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おしゃれじゃない暮らし『漁港の肉子ちゃん』

キクりんはとても繊細。
小学5年生だけど、フラニーとゾーイ―を読むような、そういう女の子。
この物語は、その、キクりんの目線で語られている。

キクりんは、テレビがついた時にいつも驚く。
本を読むと簡単にその世界にのめり込んで、そして簡単には帰ってこれない。
トカゲや布団や椅子や電話や5円玉の、おしゃべりを聞いてる。
そんなキクりんに、私はとても共感を覚える。

キクりんは母である肉子ちゃんのことを、どうしようもないお人よしだと呆れていて、時々恥ずかしいと思ってる。
でも、キクりんは肉子ちゃんの事が大好きだ。
そして読んでいる人たちも、おそらく肉子ちゃんを大好きになってしまう。

肉子ちゃんのライフスタイルはシンプルじゃない。
ましてや、おしゃれ、でも、ミニマム、でも、無駄のない暮らし、でもない。
『親不孝』と書いてある湯呑。
恐竜の足のスリッパ。
ださい達磨に、ひよこ柄のタオル。
ネコの肉球模様のお布団。
100万円貯まる貯金箱に、バドワイザーの起き上がり人形。

もう、無駄だらけのごちゃごちゃ。
混沌としていて、この部屋にいるだけでめまいがしそう。

そして、肉子ちゃんは美人じゃない。
とても太ってて不細工。
佇まいそのものが不細工。
マトリョーシカの一番大きいの、みたい。
前髪を薄ーく垂らしたへんな髪型。
ベティちゃんもどきのTシャツにダイダイのパーカー。
お尻のポケットがピンクのハート型のスェット。
その上、唐草模様のリュックまで背負おうとする。

しかも肉子ちゃんには
悪い男を引き寄せる磁石、まで備わっている。
キクりんの言葉を借りれば、『糞野郎』をすぐに好きになっちゃう、『本当にくだらない男性遍歴』を持った人。

だけど肉子ちゃんは、騙されたと思っていない。
好きになった人のこと、別れてからもずっと好きでいる。
騙されてお金をたくさん搾り取られて、借金まで背負わされてるのに。
底抜けにお人よし。
世の中の『お人よし』っていう言葉を集めて、やわらかなお肉で包んだら、きっと肉子ちゃんが出来上がるんだと思う。

肉子ちゃんはキクりんに『今日はどないな日やったん?』と聞く。
キクりんが『んー、普通』と答えると、
『普通が一番ええのんやでっ!』と答える肉子ちゃん。

肉子ちゃんの前ではきっとだれも恰好つけられない。
格好つけてる自分が、恥ずかしくなってしまう。
肉子ちゃんのそばにいると、きっと思うだろう。
おしゃれな暮らしって、センスがいいって、美しいって、
そんなに大切な事?

そんな、漁港の肉子ちゃんの物語を読んだ。


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