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リスク心理学から考える福島原発事故

先日,東大の授業で世間が考える放射線のリスクと実際のリスクにかなり差があるということを扱い,印象に残ったので内容をまとめてみます.難しい話は出てこないので,気軽に読んでください.

多くの人が原発事故と聞いて恐れるのは放射線被ばくによってガンになるリスクが高まることでしょう.しかし,結論から言うと,実際には放射線を浴びてもガンになるリスクはほとんど高まりません.

そもそもガンになる要因として,放射線被ばく以外にも,遺伝や生活習慣など様々なものがあります(下図).

そして,それらの要因とガンになるリスクをまとめた表を載せます.

通常,放射線作業者の被曝線量は多く見積もって5年で100mSv(ミリシーベルト),事故が起こった際の福島第一原発作業員の場合でも250mSvです(出典:ICRP Pub.60 他).上の表を見ると,250mSv程度の放射線被ばくによってガンになるリスクはその他の生活習慣要因とほぼ同程度だということが分かります.喫煙,飲酒に至っては500mSv放射線を受けた場合よりもガンになるリスクが高いようです

続いて,ガンによる死亡率を見てみます.下の図によると,日本人の30%はガンによって死亡します.それが放射線をかなり多めに見積もって200mSv浴びたとしても31%になるだけです.

このように放射能被曝によってガンになるリスクは多く見積もってもたかだか1%増加するだけなのに,なぜ世間では過剰に恐れられているのでしょうか.

それは人がリスク認知するときに,上で述べたような単なる確率論ではなく,心理的要因が影響するからだと考えられます.心理的要因を考える際に下記のモデルが参考になります.

リスク認知の2因子モデル
1.恐ろしさ因子
2.未知性因子
これらの2つの因子が大きい(恐怖感があったり,知らないことがあったりする)と人々は実際のリスクより過剰に恐れることになります.

恐ろしさ因子に関して,人々が感じる恐怖感にはマスコミ報道のバイアスが大きく影響しています.バイアスとは報道されやすいニュースと報道されにくいニュースがあるということです.

報道されやすい:殺人,溺死,火災,竜巻など視聴率をとりやすいセンセーショナルな内容
報道されにくい:疾病,凍死,自殺など

原発事故の際にもマスコミが過剰に人々の恐怖感をあおっていました.当時,私は中学生でしたが,上で述べたような放射線被ばくでがんになるリスクなどをテレビで見た覚えはありません.ただ,毎日のように繰り返される報道を見て,少なからず放射線被害の怖さを感じていました.リスク認知は実際の頻度より報道の頻度の影響を強く受けると言えます.

原発事故以外の例を挙げると,O157,狂牛病はメディアで大きく取り扱われていましたが,年間死亡者数は0~100人と少ないです.対して,交通事故,大気汚染,自殺,喫煙はメディアでの取り扱いは大きくありませんが,年間死亡者数は5000人~20万人とかなり多いです.

このようなリスク認知の性質やマスコミの性質を知ったうえで,無暗に恐れるのではなく,正しく理解することができれば風評被害等も減っていくのではないでしょうか.
本記事の内容はできるだけ多くの方に知っていただきたいです.



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