところはありますが、よみやすい文体ではありました。
マルチン・マルチヌィチという煙草屋の男について、その男の息子(ペーチャ)の友達? である「ぼく」からの視点で語られる物語となっている。
なので「ぼく」の声と、語られるマルチンの声をおもに読み取っていけばいいのかなと思ったが、「ぼく」はほぼマルチンについて説明するだけで、ぼくの声がマルチンと対立することはない。マルチンの声が分裂するところがこの物語テーマなのかもしれない。

しかも、昨年来、ぼくたちの間には共通の思い出以上のものができていた。マルチンには秘密があり、ぼくもその秘密に与っていたのだ。
「ナボコフ全短編」ウラジミール・ナボコフ著 作品社 P24

この「秘密」が物語の主題であり、読者を引っ張るような要素であった。

秘密というのは、じつに並外れたものなのだ。いまでも覚えているのだが、ぼくはあるとき、パリに行く用があって、その前日、夕方までマルチンのところにいた。
「ナボコフ全短編」ウラジミール・ナボコフ著 作品社 P25

秘密にたいてしてはけっこう強調しているのでわかりやすく読者をひっぱろうとしていると思うのだが、「ぼくはあるとき、パリに行く用があって、その前日、夕方までマルチンのところにいた」この台詞のあと、ぼくの語りが時間軸が過去(ぼくがパリに行く前日)になっていることに気付かなかった読み終わった後、感想書くためにもう一度読んだら気づいた。冒頭の「ぼく」は秘密を知っていて、パリに行く前日のぼくは「秘密」を知らない。パリから戻ってきてから秘密を教えてもらうことが、あとでわかる。
そこらへんの時間軸の説明を、たぶんわざとだと思うけれど省いている。マルチンの煙草屋がどこにあるかもわからない。ロシアにあると思っていたら、この話はベルリンでのことらしい(マルチンたちは亡命して来たのかな?)。こういう説明が少ないところが、幻想的というか、あとで読み返すことを求める文体ではある。

物語は、ペーチャが役人に恨みをもったことが語れる。
パリから戻ってきたぼくは、マルチンの煙草屋が少し変わったことを確認する。マルチンと話すと「パリの監獄や刑務所」についてばかり話す。
何か、変化したことが感じられますね。まだ理由がわからないので、続きを読みたくなる。
そしてマルチンの「告白」。
ショーウィンドーの看板(「ロシア語、話せます」)があるにもかかわらず、ドイツ語で話しかけてきたロシア人(マルチンは発音でわかったらしい)が煙草屋に来た。その男はペーチャが恨みを持った男で、ペーチャはその男を見るなり、殴り倒してしまう(男はGPUだったようだ)。
その男をどうするか考えた結果、独房(と称する、使ってないバスルーム)に置き、終身禁固刑にする。マルチンとペーチャが勝手に裁判するのだ。
そいうことをマルチンが台詞で語るわけである。

その瞬間、われわれの新生活の始まりだったね。私はもはや単なるマルチン・マルチヌィチではなく、看守長のマルチン・マルチヌィチだ。
「ナボコフ全短編」ウラジミール・ナボコフ著 作品社 P31

台詞はあとから考えたらずっと狂気を感じるものだったが、上記の文らへんからマルチンが饒舌になったように感じた。マルチンという男のなかのいままで見せていた面と違う面がでてきたように感じたのだ。二面性を「声」の変化で表現している。ここが物語のクライマックスだろう。この変化でいろいろとマルチンの狂気が察せられ、読者であるわたしは恐怖を感じた。

よく考えたらこんなことを聞かされて、その出来事を「同情、恐怖、悪意、蔑み」などの感情を交えず語る「ぼく」にも恐怖を感じるな。これも声なき声(語らないことで、感じさせる声)なのか?
当時亡命して来たロシア人にとって、GPUの人間には「同情」すら感じないということなのだろうか?

捕まった囚人のことなどを語り、最後にマルチンがぼくに囚人を見せて終わる。ぼくは「滑稽なだけで、何と答えるべきかわからなかった」とある。「滑稽」と思うだけで終わりである。

「逃げ出すなんて、まず無理だな」と彼は言い、それから物思いにふけったように、こう付け加えた。「でも、どうなんだろうね、この先いったい何年、やっこさんはあそこで過ごすことになるんだろうか……」
「ナボコフ全短編」ウラジミール・ナボコフ著 作品社 P34

というマルチンの台詞で終わる。
自分で行っといて変な疑問をもつものである。作中でも「自分が死んだら、息子がお前を見る」とも言っているのに。
マルチンは自分でも、不可解な行動だと思っているかもしれない。亡命して来たロシア人にとって、GPUの人間に対しては、このような不可解な行動をとってしまうのかもしれない。
人間が一見よく意味が分からない行動をとってしまうことを表現するためにこの物語を書いたのかもしれない。
といっても、こんな出来事、想像することは大変だから、実際にあったことなのかもしれませんね。そこから「人間の不可解さ」を伝えるために、物語にした。そんな抽象的なことを表現したかったのでなく、具体的に「GPU」の人に対する、当時の亡命したロシア人の感情が「テーマ」なのかもしれない。
ささいな恨みで、物事が最悪な方向に転がることもあるということが「テーマ」なのかもしれない。
テーマというか物語を展開させるための素材かな。作者が一番書きたかったのは、マルチンの変化だろうし。

人間の魂はデパートのようなもので、二つの目は対になったショーウィンドーだ。マルチンの目から判断すると、暖かい茶色が流行っているようだった。その目から判断すれば、彼の魂の中にある商品は最高級のものだった。
「ナボコフ全短編」ウラジミール・ナボコフ著 作品社 P25

この作中、上記の文はよくわからなかった。


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