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アジア版YC - Sequoia Capital IndiaのSurge第一期スタートアップまとめ(後編)

こんにちは、ジェネシア・ベンチャーズの河野(@yutodx)です。

今回はSequoia Capital Indiaのインド・東南アジア向けアクセラレータープログラムSurge第一期スタートアップまとめ(後編)です。前編はこちら

Surgeは$1-2Mのシード投資と、米国、中国、インド、東南アジアのSequoia Capital投資先スタートアップの起業家がメンターを務めるワークショップで構成された16週間のアクセラレータープログラムです。第一期では1,500社以上の応募から、16社が選出されています。

ジェネシア・ベンチャーズの東南アジア支援先からは、インドネシアのデジタル保険QoalaとIoTカプセルホテルBobobox、ベトナムの医薬品購買プラットフォームBuyMed(Thuocsi)の3社がSurgeに参加しています。

Qoala - デジタル保険

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サービスローンチ:September 2018
合計調達額:$16.5M
地域:インドネシア
投資家:Centauri Fund, Centauri Fund, Genesia Ventures
事業概要:デジタル保険ソリューション
※ジェネシア・ベンチャーズ投資先

Qoalaはインドネシアを中心に東南アジアでデジタル保険ソリューションを提供しています。

インドネシアの保険業界では高額な生命保険、損害保険などの保険商品が中心となっており、GDP対比の保険浸透率は3%以下と非常に低いです。一方でインドネシアでは若年層のミドルクラスが急増しており、2018-2030年の保険市場は年間8-9%で成長すると予測されています。

QoalaはB2B2Cモデルを採用しており、JD.ID、Shopee、Tokopediaなどの大手ECサイトやPegipegi、RedbusなどのOTAといったプラットフォームと提携しています。

そしてAXA Mandiri、Tokio Marine、Great Easternなどの大手保険会社と提携して、ECであれば返品保険やスマホ保険、OTAであれば航空便遅延保険をプラットフォームを通じて販売しています。月間保険販売数は、2019年3月の7,000件から2020年3月には200万件へと大きく成長しています。

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Qoalaの強みは保険商品開発力と請求手続きを効率化するAIやデータ分析テクノロジーです。まずはプラットフォーマーと保険会社と連携して、これまで保険を購入してこなかったユーザーに少額で利便性の高いマイクロ保険を販売し、ユーザーとのタッチポイントを広げた上で、医療保険や自動車保険などの本丸へと商品ラインナップを広げていきます。

今後は東南アジア諸国への事業展開とオフライン保険ブローカーのDXを促すサービスを提供していきます。

Khatabook - 中小店舗向け帳簿アプリ

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サービスローンチ:October 2018
合計調達額:$173M
地域:インド
投資家:RTP Global, Tencent, B Capital, GGV, DST
事業概要:中小店舗向け帳簿アプリ

Khatabookはインドの中小規模の店舗向け帳簿アプリです。

インドの中小店舗では常連客になれば付けが利き、後払いが可能です(僕もインドに住んでいた頃に後払いにしてもらった経験があります)。また、店舗オーナーがサプライヤーへの支払いを後払いにしてもらうこともあります。店舗オーナーは後払いを紙の帳簿(Khata)で管理するのが一般的でしたが、記入や計算に多くの時間かかってしまったり、記入ミスや回収漏れによる損失が発生してしまうという課題がありました。

Khatabookは後払い管理やリマインダー送付などの機能を持つ帳簿アプリで紙の帳簿をリプレイスしています。2018年10月に正式にサービスローンチしてから、たった1.5年でアプリDL数1,000万、DAU91万人と急成長しており、Sequoia India、B Capital、DST Global、Tencentなどから$87Mを調達して推定時価総額は$275-300Mです。

ただ、アプリを見てもらうとわかるのですが、非常にシンプルなUIで特段技術的なイノベーションはないように見えます。ではなぜKhatabookの急成長が可能になったのかというと大きく2つの理由がありそうです。

1つ目は、地方インターネットユーザーの急増とローカル言語対応です。2016年に事業運営を開始し、後発ながらインド最大の通信会社となったReliance Jioの影響によりインドの通信業界の競争が激化し、通信料金が大幅に低下したことで、地方インターネットユーザーが急増しました。Khatabookは11のローカル言語に対応し、年々増加する地方インターネットユーザーを取り込んでいます。

2つ目は、バイラル性です。Khatabookは一見するとバイラル性を持っていないようにも見えるのですが、食料品店やアパレル店、ジュエリー店やトラベルエージェントなど対象店舗が幅広いことから地域コミュニティで口コミが発生しやすく、リマインダーメッセージ経由でユーザーにKhatabookを認知させることができ、メルカリのように買い手が売り手に転換することでバイラル性が発生しています。

実は初期のKhatabookは個人のエンジニアが小売店を運営する父親のために作ったアプリであり、スタートアップではありませんでした。創業者のRavish Naresh氏はインドの不動産ポータルHousingの創業メンバーで、2社目の起業でSNSのInbox管理アプリを提供していましたが、サービスが想定通りに成長せずピボットを検討していました。その頃に個人アプリのKhatabookを発見し、個人エンジニアの方を口説いて入社してもらい、Khatabookをメインプロダクトとしました。

個人エンジニアの方が父親の課題を解決するために作ったプロダクトに対して、シリアルアントレプレナーがスタートアップとしてのグロースやマネタイズ方法を実装したパターンです。これに近いことは、インドの海産物や食肉のオンライン販売スタートアップFreshtoHomeでも起こっています。既存産業にテクノロジーを導入してDXを促すスタートアップの場合、テクノロジーやスタートアップとしてのグロースに強みを持つ起業家と業界のエキスパートのタッグが必要になりますが、既に存在するサービスを探して、その運営者とチームを組むというアプローチは検討しても良いかもしれません。

Khatabookは今後請求書発行や在庫管理などのサービスラインナップを拡充していきます。現在は無料でサービス提供していますが、店舗向け融資サービスなどによりマネタイズしていく方針のようです。競合としてはOkCredit、BharatPe、PhonePe、Paytmなどが挙げられます。

ShopUp - ソーシャルセラー向けSaaS+融資

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サービスローンチ:February 2017
合計調達額:$4.9M
地域:バングラデシュ
投資家:Bill & Melinda Gates Foundation, Flourish Ventures, Omidyar Network
事業概要:ソーシャルセラー向けSaaS+融資プラットフォーム

Shopupはバングラデシュのソーシャルセラー向けSaaS+融資プラットフォームです。

バングラデシュでは多くの個人事業主がソーシャルセラーとしてFacebook上で商品の販売を行っています。

Shopupはパートナーシップも活用しながら、ソーシャルセラー向けにECサイト作成、在庫管理、配送管理、仕入れ、マーケティング、そして融資サービスまで提供しており、2018年11月時点で2.8万人が利用しています。

マネタイズ先として大きいのは融資サービスです。マイクロファイナンスなどを手がける大手NGOのBRACと提携して、金融アクセスのない個人事業主に融資サービスを提供しています。

Shopupの投資家には、ビル&メリンダ・ゲイツ財団やebay創業者Pierre Omidyarの慈善投資会社Omidyar Networkが名を連ねています。

Skillmatics - D2C知育ゲーム

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サービスローンチ:July 2017
合計調達額:$2M
地域:インド
投資家:*Surgeのみ
事業概要:D2C知育ゲーム

Skillmaticsは北米を中心に15ヶ国で知育ゲームを販売しています。ここでいう知育ゲームとはWebサイトやアプリではなく、オフラインの知育ゲームです。

近年スマホの普及により、子供も小さい頃からスマホやタブレットに触れながら育つようになりました。一方で、スマホやタブレットでYoutubeやゲームばかりをしてしまうことに心配を覚える親も多いです。Skillmaticsはそうした親向けにオフラインの知育ゲームを販売しています。

Skillmaticsのプロダクトの販売チャネルは自社Webサイト、AmazonなどのECプラットフォーム、オフラインの玩具屋で、Amazonでは販売開始後たった6ヶ月間で教育ゲームのトップとなりました。

知育ゲームの場合、特許やブランド、コストメリットなどのMoatは築くことができるかもしれないですが、オンラインビジネスのようにネットワーク効果を持つことやデータの蓄積は難しいというのが定説です。Skillmaticsがそれをどう覆していくのか楽しみです。

Telio - 小売店向けB2Bコマース

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サービスローンチ:November 2018
合計調達額:$26.5M
地域:ベトナム
投資家:Tiger Global Management, GGV Capital, RTP Global
事業概要:零細小売店向けB2Bコマースプラットフォーム

Telioはベトナムの零細小売店向けB2Bコマースプラットフォームを運営しています。

インドや東南アジアなど多くの途上国で共通するのが、日用消費財の販売における零細小売店のシェアの高さです。ベトナムでは、日用消費財の流通のうち都市部で60%、地方部で90%を零細小売店が占めています。

サプライチェーンが十分に発達していないベトナムでは、零細小売店とメーカー/卸売会社の間に多数の仲介業者が存在しており、商品の価格や質が不透明、複数の仲介業者への発注が煩雑、配送までに時間がかかるなどの問題があります。

Telioは零細小売店とメーカー/卸売会社を繋ぐB2Bコマースサイトと自社物流網による翌日配送サービスで上記の課題を解決しています。

店舗数が増えて流通総額が増加すると、メーカー/卸売業者からの仕入れ値が低下するというネットワーク効果と規模の経済が効く事業モデルです。

B2Bマーケットプレイスというビジネスモデルは中国やインド、東南アジアでは様々な業界に適用されており、私たちの支援先でもベトナムの飲食店向けB2BマーケットプレイスKAMEREOやベトナムの病院・薬局向け医薬品マーケットプレイスBuyMed(Thuocsi)が各業界課題の解決に取り組んでいます。物流網を自社で整備するかどうか、顧客獲得をバイヤーとサプライヤーのどちらから進めていくかなど戦略のパターンは様々あるので、その辺りまた記事化できればと思っています。

Telioは今後小売店向けの融資サービスやメーカー向けのマーケティングサービスを提供していくと思われます。

Uiza - 動画・ライブストリーミングAPI

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サービスローンチ:July 2018
合計調達額:$1.5M
地域:ベトナム
投資家:ESP Capital, Sun*
事業概要:動画・ライブストリーミングAPI

UizaはライブコマースECサイトやオンライン教育サービス、e-Sportsストリーミングサービスなどを運営する企業向けに動画・ライブストリーミングAPIを提供しています。最も有名なクライアントはLINE Vietnamです。

東南アジアやインドではWi-Fiの普及や通信料金の低下などにより、ビジネスへの動画やライブストリーミング活用は急増しており、Uizaはその変化を捉えています。投資家には、ベトナムを中心に4ヶ国6都市で1,500名以上のエンジニアを抱えるデジタル・クリエイティブスタジオSun*(サン アスタリスク)も名を連ねています。

競合はGoogle Anvato、AWS Elemental、Brightcove、Kalturaなどが挙げられますが、1. 低価格でシンプルなソリューション、2. ローカルスケーラビリティ、3. 対象顧客がスタートアップや大手IT企業のエンジニア、であることにより差別化を図っていくようです。

Vybes - インフルエンサーコマース

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サービスローンチ:January 2019
合計調達額:$2.5M
地域:シンガポール
投資家:DSG Consumer Partners
事業概要:インフルエンサーコマースプラットフォーム

Vybesはインフルエンサーの商品販売をサポートするインフルエンサーコマースプラットフォームです。Webサイトを見たところ、本社はシンガポールですが、対象マーケットはインドネシアのようです。

ドロップシッピングモデルを採用しており、商品リストとインフルエンサーデータベースから適切な商品とインフルエンサーをマッチングし、各インフルエンサー向けにECサイトを作成しています。

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ブランドは適切なインフルエンサー選定による商品販売と配送をVybesに任せることができ、インフルエンサーは商品の販売額に応じたコミッション(10%+ボーナス)を得ることができます。

将来的には、インフルエンサーの独自ブランド作りをサポートしていく方針のようです。

Zenyum - 3Dプリント歯列矯正

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サービスローンチ:October 2018
合計調達額:$15.1M
地域:シンガポール
投資家:RTP Global, FEBE Ventures, TNB AURA
事業概要:3Dプリント歯列矯正

Zenyumはシンガポール、マレーシア、香港、タイ、インドネシア、ベトナム、台湾で3Dプリント歯列矯正サービスを提供しています。

シンガポールで歯科矯正をしようとすると、透明のマウスピース型で有名なインビザライン矯正はSGD6,000-10,000(約45-76万円)、ワイヤを使った歯列矯正でもSGD3,500-6,000(26-45万円)ほどするようです。

一方、Zenyumは3Dプリント歯列矯正サービスを2,400シンガポールドル(約18万円)で提供しています。こちらの動画にもありますが、Zenyumのカスタマージャーニーは下記の通りです。

1. ユーザーは申請フォームを入力し、歯並びの写真を複数枚アップロードします。承認されたらZenyumパートナー歯科医に訪問し、レントゲン撮影と3Dスキャンをします。
2. レントゲン画像と3Dスキャンデータを基に歯科医が歯列矯正可能だと判断した場合、3Dスキャンから2-3週間後にユーザーは装着6-9ヶ月間の歯並び変化の3Dシミュレーションを受け取ります。
3. 正式申し込みと決済をしてから3-4週間後に矯正用マウスピースが完成し、ユーザーは再度歯科医に訪問して装着テストを受けて利用開始します。
4. ユーザーは5日ごとに歯並びの写真をZenyumアプリにアップロードし、歯科医のチェックを受けながら、矯正の進捗を管理していきます。

米国では2019年に上場して時価総額$3BのSmileDirectClubやCandid、byteなどのスタートアップがあり、中国では愛美可(AirMico)、日本ではキレイライン矯正やOh my teeth、hanaraviなどのサービスが生まれています。

グローバルで多くの歯科矯正スタートアップが勃興している背景には、マウスピース型矯正装置インビザラインを提供する時価総額$19BのAlign Technologyの特許失効がありそうです。

総合ウェルネスD2CのHimsも特許切れのAGA治療薬やバイアグラのジェネリックをD2C型で販売して初期の成長を作っていたりします。D2Cビジネスをやろうとしている方は近々特許が切れる商材を探すのはアリかもですね。

おわりに

これから日本で起業する方や資金調達を考えられている方、アジア圏への事業展開を考えられている方がいらっしゃいましたらご連絡ください!

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ジェネシアからのご案内です。もしよかったら、このリンクの下部にあるTEAM BY GENESIAにご参加ください。
私たちは、このデジタル時代の産業創造に関わるすべてのステークホルダーと、一つのTEAMとして、本質的なDX(デジタルトランスフォーメーション)の実現を目指していきたいと考えています。TEAMにご参加いただいた方には、ジェネシア・ベンチャーズから最新コンテンツやイベント情報をタイムリーにお届けします。

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